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第25話 お客様と

 莉弧はよっぽど暇だったらしい。俺がおにぎりを決め、続いて飲み物を決めるまで、ずっと後ろについてきた。そして当たり障りのない世間話をしながら、ゆったりとレジへ。

 莉弧はカウンターの向こう側に立って商品のバーコードを読み始めた。


「袋いるー?」

「ああ、いらないで……いらない、すぐ食べるから」

「そー? えっとー、全部で412円。現金?」

「いや、交通系」

「はーい」


 こんなにフランクな定員さんとのやり取りは初めてだった。

 どーぞー、と言われたのでスマホをかざすと、ピピっ、と電子音が響いた。


「それ――」

「それでー? よるっちはどったん? 家近いん?」

「……まあ、近くはないかな」


 それじゃあ、と言って立ち去ろうとすると、新たな話題を振られた。

 先ほどから俺以外にお客さんは来ていない。喋り相手が欲しいってことか。よっぽど暇で仕方ないのだろう。


「じゃあなんでー?」

「散歩をね。ちょっと遠出しようとしたら、こんなとこまで」

「えーっ⁉ ここまで歩いてきたの? 3時間くらい?」

「いや、1時間。近道があって」

「そーなんだ。1時間も歩いてきたとか、散歩好きなんー?」

「まあ、趣味みたいな?」

「ふーん、めっちゃいーじゃん!」

「そうかな? あはは……」


 ……え、ちょっと待って。めっちゃしゃべりやすいんだけど。おっと喋り方が現代的に。

 いや、なんかこう、持ち上げられているというか。ついつい喋っちゃうって言うか。普段の俺じゃあここまで会話は続かない。気が利くであろう妃奈と喋る時だってこうはいかない。及川さんとの時はひどいの一言だったし。


「そんでそんで? いつもはどこ歩いてんの?」

「い、いつもはこんなところまでは来ないんだ。今日は本当に気が向いただけで」

「へー? じゃあ本当にぐーぜんなんだ? ウチ、いつもはこの時間じゃないし」

「夕勤?」

「そー。きょーは休みっしょ? だから入ったんだけどー」

「なるほど」


 わざわざ休日にシフトを入れるとは、働き者らしい。

 


「そんでさー、てんちょー2時間遅刻らしいし? お客様誰も来ないし? 暇だったん。よるっちマジ神」

「あー……そりゃあ、タイミングよかったな」

 

 そんな状況なら、顔見知りを見て思わず話しかけたくなる気持ちもわかるというもの。断腸の思いではあるだろうけど、猫の手も借りたかったんだろうな。話し相手になるだけだから人形でもよさそうだけど。スマホは……さすがに仕事中には出せないか。


「ねー。よるっちウチの心読んでんじゃね? 運命だわー」

「あはは……そうかもな」


 莉弧は笑顔を浮かべながら話してる。俺なんかと喋ってても面白いわけないのに、こんな笑顔を浮かべられると、すごく楽しくお喋りできているんじゃないかなと思えてしまう。


 それから、どれくらい談笑してただろうか。気づけば手元のおにぎりと飲み物はなくなり、莉弧と一緒に飲み物を追加購入して、何ならコンビニバイトの手伝いをしてみたりして……お客さんが2、3人くらいしか来ないまま、店長らしい人が来た。

 

「あれ、冨田さん、お友達?」

「うん、そうだよてんちょー。よるっち」

「よるっちってことは、よる君、かい? 珍しい名前だね」

「ウチのほうが珍しいっしょー」

「あー、確かに。あんまり違和感なかったな」

 

 ……一瞬でも、莉弧は俺だから楽しそうに喋ってくれていると思った俺を裁いてくれ。むしろ殺してくれて構わない。

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