第37話 らしさ
莉弧は唖然とした表情で固まってる。頬に水滴が伝っていて、目か赤らんでる。そんな顔でこちらを見られて、それがどんな感情なの分からなかった。もしかしたら何も言わずにいたほうがいいのかもしれない。
でも、一度走り出したら止まれない。初めて気づいたけど、俺はそんな性分だったらしい。
「莉弧は俺と違っていつも楽し気で、明るくて元気で。そういう雰囲気をみんなに振りまいて。そういう生き方をしてた。そういう役割を熟してきたんだろ?」
「ウチは別に、そういうつもりじゃ」
「つもりじゃなくたってそうやって生きてきたんだろ? じゃあそういう生き方しか出来ないんだよ。俺だってそうだ。好きで誰とも違う趣味で、他の人と関わらないようにして、普通じゃない生き方してる俺カッケーなんて思ってたわけじゃないんだよ」
莉弧は相変わらず戸惑い顔だ。まあ、こんなこと言われたって困るだけだよな。
「気づいたらこうなってた。小学生の頃から友達はいなかったし、誰もやってないレゴの一人遊びやってた。中学生になったらラノベにはまりだしてまた友達はいない。せっかく高校生になったって同じくだ! クラスメイトの名前なんてまともに覚えてないし、ロインだって生徒会メンツだけだ。そして今莉弧たちと遊んでたって、俺の性格は変わってない!」
「い、いやいや。だってよるっち、ウチにあわせてくれったしょ? それに友達いないって感じじゃなくない?」
「えぇ……それは、分かんない。それほんとに俺?」
「そーだけど?」
これで否定の流れってあるんだ。いやまあ、俺たち互いを完全に理解できるほど会ってないけどさ。会ってないけど……。
「ま、まあいいや。俺はボッチなんだよ、基本的に。友達いないし」
「ウチら、友達じゃないの?」
「そ、それは……友達、だと思うけど」
「湊とかは? ひなっちとか、のれっちは?」
「……と、友達……そ、それ以外いないんだよ! 関係すらない! ほかにまともに名前が分かるのは家族だけだ!」
あーもう話がそれた! というか俺、勢いでしゃべってたのに急ブレーキかけられたから摩擦で頬真っ赤だよ。いや何上手いこと言ってんだよ。別にうまくねえよ恥ずかしいなもう!
「と、とにかく!」
変な流れを断ち切るべく声を荒げて、指を莉弧に向ける。
「笑ってない莉弧なんて想像できないし! 楽しくなさそうな莉弧は見てられないから! そういうの、駄目だ! 笑顔になれないとか! 分かったか⁉」
ああもうはっずいはっずい。なれないことなんてマジでするもんじゃない。やっぱカースト外の人間がカースト上位と喋ってもろくなことにならないわ。もう2度とやんねぇ。今後一切の自己主張を自重することをここに誓うわ。
「よるっち、変なの」
語尾が上がる声が聞こえた。今の莉弧がそんな楽し気な声を出すはずがないと思って思わず見ると、笑ってた。いつも通りの笑顔だ。整った顔によく似合う、明るい顔。今にもはしゃぎだしそうな子どもっぽい満面の笑み。
「でも、ありがと。そーだよね! 笑ってないウチとか、ありえないもんね!」
「……お、おう。分かってくれたなら、いいや」
「うんうん、よく分かった! やっぱウチよるっちのこと好きだなー!」
まったく立ち直りの早いことで。こんなことで元気になるんなら、本当にこの雨の中を走ってきたのは全くの無駄――
……。……すき? ……隙? 俺そんなに隙だらけ? いやまあミスばっかだからそうかもしれないけど。でも俺のこと隙ってなんだ? そんな日本語知らないぞ。この文脈で自然なのって好きのほうだよな。しゅきとかそんな感情のほうだよな。しゅき? じゃなくて好き? 何が? 莉弧が? 誰をって? 湊じゃなかったよな。俺? いやいやまさか……。待て、やっぱ好きって何?
……えぇ???????
「……い、いやだなぁ好きとか! 冗談はよしてくれよ!」
「別にじょーだんじゃないよ。話聞いてくれるし、優しいし。交じりっけなくって好きだよ、よるっちみたいな人」
つまりloveではなくlike。私って猫好きなんだよねーくらいの感覚。
い、いやまあ、分かってたけどね? 別に変な勘違いとかしてないけどね? し、してないからな⁉ 誰に言い訳してんだ、俺。




