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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第9話:少女の願い

ドールを追いかけたアッシュとシエルは、洋館の最上階にある一室にたどり着いた。

重厚な木製の扉を押し開けると、冷たい空気が二人を包み込む。

部屋は窓が板で塞がれ、昼間だというのに薄暗い。壁紙は剥がれ落ち、床には埃が積もり、時間の流れから取り残されたかのように荒れ果てていた。


しかし、部屋の中央だけは、まるで時間の流れから切り離されたかのように埃が積もっておらず、そこに古びたオルゴールが置かれている。

そして、そのオルゴールの周りには、小さな花柄のレースの切れ端が散らばっていた。


「この部屋は……?」


シエルは、部屋の様子を見てそう呟いた。


「どうした、シエル。ここってただの物置じゃないのか?」


アッシュが尋ねると、シエルは床に落ちていたレースの切れ端を拾い上げた。


「違うわ。あそこのベッドは人が使っていた形跡がある。それに、このレースの切れ端……これは、子供服に使われるものよ。きっと、この部屋は、誰かが使っていた部屋よ。おそらく、女性の部屋だったんじゃないかしら。」


シエルが言うと、アッシュも鼻を鳴らして匂いを嗅いだ。

確かに、埃っぽい匂いの中に、かすかに甘い花の香りが混じっている。


「それにしても、なんで窓を板で塞いでいたんだろうな? まるで部屋から出るのを禁止していたみたいだ。」


アッシュの疑問に、シエルは淡々と答えた。


「恐らく、ここに住んでいた研究者がやったことでしょう。古代技術の実験は、外部からの干渉を防ぐ必要がある場合が多い。窓を塞ぐことで、実験中に発生する光や音を外に漏らさないようにしていたのかもしれないわね。」


シエルの言葉に、アッシュは納得したように頷いた。


「それで、このオルゴールと動かなくなったドールになんの関係があるっていうんだ?」


アッシュが尋ねると、シエルはオルゴールを手に取った。


「ドールはこの前で止まったわ。つまりこのオルゴールを見つけろとドールが私たちを連れてきたのかも。ネジが錆びついていて、もう動かないみたいだけど……」


シエルはそう言って、懐から工具を取り出した。

シエルは、慣れた手つきでオルゴールを分解していく。その様子を見て、アッシュは感心する。


「お前、本当に何でもできるんだな。」

「当たり前じゃない。これでも、元科学技術院の研究主任だったのよ。こんな簡単なオルゴール、朝飯前よ。」


シエルはそう言って、誇らしげに胸を張った。


数分後、シエルはオルゴールの修理を終え、オルゴールのネジを巻いた。

すると、オルゴールから美しいメロディが流れ出し、ドールの体がカタカタと音を立て出したかと思うとすぐに静かに止まった。


「あ……」


アッシュは、ドールが止まったことに驚きを隠せない。

すると、二人の目の前に、突然一人の少女の姿が現れた。

姿からして17、8歳ぐらいだろう。


「ひゃっ!?」


シエルは、あまりのことに思わず悲鳴を上げてアッシュに抱きついた。


「シエル!どうした!?」

「ア、アッシュ……! 幽霊、幽霊よぉぉ……!」


いつも冷静沈着なシエルがパニックになる。

そういや昔からこいつ幽霊とかは苦手だったな、アッシュは昔を思い出しながら、そんなシエルを落ち着かせようと背中をさする。


「落ち着け、シエル。大丈夫だ。ただの幻影だ。ほら、よく見てみろ。」


アッシュの言葉に、シエルは恐る恐る目を開ける。

よく見るとその姿はドールの目から出ている光によって映されていた。

少女は、微笑んでアッシュとシエルに深々と頭を下げた。


「ありがとう……」


少女はそう言うと、微笑んでアッシュとシエルに深々と頭を下げた。


「あなたは……?」


シエルは、まだ震える声で尋ねた。少女は悲しい顔で語り始める。


「私はリン、この屋敷の持ち主であるフランク伯爵の娘でした。ある日、病に倒れてしまい、この洋館で古代技術を研究していた科学者に、私を助けてほしいとお願いしました。父は私の魂をドールに移すことで、私を助けようとしたのです。しかし実験は失敗に終わり、私の魂は不完全な状態でドールに宿ってしまい、この洋館に閉じ込められてしまいました。」


少女はそう言うと、静かに涙を流した。


「なるほど……確かに古代遺跡でそんな技術はあった気がするわ。でも報告であった不気味な声というのは……?」


シエルが尋ねると、少女は頷いた。


「はい。私の魂が不完全なため、ドールに宿った古代技術の部品が、不安定な振動を起こしていました。それが、唸り声のように聞こえていたのだと思います。」

「なるほどな……。にしても、こんなところに一人ぼっちで……辛かっただろうな……」


アッシュは、リンの悲しい過去に同情し、静かに語りかけた。リンはアッシュの言葉に、嬉しそうに微笑んだ。


「大丈夫です。でも、最後に一つだけ、お願いがあります。私の父に、このオルゴールとドールを届けてくれませんか? そして、父に伝えてほしいのです……『リンは、いつまでも父のことが大好きでした』と……」


リンはそう言うと、その体が再び淡い光を放ち始めた。

その光は次第に強くなり、彼女の輪郭をぼやけさせていく。


「リン……!」


アッシュが思わず手を伸ばすと、リンは静かに首を振った。


「もう時間がないようです。でも、お願いです。どうか……どうか、私の父に、この想いを届けてください……」


リンはそう言い残すと、光の粒子となってゆっくりと消えていった。

そして、その光はオルゴールに吸い込まれていき、オルゴールは再び静寂に包まれた。


「アッシュ……」

「ああ、このドールとオルゴールを伯爵に届けよう。」


二人は大事にオルゴールとドールを抱えると洋館を後にしたのだった。



翌日、二人はフランク伯爵邸を訪ねた。

初めは依頼に来た執事が対応していたのだが、どうしても伯爵本人に話をしたいと言うと執事は確認を取って伯爵の部屋へと案内してくれた。

部屋に入ると豪華な衣装を身に纏った男が待ち構えていた。


「お前たち依頼をした何でも屋か。それで私にどうしても伝えたい事とはなんだ?」

「ああ、届け物を持ってきたんだ。」


そう言うとアッシュは担いでいた荷袋からオルゴールとドールを取り出し、机の上に置く。


「これはなんだ……? わざわざあの洋館から持ってきたのか……?」

「これにはあなたの娘さんだったリンさんの魂が込められています。」


アッシュに代わってシエルが話をする。


「リンの魂だと? お前たち、リンの事を知ったのか?」

「ああ、このドールにはあんたの娘さんの魂が今でも籠っている。娘さんは俺たちにこれをあんたに届けて欲しいと依頼してきたんだ。」

「リンさんは言ってました。あなたを大好きだった、と。」


伯爵は、信じられないといった様子で、震える手でドールに近づくと、それをそっと手に取った。


「まさか……私があんな事をお願いしたためにリンは今でもここにいるというのか……」


伯爵は目に涙を浮かべるとドールをきつく抱きしめた。


「すまなかった……すまなかったぞリン……! 父の身勝手からこんな事になるなんて……!」


ドールを抱きしめたままその場に崩れ落ちる伯爵。そんな彼にシエルが優しく声をかけた。


「古代遺跡の文明から魂を抜き取るという技術は今の時代にはまだありません。だからこそ、そのドールを大事にしてあげてください。」

「分かった……このドールは大事にしよう。そしてあの子が好きだったこのオルゴールも……」


伯爵は涙で顔をグシャグシャにしながらそう言った。



「なあ、シエル。古代遺跡の文明ってなんなんだろうな?」


伯爵邸を後にし、歩きながらアッシュが聞く。


「古代遺跡から発掘された技術はよく分からない事がまだまだ沢山あるわ。私が研究していた時でも謎はたくさんあったし。」


シエルは難しい顔をしながら答える。


「でも現代の人間ならそれをきっと解明していける。それができた時、今の時代の発展にもっと貢献できるものになるはずよ。」

「そうか……早くそうなるといいな……」


そう呟くアッシュの顔を、シエルは優しい眼差しで見つめた。

アッシュの言葉は、ただの感想ではなかった。

それは、いつか古代技術の謎が解き明かされ、誰も悲しい別れを経験しなくて済む、そんな未来を願う希望に満ちた言葉だった。

二人は、それぞれの胸に新たな決意を秘めながら、青空の下を歩き続けた。

こうして、二人はフランク伯爵の依頼を完了させ、次の依頼へと向かうのだった。

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