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第16話 お散歩日和

 コンビニで飲み物を調達した。ちなみに及川さんが買ったのはスポーツドリンク。緑茶と予想していたので少し悔しい。いや、何を勝負してるんだって感じではあるが。

 それから及川さんと一緒にお散歩に行くことになった。と言っても辺りをただ歩くだけらしい。及川さんは、知らない場所を歩くのが好きだという。


「実は、普段の休日もこうしてお散歩しているんです。最寄り駅の周りから、少しずつ。伊能忠敬という人はご存じですか? あそこまで綿密なものではありませんが、私専用の地図も作ってるんですよ?」


 歩きながら、及川さんはそんなことを語ってくれた。正直ほとんどの時間横顔に見とれていた気がするが、それでも及川さんの話はすんなり頭に入ってきていた。


「学校の最寄り駅周辺の地図は、もうほとんど完成です。次はちょうどこの駅の周りを、と思っていたので、下見ができて嬉しいです」

「今日は地図持ってきてないんですか?」

「ええ。お友達と遊ぶのに、邪魔になってしまってはいけません。手荷物は最低限に、と、お母様から言いつけられているんです」

「へぇ」


 なんて、そんな単調な返事しかできなくても、及川さんは楽しげに話しをしてくれる。


「この前皆さんとお店を回って、地図がしっかりと完成したら、今度は地図にお店のことも書き足していこうと考えているんです。からおけとふぁみれす、ほかにもカフェやレストラン。飲食店だけじゃなくて、ほかにもいろいろ、面白そうなお店を見かけましたから」


 なんか、胸があったかい気持ちになる。柔らかい口調とか、朗らかな笑顔とか。及川さんを見ていると、顔の筋肉が緩んでいく気がする。ただ歩いてるだけだから世間知らずっぽい一面が見えてないのもあるかもしれない。


 にしても、今カフェとかレストランだけ明らかに発音よかったよな。どういう違いがあってふぁみれすなんかはひらがなになるんだろう。


「あ、そうだ。乙崎さんには何か趣味がおありで?」


 趣味? 趣味かぁ。その話をすると長くなるよ? ラノベにアニメ、ボカロ。マンガも読むしアニソンとか声優オタクでもある。正直自分の趣味についてなら何時間でも――


「読書、かな」

「まあ、いいですね。私、あまり長い文章は得意じゃなくて」


 ――語ることは出来なかった。出来るわけない。こんな穏やかな時間過ごしてるのに趣味の話とかできるわけないだろ……!


「どんな本を読まれるのですか?」

「そう、ですね。まあ文豪(が登場人物)の作品はもちろん(とある)科学の本だったり、最近だと天動説について(アニメで)みましたね」

「おお、すごいですね!」

「……あ、ありがとうございます」


 やばい。いつだって見たいはずの及川さんの笑顔だけど、今だけは見れる気がしない。

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