第31話 デート?
「これとかどーよ?」
「おー、似合ってる」
ショッピングモールへやってきて、莉弧のファッションショーが開幕した。夏物を見たいと言い、すでに3つの店を回った。今のところ何も買ってないけれど、いいのだろうか。
「もー、よるっちそれだけ!」
「うっ……それはその、語彙が足りないと言いますか」
「つまんないなー。まー? 嘘じゃないならいーんだけど。じゃ、また待っててね」
ピシャリと更衣室のカーテンを閉めて、莉弧の姿が隠れる。
それを確認してから、胸をなでおろすように息を吐く。
正直、目のやり場に困る。女性ものの服やなんてほとんど入った経験はない。それこそ自分の服だってまともに買わないのだ、善し悪しだって分からない。けれど、露出が多いものだったり、フリル多めのものだったり、ワンピースとか、スカートとか。どこかスラっとしたシャツとか。
なんかこう、異様に女性らしさを感じる。今まで母さんとか朝紗の付き添いで入ったときには、意識したことなんてなかった。
まさかここまで女性用、ってだけで緊張するとは。
しかも、だ。俺に服を見せてくるのは他でもない莉弧。メイクも適度に熟す今どきっ子の現役JKだぞ? ほんと、どこを見ていいのやら。
目が合えば逸らしちゃうし、胸元まで落ちると変態だし、正直腹部でも脚部でも気持ち悪い。髪の毛見ても手を見ても、その手のフェチ男に見られそう。他人からの評価を気にしないとはいえ、変態と思われるのは嫌だ。これから一緒に仕事していくかもしれないならなおのこと。
精神力がバリバリ削られてる。SAN値は今いくつだろうか。そろそろ正気じゃいられないかもしれない。
もしこれが及川さんだったら、俺は今更死んでたんだろうなぁ……。
「ワンピースとか、似合うのかな」
子どもっぽい衣装なのかもしれないけど、やっぱり美少女と言えば純白のワンピースだ。和服が似合いそうな及川さんだからこそ、純白のワンピースはギャップがあって映えそうだ。そこに麦わら帽子をかぶせて、ひまわり畑に連れていてかもう完璧
――
「あの」
「ん?」
おいおい、俺の素敵な想像を邪魔したのは誰だ。ワンピースの及川さんより重要なことじゃなかったら怒るからな。
そう思って振り返った先にいたのは、及川さんだった。
「あ、あれ? ……及川さん?」
「はい、及川さんです。そういうあなたは乙崎さんですよね?」
「は、はぃ」
思わず消え入るような声で返事する。え? なんでいるん? と言うか今の返事可愛かったな。もしかして幻想? 夢? お茶目なところもあるんだな。いやでもおっちょこいな感じはあったもんな。こんな短いスパンで私服が見れるとか神かよ。なんかもう思い残すこととかないんだけど。
あ、でもやっぱりワンピース着てるとこは見てみたいかも。
「ど、どうしてここに?」
「実は、その……」
乙崎さんが指を差し、顔を向ける。
黒髪が一瞬目の前をよぎって、優しい香りが鼻に抜ける。
ヒノキ、だろうか。なんだか木のぬくもりを感じる香りだ。もしかしてヒノキ湯に浸かっていたりするのだろうか。だとしたら凄い想像に容易い。
じゃなくて。
乙崎さんの指先を追うと、そこには男女のペアがいた。なんだ白昼堂々デートか。高校生くらいにしか見えないのにけしからん、と思って目を凝らす。一体あの2人が何だと……?
「湊と、姫奈?」
「はい。実は冨田さんの誕生日が近いらしく。そのプレゼント選びを、3人でしていたんです。そしたらその、お見掛けしてしまったので」
今度は目の前のカーテンを差す。つまり、莉弧の誕生日プレゼント選びをしていたら、莉弧の姿を見てしまった。だから、莉弧に見つかる前にどうにかしようとしたってわけか。
小声で耳打ちするところとか、口元に手を添える格好とか、座ってる俺に合わせて腰をかがめるところとか、可愛いところが満載で今にも失神しそうなんだけど、その前に1つ確認させてほしい。
莉弧はともかく、なんで俺呼ばれなかったん?
考えるまでもない。どう考えても戦力外だからです疑問に思ってすみませんでした。でも、声くらいかけてくれてもよかったじゃん……!




