第11話 一般通過オタク、レクチャーする。
「これがどりんくばーですか」
「はい、ドリンクバーです」
感嘆の息を漏らしていた。いや、感動するほどじゃないけどね?
「これはどう使うものなのですか?」
「えっと、このパネルを操作して、出したい飲み物を選択した後、ボタンを押してコップに注ぐんですよ」
「なるほど、分かりました」
及川さんはだいぶ慎重にではあったがパネルを操作し始め、飲み物の種類の多さに驚きの声を上げた。
よかった。これがもしコップでレバーを押して注ぐタイプだったら手をジュースで濡らしていた可能性があった。それかあれ。海外の人が指でわっか作ってレバー押すやつ。
「では、このボタンを押して……あら?」
「どうし……」
ぼとぼとぼと。そんなむなしい音を立てたのは、ドリンクバーからこぼれるオレンジジュース。受け皿がないオレンジジュースは容赦なく排水溝に吸い込まれていった。
「及川さん、先にコップを置くんですよ」
「おお、そういうことでしたか」
んんっ、時代錯誤! まさかここまでとは思わなかったよ!
「コップは……あ、ありました。こうですね。えいっ。あ、できました!」
なんて言って喜ぶ及川さんは可愛いのだが、そんなことで一喜一憂しているとこちら側の身が持たないと思うので配慮願いたい。……あれ? そういえば、カラオケの時ドリンクバー使ってなかったっけ?
「及川さん、カラオケの時はどうしてたんです? ドリンクバー、使ってましたよね?」
「へ? ああ、あれですか。あの時はコップを用意していただけていましたし、指で輪っかを作って押す方式のものでしたので」
「…………なるほど」
指輪っか、やった後だったかぁ。うわぁ、なんか見たかったかも。あれ、結構後悔してるぞ俺。うわ、見たかった。やってもらおうかな。でも衛生的にも常識的にもいろいろ問題が――
「こほんっ」
「あ、すみません……って、日南副会長?」
「何をいつまでぐずぐずしてるの? あんまり長いとほかの人に迷惑でしょ」
「す、すみません!」
「分かればいいのよ。早く済ませて」
「は、はい!」
や、やっぱり怖い人だったらしい。なんかこう、視線だけで人をさせそうな覇気があった。
俺は適当にドリンクを注ぎ、急いで席に戻った。
「戻ったか乙崎。なあ、ピザ食べるか?」
「はい? どういう意味です?」
席に戻って早々、莉弧と一緒にメニューを見てる湊がそんなことを言ってきた。
「いやさ、莉弧がピザ食べたいっていうんだけどこれが大きいっぽくてさ。会長副会長と妃奈が食べないらしいから、食べるの協力してくんないかなって」
「まあ、それくらいなら。よし! 及川はどうだ?」
「ピッツァ、ですよね? はい、ぜひ」
「ぴ、ぴっつぁ? ま、まあそれなら助かる!」
……え、なんでそこだけネイティブ? 湊の驚きももっともだ。だってひらがな英語の人だぞ? あれだろうか。社交の場でよく食べるものだから知ってる、みたいな。いや、社交の場に出席してるって前提がおかしいかもだけど。
及川さんの謎はますます深まるばかりだった。




