第13話 一般通過オタク、通過する。
翌日。俺は機会をうかがっていた。何のって? そりゃもちろん、及川さんを盗み見るためのだ。
もちろん犯罪的なものではない。ただちょっと、偶然を装って教室の前を通り、扉の隙間からチラッと見る程度。変質者扱いされるのはごめんだからな。
昨日家に帰ってからありとあらゆる学校資料を探し回り、及川さんのクラスを特定した。というのも、我が校は珍しく1年次から文理選択がある。正確に言えば入学時テストで文系が得意だった人たちのクラス、と、理系が得意だった人たちのクラス、に分けられているのだ。
妃奈から及川さんは文系らしいという情報を仕入れていたうえ、文系クラスは1組と2組だけ。唯一例外の特進クラスの可能性は、入学時テストの結果から排除済みだ。特進クラスは規定上16人。入学時テストは上位30人の名前が出されており、かつクラスも書き出されていた。特進クラスの生徒16人は全員30位以内だったので及川さんが2組なのは間違いないだろう。
……いや、普通に何やってんだ俺。友達がいればもっと簡単に分かった話のはずなのに。あ、俺にとってはそれが何より難しいんだった。
というわけで1時間目の昼休み、俺は2組の前を訪れた。移動教室のタイミングなのでほかの生徒から見ても何の不自然もないはず――
――俺はとっさに物陰に隠れた。いや、多分隠れられてない教室前に置いてあった余った机の後ろだし。
というのも、さっそく及川さんを見つけてしまったのだ。ちょうど廊下に出てご友人とお喋りをしていらっしゃるようす。俺はどうしてこんなに目立つ美少女を今まで見逃してたんだろう。……あ、俺が現実見えない系だからか。いや多分妃奈も実際に現実が見えてないとは思ってなかっただろうけど。
とにかく、及川さんは同級生と思われる女生徒と何やら喋っているようだ。教科書を小脇に抱えているのを見るに、移動教室からの帰りだろうか。だとしたら非常にラッキーだ。わざわざ教室の中を除く手間が省けた。
相変わらず手入れが行き届いた滑らかな黒髪、口元に手を当てる上品な笑い方、そして何より雛菊を思い描かせる愛らしい笑顔。俺の語彙力のすべてを投入しても到底言い表せないその美しさに、俺の疲労感はすべて消え去っていた。一家に一人及川さんがいればストレス社会は終焉を迎えるのではないだろうか。
にしてもこう、一緒にいるお友達まで華やかに見えるのはもはや才能だよな。いや、実際外見に気を使っていそうではある。でも、及川さんと並べば霞んでしまいそうだ。でもそうじゃなく、お互いを引き立てるような関係性に見える。もはや芸術作品の域だ。
「あら? 乙崎さ――」
はぁ……この人をまじかで見れるとかマジでこの学校来てよかった。まだ入学からほとんど経ってないけどもはや悔いはない。
そんな充実感を覚えながら、俺は次の教室に向かうことにした。
「――人違い、でしたかね」
「及川さん? どうかしたの?」
「ああいえ、何でもありません。少し気が散ってしまっていたようです」
最後にもう1度だけ及川さんを見たくて振り返る。
ちょうど後ろ髪が大きく揺れたところだ。こういう動きのある一面も綺麗とか、もはやずるいと言わざるを得ない。




