第10話 一般通過オタク、ファミレスに行く。
そうこうしているうちにファミレスに到着。今回は6人ということもあって全員で席に着くことができた。
「よし、何でも好きに頼んでくれよ!」
「いぇーい! かいちょー太っ腹ー!」
「ごちになります!」
なんか、会長にこの2人が帰すのは天丼ネタらしい。日南副会長はというと、ただ静かにメニューを見ているだけ。妃奈はノートを開いて何かを書き始めていて、及川さんは……。
「ふぁみれす、という場所には始めてきましたけど、いろんなお料理があるんですね。どれがいいか迷っちゃいます」
……何この子、あざとすぎるだろ。いや、ふぁみれす、って。文字に起こせばひらがなってすぐに分かる喋り方だったぞ。多分Dをでーって言う。
「とりあえず全員分のドリンクバーと、あとは適当に頼んでくれ」
「いや、ちょっと待ってよ。私まだその子に自己紹介してないと思うんだけど」
「え? ああ、悪い悪い。忘れてた」
割って入ったのは日南副会長だ。思ったよりも、気さく? 声も鋭いっていうよりは柔らかい感じがした。
「こほんっ」
おい、今こほんって言った。こほんって言った。
「私は日南響華よ。一応この駄目会長のしりぬぐいをしてるわ。よろしく、乙崎」
「よ、よろしくお願いします」
力強い笑顔に思わず背筋が伸びる。ど、どっちだ? やっぱり怖い感じか? 怒らせたらやばい感じか? わ、分からん。分からんけど、気を付けよう。
「じゃ、ドリンクバー行ってくるねー」
「あ、俺も行く」
「じゃあ私も行きますかね」
1年組が立て続けに席を立ってドリンクバーに向かった。残された4人のうち、稲生会長と日南副会長が何かを楽しそうに喋ってる。
……って、ことは?
「えっと。及川さんはいいんですか?」
「はい。大勢で押しかけては迷惑になってしまいますので」
「そうですね」
……え? 俺会話下手? ちょ、ちょっと待て。なに? もしかして緊張してるとか? いやいや、そんなわけ。
「ファミレス来るの初めてなんですよね?」
「はい。普段はお家でしかご飯を食べませんから」
「へぇ。今時珍しいですね」
…………ま、待て。まだ結論付けるのは早い。俺が会話が下手なんてそんなこと。
「どこかの名家だったりします?」
「名家だなんて恐縮です。ですが、ちょっと顔が広いくらいですよ」
「すごいですね」
…………。……? あ、駄目だ。死のう。
い、いや、早まるのはやめよう。何も生まれない。それより現状の改善に努めるべきだ。レベリングはどこでできますか?
「あ、そうだ。乙崎さん、もしよろしければ、ここの作法を教えていただけませんか? 何か阻喪があってはいけませんので」
「え? さ、作法? えっと、俺の分かることなら?」
「本当ですか? ありがとうございます」
ぱぁっ、と輝くような笑顔を浮かべた。両手を合わせて頬の横に置くしぐさとか、何もかもが静かで丁寧なのに、どうしてこんなに輝いて見えるんだろう。
しかも、この笑顔を作ったのが俺っていうのがなんか無性に嬉しい。さっきのにやつきとかとは違う。心臓が早まったりもしない。なんか、あったかい感じがする。
「乙崎君、戻ったので次どうぞ」
「え? あ、ああ、ありがとう」
俺と及川さんは窓側の席。戻ってきた妃奈たちが、通路側を埋めないように廊下で待ってくれていた。
及川さんとそろって立ち上がり、ドリンクバーまで向かう。なんかそれだけで、やけにテンションが上がってしまった。




