第14話 一般通過オタクの休日
及川さんと出会った週の土曜日、普段は音沙汰無いスマホが急に震えた。故障でもしたのかと思って読んでいたラノベ本を投げ出し、画面を付ける。すると見慣れないアイコンと、こんな文言が目についた。
「この前お話ししたおすすめのボイストレーナー一覧、よろつべのURLと並べて送りますね」
……ああ、妃奈からのロインか。受信したことがなさ過ぎて通知音知らなかった。
開いてみると先ほどの文言の後に続いて、いくつかのハンドルネームとURLが並べられていた。しかも丁寧にどういう部分がおすすめなのかと実績までまとめている。どうやら最初に握っていたノートは伊達ではなかったようだ。
ここまでしてもらって何の返信もしないのは失礼だとさすがの俺でも分かるので、ありがとう、助かる、と、そっけないとは思いつつ気の利く言葉も思いつかないので送っておいた。あんまり需要は感じないが、せっかくだしあとで少し見てみるとしよう。
その日の夕食後、さっそく妃奈にもらったURLから飛んで動画を見ていると、部屋の扉がノックされた。
「にぃに……じゃなかった。夜瑠、お風呂空いたよ」
「ん? おお、分かった」
夜の次に来るのは? もちろん朝だ。
というわけで俺の妹朝紗風呂上りverが入ってきた。タオルを首にかけ、髪を乾かしてすらいない姿を見てさすがの俺でもどうかと思ってしまう。中学生にもなるのに俺と同様外見を気にしすらしない。せめて髪の手入れくらいすれば、及川さんほどじゃないとはいえ美少女になれるかもしれないのに。
「あれ、に……夜瑠がスマホ見てるなんて珍しい」
「あのさ、呼びやすいほうでいいんだぞ?」
「いや。にぃにとか恥ずかしいし」
「どうせ外じゃ俺のこと呼んだりしないだろうに」
「家の中でも恥ずかしいの! ……で? 何見てるの?」
「ボイトレ」
「ボイ……ああ、ボイストレーナー。へぇ、歌でも歌うの?」
てとてと、と明らかに水分を含んだ足音が近づいてきた。こいつ、足すらまともに拭いてないのか。
「この前夜遅かっただろ?」
「うん。カラオケ行ったんだっけ。にぃにがカラオケとか珍しいよね」
「ん。で、あんまりに下手だったから」
「ははっ、そりゃそうだ! にぃに音感ないもん!」
腹抱えて笑ってる朝紗だが、にぃに呼び出てしまっているのを笑ってやるのはさすがに可哀そうだろうか。まあ俺は大人なので心の中で笑うに留めてやることにする。
「まあそういうことだから、面白いもんでもないぞ。さっさと寝ろ」
「えー? いいじゃん別にぃ。私まだスマホもらってないからさぁ」
「要するに、中学生はこの時間にスマホを見るな、ってことだろ?」
「ばれなきゃ犯罪じゃないんですぅ」
「俺が告げ口すれば一発アウトなんだが?」
「そんなことしたら次の数量限定品買うの手伝ってあげないよ?」
「くっ、卑怯な真似を」
にしし、と意地汚く笑う。品はないが、まあ愛嬌はあるんだよなぁ。どうしてこう同じ血のはずなのに目鼻立ちからして違うのだろうか。
なんて思っていると、スマホが震えた。
「ん? ロイン? にぃについに入れたの?」
「入れさせられた」
「なんで強制?」
「普及率の問題だ」
「へぇ、普及率」
よく分かっていなさそうな返事を聞き流し、誰から何が送られてきたのか確認する。果たして湊か妃奈か。十中八九妃奈だろう、なんて思っていたので、名前を見て普通に驚いてしまった。
そう、湊からのものだったのだ。
「明日暇か? この前の1年組で遊ばね? ってことになったんだけど……まあ、暇だな」
いや、暇かどうか尋ねるなんて正直愚の骨頂だ。俺に予定なんてあるわけない。それこそイベント日とかでさえなければ365日いつだって暇だ。
これでもし及川さんも行くなら、というか及川さんが行く可能性がかけらでもあるのだから行く以外の選択肢はないのだが、どう返したものか。
「に、にぃにが遊びに誘われた⁉ お、お母さん大変! 明日台風来る!」
おい。それだと及川さんと遊べないだろ。




