第12話 一般通過オタク、帰宅する。
「稲生会長、ごちになりました!」
「かいちょーありがとー!」
「ごちそうさまです、稲生会長」
「おう、お粗末さまだ!」
別にあんたが作ったわけじゃないだろう、という言葉はさすがに心の中だけにしておく。妃奈に変なキャラってばれただけでも正直致命傷だ。
どういうわけか特大ピザの大半を押し付けられ、俺の人生初寄り道ファミレスは終了した。さすがにファミレスくらいはきたことある。その名の通り家族と一緒に。
そんな見栄は置いておいて、名残惜しい限りだが解散の流れとなった。時刻は8時手前。健全な高校生が帰宅するには無難な時刻だろう。
「皆さん、今日は本当にありがとうございました。おかげでよい経験ができました。これからもどうぞよろしくお願いします」
「ん? おう! こっちこそよろしくな!」
及川さんは相変わらず丁寧な所作だ。結構な時間遊んで疲れてるはずなのに、一切その様子を見せない。やっぱりどこぞの華族とかじゃないのかと疑ってしまう。
「電車組とはここでお別れだな。日南と、早迫と冨田は歩きだったよな。乙崎と及川はどっちだ?」
「私は電車ですね」
「あ、俺もです」
「そうか。じゃあ宇都羅道と一緒だな。それじゃ、また今度な!」
宇都羅道というと――
「じゃあ乙崎君、及川さん、行きましょうか」
妃奈のことか。苗字までは覚えてなかったな。
会長たちを見送った後、3人で駅まで向かう。
「2人はどっち方面ですか? 私は上りです」
「私もです。同じですね」
嬉しいです、と及川さん。こういうところで一喜一憂できる素直さ、見習いたいね。
「乙崎君はどうですか?」
「俺も登りだな」
「あれ、2人共ですか? にしては駅で見かけた覚えたないんですけど」
「時間が違うんじゃないか? 俺は8時の電車に乗ってて、帰りは放課後すぐって感じだ」
「なるほど、なら会うわけありませんね。私は7時半の電車に乗って、帰りは生徒会の仕事やってますから。及川さんは? 何時の電車に乗ってますか?」
へぇ、生徒会って忙しいんだな。もしかして、俺もこれからそういう日々を送ることになるのか? だとしたら一番の問題は朝起きられるかどうかだな。
「私は始発の電車に乗って、この辺りをお散歩するのが日課です。あと少しであっちの川からあっちの川まで、全部回れるんです」
「え? それって結構広いような……」
結構どころじゃない。自転車で回ろうとしたって半日かかる広さだぞ。徒歩で、それもすべての道だとしたら想像もできない。道のりで言ったらフルマラソン2回は余裕でできるはずだ。
というか始発って何時だ。俺知らないんだけど。普通に日登ってなくね? まだ6月入ったばっかりだぞ?
「帰りは基本的にすぐ帰りますけど、代わりに歩いて帰ることが多いので、電車はあまり使わないですね」
「及川さんは歩くのが好きなんですか?」
「はい、とっても。いろんな景色をゆったりと楽しむ。皆さんとは趣味趣向が異なるかもしれませんが、私にはとっても大切な時間です」
「珍しいですね。でも、とっても素敵な趣味だと思います」
うふふ、あはは、と笑いあいながら2人は改札を超え、電車に乗り込んでいく。それをすぐ後ろから眺める俺。
……あれ? 結局あぶれてね?




