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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第5話:翼を広げた夢

ジン、ゲイル、アッシュ、シエルの四人が集まったジンの研究所には、まだどこか気まずい空気が残っていた。

しかし、それぞれの顔には、前向きな光が灯っている。


「親父の設計は、やはり素晴らしいものだった。この古代技術を応用したエンジンは、俺が今まで見てきたどの機械よりも複雑で美しい。」


ゲイルは、父親の設計図を前に、尊敬の眼差しを向けていた。


「……わし一人の力では、この夢を叶えることはできなかったじゃろう。ゲイル、お前の知識でもって、わしの発明の成功を手伝ってくれ。」


ジンは、戸惑いながらも、素直に息子の力を認めた。


協力して作業を進めるうちに、二人の間には親子の会話が少しずつ戻っていった。

昔、ゲイルが幼い頃にジンにねだったおもちゃの話や、初めて作った発明品の話に花が咲く。


「なあシエル、お前は手伝わなくていいのか?」

「何言ってるのよ。あの姿を見て間に入るなんてできるわけないでしょ。」

「……そうだな。」


そんな親子の姿を、アッシュとシエルは温かく見守っていた。


ゲイルは1日かけて磁気干渉を防ぐための磁気シールドの設計図を作成した。

町のインフラに精通した彼の設計は、実に現実的かつエンジンへの影響を可能な限り減らしたものになっていた。


「シエルさん、この設計図を見て、手を加えられそうな箇所があったら教えてくれ。」

「ゲイルさんが作った設計図に手なんて加えられるかしら……」


シエルは、設計図を受け取りじっくりと眺める。

そしてふと手を伸ばして線を一本書き加える。


「ジンさんのエンジンは、古代の素材が使われているわ。この部分に、その素材の特性を活かした特殊な膜を貼れば、シールド効果をさらに高められるはずよ。」


シエルの提案に、ゲイルは驚き、ジンは目を輝かせた。


「ほう! それは面白い! そうすれば、もっと小型で強力なシールドができるではないか!」


早速、三人の天才は協力して磁気シールドの開発に取り掛かった。

しかしそれは簡単なものではなかった。

磁気を通さないようにしつつ、古代技術の詰まったエンジンにも影響が出ないシールドを作る作業は困難を極めた。

まず素材の確保が大変だった。

彼らがやろうとしていることはかなり特殊なことであり、それを満たせるような素材などそう簡単には手に入らない。

ここはゲイルのこれまでのコネをうまく使い、なんとか確保することができた。


次にその素材をシールドとして加工しなければならないのだが、これもまた難しかった。

なにせそんな特殊なことをやろうとしている素材だ。

どのように加工すればうまく調整できるかなど誰も知らなかった。

ここはシエルが過去に似たような素材を加工した経験を元に慎重に作業を進めた。

一方、何もできることがなかったアッシュは食事を用意するなどして三人のサポートに徹した。


こうして、四人の協力によって完成した磁気シールドは、やがて『空飛ぶ自転車』のエンジンに完璧に取り付けられた。


「よし、これで改良は完璧じゃ! いよいよ、最後のテスト飛行じゃ!」


ジンが胸を張って言うと、アッシュが「おっし、任せとけ!」と応える。



改良を終えた『空飛ぶ自転車』は、再び町外れの広場へと運ばれた。

ここまでやったのだからぜひうまく飛んでほしい、三人が成功を願う中、アッシュがヘルメットをつけ自転車に跨る。


「アッシュ、頼んだわよ!」


シエルの言葉に、アッシュは力強く頷くとペダルを漕ぎ始めた。

自転車は最初は地面を軽快に走り、徐々に宙へと浮かび始める。

ここまでは前回と同じく安定している、問題はここからだった。

空へと舞い上がった自転車は前回とは違い安定して飛んでいる。


「おお! すげえ! 前とは全然違うぞ!」


アッシュが上空で叫んでいる中、シエルは地上からエンジンの状態を精密に分析する。


「よし、今回はうまくシールドが機能しているみたい。煙も上がってないし自転車は安定して空を飛んでるわ。」


空から手を大きく振るアッシュに向かってシエルがサムズアップで反応する。

大空を自由に飛ぶ自転車を見上げて、ジンとゲイルは互いに顔を見合わせた。

互いの発明が融合した奇跡に、二人は言葉にならない感動を覚えていた。


「成功じゃ……! ゲイル、わしの夢が……!」

「親父……!」


二人は固く抱き合った。


無事にテスト飛行を終えたアッシュは、地上へ戻ってきた。


「すげえよ爺さん! 今回はマジで空を飛んだぞ!」


アッシュが素直な感想をジンに述べると、ジンはアッシュの肩に手を置いて「よくやってくれた……」と涙を浮かべながら言った。


「爺さん泣くなよ! 爺さんの研究はこれで終わりじゃないんだろ!」

「……ああ、そうとも! わしの最終目的は、この自転車で首都まで行くことじゃ!」

「親父、さすがにそれは難しいと思うぞ……」


ジンの壮大な計画を聞いたゲイルはため息をつきながら呟く。


「まあとりあえずこれで今回の依頼は完了ね。無事にテスト飛行も成功させたし。」

「そうだな! 爺さん、また何かあったらいつでも俺たちに声をかけてくれよ! 俺たちはなんでも屋だからどんな事でもするぜ!」


二人の言葉にジンはただ頭を下げたのだった。



数日後。

仕事が一段落し、アッシュが事務所でのんびりしていると、シエルが慌てた様子で飛び込んできた。


「どうしたんだよシエル。そんなに慌てて何かとんでもない仕事でもきたのか?」

「違うわよバカ! 今銀行に行ってきたんだけど、とんでもないことになってて!」


シエルが慌てるなどよっぽどの事だ。アッシュは何があったのか尋ねる。


「とりあえずこの残高見なさいよ!」


そう言ってシエルが見せてきたのは銀行の預金額証明書だった。そこにはありえないほどの数字が書かれていた。


「はあ!? なんだよこの数字!? シエルまさか銀行の口座に何かしたのか!?」

「そんな犯罪するわけないでしょバカ! ゲイルさんがこの前の報酬って振り込んでくれたみたいなのよ!」

「ちょっと待て。俺たちな爺さんが渡した金額ってこれよりも少なかったよな?」

「そうよ! だから慌ててゲイルさんの所に行ってみたら『自分と親父の間を上手く取りまとめてくれたお礼だ』って言われて……」

「すげえ! マジこれが俺たちの口座金額かよ!」


アッシュは喜びながら「これだけあったら何を食おう」などと言い始めた。

いつもならその様子を怒るシエルだが、さすがにこの金額は彼女の頬を緩めるものだった。


「これだけあったら新しい道具も武器も買い放題ね。ほんとゲイル様様よ。」

「そうだな。俺が持ってる剣もそろそろ鍛冶屋で打ち直してもらわないとダメだなって思ってたんだよ。」


そう喜ぶアッシュを尻目にシエルは懐から取り出した資料に目をやる。


ゲイルの元を尋ねた際、シエルはゲイルから自身のインフラに関する研究データを受け取っていた。


「君の知識は素晴らしい。俺の研究が君の役に立つなら使ってほしいし、また何か意見があったらぜひ教えて欲しい。」


ゲイルが差し出した研究データを受け取りながら、シエルは微笑む。


「ええ、ありがとう。あなたのような有名な研究家の資料を貰えるなんて最高だわ。」


二人の間には、互いの専門分野を尊重し合う新たな信頼関係が芽生えていた。


アッシュにとって何よりの報酬は、ジン達のの笑顔だった。

そして、シエルにとって何よりの報酬は、新たな知識との出会いだった。

アッシュとシエルは、互いが求める最高の報酬を、この場所で見つけられたのだ。

こうしてジンとゲイル親子の夢を叶えた二人は、次の依頼へと向かうのだった。

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