第4話:父の夢、息子の誇り
「さて、と……とんでもない依頼を引き受けちまったな。」
アッシュは、事務所の椅子に深く腰掛け、天井を見上げながらため息をついた。
テスト飛行での衝撃やエンジンの焦げ付いた匂いが、まだ脳裏に焼き付いているようだ。
「難しくはないわよ。あの自転車は、古代の技術を応用した素晴らしい発明よ。それにジンさんの設計はちゃんとしていたわ。」
シエルは、机に広げたノートにペンを走らせながら言った。
彼女のノートには、ジンの工房で見た設計図の複雑な構造が、正確にスケッチされていた。
彼女の顔は、新たな謎を前にして、活き活きとしていた。
「だけどシエル、お前が完璧だって言うぐらいの設計だったのに、実際はあんなことになっちまったじゃないか。」
「それよ。ジンさんもそこは頭を悩ませてたのよ。きっとこの自転車の設計とは関係ないところに原因があるはずなのよね。」
シエルはノートと睨めっこをしながら頭を掻いていた。
「でも設計とは関係ないとなると、後は変な電波でも飛んでたとかじゃないか? まあそんな事ないか。」
アッシュがガハハと笑う中、シエルはハッと何か思いついたように町の地図を広げた。
「どうしたんだシエル? 地図なんて広げて。」
アッシュの言葉を無視して地図を見続けていたシエルは突然「そうか!」と叫んだ。
「なんだよ、いきなり!?」
「アッシュ、やっぱりあんた最高の相棒よ! 原因が分かったわ!」
「は? どう言う事だ?」
さっぱり要領を掴めていないアッシュに、シエルは地図を使って説明を始める。
「あのエンジントラブルの原因は、ジンさんの設計ミスじゃないわ。テスト飛行をした広場一帯に、特定の周波数の磁気が流れている。それが、エンジンの古代技術に干渉してしまったのよ。」
アッシュは首を傾げた。
「磁気? そんなもの、どこから出てるんだ?」
シエルはノートから顔を上げ、答える。
「おそらく、ゲイルさんが開発した町のインフラの一部よ。彼は、町の生活を便利にするために、水道や電気系統に新しい技術を導入した。それが、意図せずこの磁気を発生させているのでしょう。」
アッシュは、昨日のゲイルの冷めた表情を思い出した。
父の発明を「無駄な発明」と断じ、呆れたような、あるいは諦めたような顔で去っていった。
「じゃあ、息子の作ったもののせいで爺さんの発明がダメになったって事か?」
「皮肉だけどそうなるわね。だからジンさんの発明はやっぱり失敗じゃなかったのよ。」
アッシュはそれを聞くと立ち上がる。
「あの息子の所に行こう。爺さんの発明は失敗じゃないって分からせないと、あの親子の仲は溝ができたままだ。」
「そうね。ジンさんの発明の手伝いが依頼だったけど、このままだと目覚めが悪いわ。あの親子の溝も埋めてあげましょう。」
シエルの言葉にアッシュは力強く頷いた。
二人は、ジンの夢を完成させ、親子の溝を埋めるために、まずゲイルの元を訪れることにした。
ゲイルの事務所は、町の中心部にある。
彼の事務所は、ジンの工房とは対照的に小綺麗な建物だった。
「ゲイルさん、いらっしゃいますか!」
アッシュが扉を叩くと、中からゲイルが顔を出す。
疲れた表情のゲイルは、昨日のテスト飛行のことが頭から離れないようだ。
「……何しに来たんだ、君たち。」
ゲイルは警戒するように言った。
「おやっさんの発明の件で話があって来たんだ。」
「……分かった。中へどうぞ。」
ゲイルは二人を中へ案内する。
部屋の中は最新の機械や、町のインフラを管理する複雑な設計図が壁一面に並んでいる。
「それで親父の発明でって何の話だ?」
ゲイルは明らかに警戒した顔になっていた。
父親の発明を認めろと言いに来たのかと考えているようだった。シエルはそんなゲイルの様子に構わず、ノートを広げて話し始めた。
「ゲイルさん、あなたの発明は素晴らしいわ。町の生活を豊かにするために、水道や電気系統に新しい技術を導入した。でも、そのせいでジンさんの自転車は失敗したのよ。」
ゲイルは眉をひそめた。
「何だと? 僕のせいで親父のくだらない発明が失敗したって言うのか?」
「皮肉な話だけど、そうよ。あの広場一帯には、あなたのインフラから発生する特定の周波数の磁気が流れていたわ。それが、ジンさんの自転車のエンジンに使われている古代技術に干渉してしまったの。」
シエルの説明に、ゲイルは驚きを隠せない。
彼の顔には、怒りではなく、動揺が浮かんでいた。
「そんな……まさか……」
自分の発明が、父の夢を邪魔していた。
ゲイルの顔から血の気が引いていく。
父の無謀な発明を馬鹿にしていたが、その無謀さの裏に、自分の知識では計り知れない壮大な夢があったのだ。
そして、その夢を壊していたのが、まさか自分だったとは。
アッシュは、そんなゲイルの背中を叩いた。
「おい、ゲイル。落ち込んでる暇はないぜ。この問題を解決するにはあんたの力が必要なんだ。協力してくれ。」
「協力? いったいどうすれば……」
シエルが、再び口を開く。
「ゲイルさん、あなたの持つ磁気に関する知識と、ジンさんの古代技術を組み合わせれば、この問題を解決できるはずよ。磁気シールドを開発して、エンジンに取り付けるの。」
シエルの言葉に、ゲイルはハッとした。
父の発明を無駄だと決めつけていたが、実はしっかりとしたものだった。
それなのに自分の開発したものが父の邪魔をしていた。
ならば自分の力で父の発明を成功させたい。
父の夢と、自分の誇りが、初めて繋がった瞬間だった。
「……わかった。協力する。私の知識が親父の夢を叶える力になるなら……」
ゲイルの目に、強い決意が宿った。
アッシュとシエルは、ゲイルを連れて再びジンの研究所へ向かう。
親子二人の再会は、口論から始まった。
「ゲイル! なぜここにいるんだ! わしの発明をまた馬鹿にしに来たのか!」
ジンは、ゲイルの姿を見ると怒鳴った。
「親父、違うんだ。俺も手伝うよ。」
ゲイルの言葉に、ジンは呆れたように首を振る。
「馬鹿なことを言うな! わしの設計は完璧じゃ! お前の手を借りる必要はない!」
ジンの頑なな態度に、ゲイルは再び諦めかけた。しかし、シエルが間に入った。
「ねえ、ジンさん。実はこの前の失敗はあなたのせいじゃなかったのよ。ゲイルさんが開発したこの町のインフラの影響を受けて失敗になったのよ。」
「なんじゃと? どういう事だ?」
シエルの言葉にジンが驚く。
シエルは今回のジンの発明の失敗についてしっかりと説明した。
「なんじゃと……まさかそんな事が起こっていたとは……」
「ジンさん。あなたの発明をより完璧なものにするためにはゲイルさんの力が必要なのよ。これはジンさんの発明をより良いものにするための進化なの。」
シエルは、ジンの設計の素晴らしさを称賛しながら、ゲイルの技術が持つ可能性を語った。
「……進化、か。」
ジンは、息子とシエルの真剣な眼差しに、心を動かされた。
そして、若き日にゲイルに話した「空を飛ぶ夢」を思い出す。
「わかった……わしの夢を叶えるために、ゲイル、お前の力を貸してくれ。」
「親父、俺の方こそ親父の発明を完璧なものにする手伝いをさせてくれ。」
互いに無言のまま、二人は強く握手を交わした。
それは、すれ違い続けた親子の溝が、初めて埋まった瞬間だった。
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