第4話 一般通過オタク、うっかり一目ぼれしてしまう。
扉を開けて入ってきたのは、絹のような髪の持ち主だった。 白いわけじゃない。艶があり、まっすぐなロングヘア。真っ黒な髪は、色に反して輝いて見える。
粛々とした佇まい。物静かな瞳。スカートの前で組まれた指先は白くて細く、みずみずしい。
「遅れてすみません。及川乃恋と申します」
にっ、と持ち上げられた口元と、耳にかかった髪をかき上げるしぐさを見た瞬間――
鼓動が早くなった。頬が熱くなったし、目を合わせられなくなる。
いや、は? 可愛すぎんか? いやいや、駄目だろあれ。ちょっと待て、人間か? 天使かなんかじゃないのか? そうじゃないならアイドルとかモデルとか、やってなきゃおかしい可愛さしてるんだけど?
及川と名乗った彼女は、生徒会の面々から言葉をかけられて、俺の隣に座った。
生徒会室自体は広いが、長机はそこまで広くない。10人と座れば手狭で、息遣いも聞こえる距離になる。
ちらと横目で見たところ、身長は俺のほうが高いらしい。スタイルがいいのか高身長に見えていたので、なんだか驚いてしまった。
座っている間も背筋が伸びていて気品がある。近くで見れ見るほど髪の艶がよく分かるし、肌も傷ひとつなく白さを放っている。それこそ大和なでしこ、なんて言葉が似合いそうな人だ。
え? なに? 俺今日からこの人と仕事できるのか? やるやる、全然やる。生徒会の手伝いとかどうでもよくてこの人といられるなら全然来る。
「――って感じで今年の業務内容は例年より忙しくなりそうだ。乙崎と及川、よろしく頼むぞ」
「はい。私のできる限りでよければ」
「俺も大丈夫です」
やる気なんて当たり前のようになかったけど、これなら頑張る価値があるというもの。生徒会の手伝い、口実として存分に活用を――
「じゃあ早速、来週から頼むぞ。まずは業務に慣れてもらうために、それぞれ上級生のもとで活動してくれ」
「分かりました」
「はい。……はい?」
今、それぞれ、って聞こえたような。
「どうした乙崎。何か気になることがあるのか? あれば遠慮なく聞いてくれ」
「あいえ、気になることというか……つまり、俺と及川さんは別々で、対面で仕事を教えてもらうってことですか?」
「ん? ああ、そうなる」
「なるほど。……あ、大丈夫です。わかりましたんで」
「そうか。ほかにも質問があれば聞いてくれ。じゃあ次に――」
さて、どうしたものか。正直これ以上ここにいる意味はない。及川さんと仕事ができないんなら来る必要はない。今後一緒に仕事ができるかもしれない? 俺は今を生きる男。そんな先の話をされても――
「こんなところか。……よし、じゃあ今日は解散とするか、仕事もないしな。と、そうそう。これから暇な奴はいるか? 今年はまだやってなかったし、新たな仲間も増える。歓迎会でもやろうと思ってるんだが」
「俺は暇ですけど。どこで何するんです?」
「とりあえずファミレスかカラオケでいいだろ。会計は俺が持つ」
「マジっすか⁉ 俺、行きます!」
なんか会長と湊が盛り上がってる。
帰るのはもう少し後でいいか。及川さんの受け答えによっては俺も行く。
「ほかのみんなはどうだ?」
「私はいきます」
「ウチもウチも!」
妃奈って子と、もう1人湊と一緒に入ってきた子が言う。ほかの上級生のみんなも問題ないらしく、俺たちに視線が向いた。
「えっと、あまり遅くならないなら、ぜひ」
「俺も行きます」
こうして人生初の寄り道が決まった。




