第26話 帰り道
なぜか、莉弧の隣を歩くことになっていた。
いや、というのも、あれから莉弧のシフトが終わるまでずっと一緒にいたのだ。迷惑だろうと断ろうとしても、店長まで一緒になっていいからいいからと言ってきた。そこまで言われては俺が断れるわけもなく3時間ほど。
散歩に出たはいいもの結局喋ってる時間のほうが長いまま、10時過ぎ。自転車を引く莉弧とともに帰ることになった。まあどうせ住宅街まで出なくてはいけないのは一緒だし問題ないのだが……。
「歩いて行ったら3時間はかかると思うけど」
「そーだねー。まー、お昼一緒に食べよ。安いお店知ってるんだー」
あそこの生姜焼き定食が美味しくってねー、と語りだした莉弧の話を、俺は半ば聞き流していた。
正直、状況をまだ理解しきれていない。どうして俺は気まぐれで出かけた散歩の帰り道を、陽キャの象徴みたいな人と歩いてるんだ。
「んー? よるっち聞いてる?」
「えっ? あ、ああ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「だいじょーぶ? 疲れた?」
「いやいや、大丈夫。それよりごめん、何の話だっけ」
「えっとねー」
どこから話せばいいのか、とか悩んでいたのだろう。莉弧は目を伏せて考え込んでいた。
ここは車道のわきにある、小さな歩道。本来人が通ることはおろか、並んで歩くなんてことは考えられていない。狭く、窮屈な一本道。
自転車のタイヤが段差に乗り上げて、莉弧の体がふらついた。
「へ?」
「っ、危ない!」
間が悪いとはまさにこのこと。莉弧が車道側に倒れかけると同時、車が来た。ここまでほとんどすれ違ってこなかったのに。
というか、そもそも莉弧に車道側を歩かせたの間違いだった。男が車道側を歩くべきってのもそうだし、こういうことを全く想像できなかったわけでもない。状況に振り回されて、頭が回ってなかったらしい。
俺は、とっさに腕を伸ばした。自転車のサドルと持ち手を引き寄せる。
莉弧はとっさのことで自転車を手放せていない。莉弧だけ引っ張ってもいい。けど、自転車が車にぶつかって、飛んで来たら危ない。
自転車の車体ごと莉弧の車体を横にひいて、受け止める。すぐ後ろは低木。倒れ込むわけにもいかず、全力で踏ん張る。
はは、マジでこんなことなら普段から鍛えておけばよかった。いま、すっごい足に負担かかってる。莉弧と自転車の重さをいっぺんに支えながら耐えること、数秒。
永遠のようにも感じたその数秒の後、車はわずかな風と共に過ぎ去った。
「セ、セーフ……」
それからまた数秒って、何とか吐き出されたのは莉弧のそんな言葉。きっと莉弧も莉弧で混乱しているのだろう。それっきり、しばらく言葉は出てこない。あと、体勢を直そうとはしてくれない。
あのー、そろそろきついんですけど? 女性に重いとかいうのは失礼だって言うのは重々承知なんですけど、重いです。はい、私の貧弱な腕と足じゃ耐えられません。え? 貧弱なお前が悪いって? そのまま潰れてしまえと? あはは、手厳しい……あの、マジで無理。もう限界! ちょ、マジで!
「ああっ! よるっちごめん! だいじょぶ⁉」
俺の念が通じたのか、莉弧は慌てて振り返ってくる。どうにかこうにか傾いていた体を起こし、自転車を支えた。俺はその様子を見て掴んでいた自転車を放し……低木に倒れ込んだ。
そりゃそうだ。一応自転車で支えてたんだもん、俺の体。支えあってたんだもん。支えを失ったら、当然こうなる。
「ちょ、マジでだいじょぶ⁉ きゅーきゅーしゃ呼ぶ⁉」
「だ、大丈夫……」
低木の上。背中に刺さる小さな痛みに耐えながら、何とかそんな言葉を吐き出した。




