第41話 お見舞い
「だいぶ楽になってきたな」
独り言が木霊する。
階段を降り、顔を洗った俺は、誰もいないリビングに向かった。電気はついておらず、窓から入る日光だけが頼り。けれど十分活動できるだけの光量があった。なんというか、あまり慣れない光景だ。
インドア系の俺ではあるが、誰もおらず、音がひとつもないリビングを見た経験はほとんどない。普段家族で賑わってる場所がこうも静かだと、なんだか物足りないような気がしてしまう。
無人の家に俺1人。なんか途方に暮れた主人公みたいな感覚――
ピンポン、とチャイムが鳴った。
「誰だよ、人が黄昏てるときに」
今何時だ? 5時? だいぶ寝てたんだな。ってなると朝紗か? 鍵でも忘れたのか? ったく、面倒かけさせやがって。
玄関で靴に片足突込み、扉を開ける。
「おかえ――」
「あっ、乙崎君。こんにちは」
「――おおっ⁉ いらっしゃい⁉」
妃奈がいた。制服姿だから学校の帰りなんだろう。ってのは分かるんだけど……なぜ?
「住所は、乙崎君の担任が教えてくれました。今日はお見舞いと、生徒会の資料を渡すために。駅は私が一番近いようだったのと、手が空いていたので」
「あ、はい……え? 上がる?」
「できれば。大したものではないですけど、お見舞いの品も持ってきましたので」
そういって妃奈はレジ袋を掲げる。
正直いきなりのこと過ぎて頭が回ってない。手か俺部屋着だし。何なら熱冷ましまだ張ってる。あれ、掃除してから上げたほうがよかった? いや別に汚くないよな。リビングより俺の部屋がいいか? でも風邪をうつしちゃいけないしな。だったらマスクしなきゃか。マスクどこだっけ。
ぐるぐる悩みながらとりあえず妃奈を家に上げ、マスクを探す。テレビ下の棚の中に紙マスクがあった。どこに入れてんだ。
で、そのままの流れでリビングに。とりあえずソファを進めて、お茶とか出したほうがいいのかな、と思いながらキッチンに向かう。麦茶とか淹れてたっけ。
「あ、お構いなく。自分の水筒、ありますから」
「あ、ああ……じゃあ、とりあえず俺だけ」
母さんも豆な人だ。朝出かける前に買っておいてくれたのだろう。いくつかあるスポーツドリンクの内、1本を手に取って妃奈のもとに戻る。で、ちょっと距離を開けて座る。
「えっと、それで? 生徒会の資料ってのは?」
「こちらです。一応今日から仕事について説明するつもりだったんですけど、不参加だったので」
「あー、言ってたな。まずかったか?」
「大したことは話していませんよ。ただ、年間予定表だけ配ったので」
「え、それだけ? わざわざ悪いな」
「いえ、お見舞いはしないと、と思っていましたので」
ほんと几帳面なやつだ。
資料を渡してもらったけど本当に大したことは書いてない。急ぎの用があるわけでもないし、重症ってわけでもないのに。たったこれだけのために知り合ったばかりの人の家まで行けるとか。
……いや担任。お前勝手に人んちの住所教えんなよ。というか聞く妃奈も妃奈だな。怒るべきか分からなくなってきた。
「……あとは、莉弧ちゃんのことのお礼、でしょうか。おかげで亀裂は入らなくて済みそうです。今日、誕生日プレゼントを渡して、種明かしが出来たので」
「え、今日なのか」
「はい。ギリギリまで悩んでしまったんですよね、プレゼント。この前ボーリング行ったじゃないですか。あれで何か欲しいものを聞き出そうと思ったんですけど、結局聞けなくて。いろいろな意味で大変でした」
「まあ、仲直りできたならよかった。莉弧、あんまり気にした様子無かったしな」
そうだったのか、今日か。うわー、今からでも誕生日おめでとうってロイン送ったほうがいいのかな。それとも明日直接言ったほうがいい? わかんねー。
「莉弧……呼び捨てなんですか?」
「え、ああ。そうしてくれって言われて」
「そう、ですか……仲良くなれたのならいいことですね」
なんだろう。そういう妃奈の笑顔には、どこか元気がないように見えた。




