第21話 莉弧
「おお、お上手ですね」
「湊君、さすがです」
「案外できるもんだなぁ」
リフティング、というんだったか。ボールを下から蹴って、落とさないようにするやつ。湊がそれを及川さんと妃奈に披露する中、俺はコートの外でベンチに座っていた。足を負傷したため、見学だ。
「よるっち、だいじょぶー?」
「冨田さん? はい、大丈夫ですよ」
莉弧も休憩だろうか。ペットボトルのふたを開けながら、俺の隣に座った。
「あのさー」
「はい」
「よるっちってうんち?」
「うん……」
え? 待ってなんて? うんち? トイレ行きたそうにしてたか? てか女子高校生から出る言葉か? というかたぶんそうじゃないよな? 俺がうんちか? 俺=うんち? 俺isうんち? え? 何俺って臭い? 水に流されてしかるべくくらい不潔? え? え? え? 死んだほうがいい?
「……ああ、運動音痴。そうですね、運動は苦手です」
「そっかー。無理に誘っちゃってごめんねー」
「いえ。楽しいですし」
あっぶねぇ危うく自殺しかけた。
うんちが運動音痴の略称だと気づけなかったら終わってた。
「楽しーならいーんだけどねー……湊はこーゆーの好きだから、キツいなら言ったほーがいーよ?」
「本当に大丈夫ですよ。誘ってもらえるだけで」
中学生の頃はおろか小学生の頃だってまともに遊びに誘われたことはなかったしな。
「ふーん」
莉弧はあいまいに返事して、ペットボトルに口をつける。所詮世間話。俺相手に振れるような話題は、やっぱり多くないらしい。かといって俺から話しかけるのもあれだ。面倒に思われてもなんだし、ここは黙って――
「そーいえば、よるっちはひなっちとのれっち、どっちが好きなの?」
「……へ?」
ひなっちは、妃奈だよな。のれっちって、及川さんの名前だよな? 乃恋ののれ。じゃあ俺、今何聞かれてるんだ? どっちが好きか? どっちのことが好みか? whith do you love? ……は?
「い、いやいや、どっちが好きって言うか、そもそも好きでは……」
「えー? だって、ひなっちにだけタメだし、のれっちのことは明らか見てるしー?」
「……」
バレてるー⁉ え⁉ 俺、そんなにわかりやすく及川さん見てたか⁉ 女子は視線に敏感ってのは聞くけど、そこまでか? え? もしかして妃奈とか及川さん本人にもバレバレ? え? 変態って思われたりしてない? 私のことそんな目で見てたの? キモ? とか思われてない⁉
「まー別に、いーたくないならいーんだけどね? どっちか気になってるなら、うち、協力できるし」
「きょ、協力って……ち、ちなみにどんなことを?」
「そりゃ、ダブルデート組んだり、ペアになるよーしたり? 話題探るのだってうちなら楽だし?」
「お、おぉ……」
これが今時JKの手腕ってやつか。てっきり莉弧は頭お花畑系だと思っていたがそういうわけでもないらしい。さすが生徒会のメンバー。
「その、さ」
俺が感心していると、莉弧が声を潜めて言う。なんだろうと思って横を見ると、莉弧の頬は赤く染まっていた。明らかに照れていて、これからいう言葉を躊躇している様子。
どうしたんだろうと待っていると、意を決した様子で莉弧が言う。
「代わり、に。うちが湊と付き合うの、手伝って、ほしい」
つまりつまりの言葉で言って、莉弧は完全にうつむいてしまう。よっぽど勇気を振り絞ったのだろう。顔を真っ赤にし、沈黙してしまった。
そんな莉弧に、俺は思った。
お前ら、付き合ってなかったんかい、と。




