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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第二章

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第29話:決闘の手段はクールに

アッシュとセシリオ。

二人の戦士が事務所の前で睨み合う。

セシリオの方は今にも飛びかかりそうなぐらいにアッシュを睨み続ける。

一方のアッシュは余裕を見せているのかニヤついた顔でセシリオを見ていた。


「ところでさ。」


そこに横からシエルが割り込む。


「あんた達どうやって決闘しようという訳? こんな所で剣を振り回したら町の人に迷惑よ。」


確かにここで剣を振り回すのは町の人に迷惑な話だ。

アッシュは腕を組み納得したように頷く。


「そうだな…確かにここで剣を振り回すのは良くないな。何かいい方法はないものか…?」

「何を言ってる! 俺はお前と剣の勝負をしに来たんだぞ! 場所を変えればいいだけだろ!」


そう言って掴み掛かろうとするセシリオをクロエがなんとか宥める。

確かに場所を変えて剣の勝負をすればいいだけの話なのだが、セシリオという男の実力が分からない。

下手をすれば今のアッシュの実力では怪我ではすまない可能性もある。

そうなった場合に誰が責任を取る。

決闘を挑んできたのだからそっちが悪いと言ってしまえばそれまでだが、変な所から悪い評判がついてしまうのも今後の仕事に支障が出る。

さて、どうしたものか。


シエルが頭を悩ませているとセシリオを宥めていたクロエが「そうだ!」と声を上げた。


「クロエ、何か浮かんだの?」


シエルの問いにクロエは大きく頷きアッシュとセシリオを見て、


「せっかくお二人とも体が大きいんですし、大食い対決はどうですか?」


などと言い出した。

確かにアッシュもセシリオも剣士である事から体は大きい。

だが、体の大きさと食欲は別ではないか。

シエルが突っ込もうとした時だった。


「...面白い。ならば、その勝負、受けて立とう!」


押さえられていたセシリオがなんとその対決に乗ってきた。

お前は剣の勝負をしに来たんじゃないのかと思わず声を上げそうになったところでアッシュも「俺もいいぜ」と言い始めた。


「あんた達、それでいいの? 剣の勝負をしに来たんじゃないの?」

「俺は何事においても負けない男だ。剣であろうと大食いであろうと負ける事はない。」


セシリオは胸を張って答える。

その姿はまるで大食いのチャンピオンにでもなっていた男のようだ。

それに対してアッシュも負けじと胸を張り「俺が大食いで負けるはずがないだろ」などと言う。

シエルはアッシュの大食いっぷりを知っているから心配はしていないが、心配なのは|誰がそのお金を払うかだ《・・・・・・・・・・・》。


「どうでもいいけど大食い勝負のお金って誰が出すのよ?」


そのシエルの質問にその場にいた全員がシエルの顔を見る。

やはりそうなるか…

シエルは今月の店のやりくりをどうするか頭を悩ませた。



ルミナの町唯一の食堂でもある『優雅な美食亭』。

そこにはいつもの営業以上の人集りができていた。

店の外に出された大きなテーブルを挟んでアッシュとセシリオが席についている。

テーブルの横には審判役のシエルが立ち、その横にはクロエが胸をときめかせながらアッシュを見ている。


「それじゃあ…早速始めるわよ。」


若干ゲンナリした顔でシエルが勝負の進行をする。

ルールは単純でお互いに同じメニューが出され、それをどれだけ食べ切る事ができるかの勝負だ。

途中席を立つのはNG。

水は何杯でも飲んでいい。

皿に乗っている物全てを食べ終えてから次の料理を提供する。

これだけのルールの勝負に町の半分以上も集まってきたのではないかというぐらいにギャラリーが集っている。

本当にこの町の人は暇を持て余しているんだなとシエルは感じた。

そうこうしているうちに1皿目の料理がテーブルに着く2人に提供された。

普通に見れば非常に美味しそうな料理だ。

肉はコンガリと焼き目がつき、赤色の特製ソースがかけられている。

野菜も色とりどりに用意され、綺麗に盛り付けられている。

こんな勝負で食い散らかすには勿体なく思えてくるような料理だ。

これを今からこのバカ2人に乱暴に食い散らかされるかと思うと胸が痛くなってくる。

同時にこの代金を支払わなければならないのかと思うと財布も痛い。


「じゃあいくわよ。用意はいい?」


シエルの声にお互いナイフとフォークを手にする。

いつでもいけるよう準備は万端だ。


「じゃあ…はじめ!」


シエルの声と共に一斉に2人がテーブルの料理に手をつけ始めた。

綺麗に盛り付けてあった料理が一気に酷い有様へと姿を変える。

スタートの2人のペースは一緒だ。

豪快な食べっぷりに外野からも声が上がる。

フォークで肉をぶっ刺すと一気に口に持っていき噛みちぎる。

肉汁がテーブルに滴り落ちるのも気にせず2人は肉を噛みちぎり続けた。

肉を同じスピードで食べ終えるとお互い皿を持ち、フォークで野菜を口にかき込む。

お互いが本当に同じペースで1皿目を食べ終えた。

ついで2皿目が運ばれてくる。

今度は魚料理。

しっかりと焼かれた魚に盛り合わせのポテトが皿の大きさを分からなくする。

2人は魚の頭と尾を両手で掴むと、まるで野生の獣のように中心から豪快に噛みちぎった。

骨や皮など気にもせず、ただひたすらに、魚を食らい続けた。

その姿に、観客からは歓声と同時に悲鳴も上がっていた。


「いやぁ…見てるだけで胸焼けしてくるわ…」


シエルは2人の食いっぷりを見ながら胸を押さえる。

普通の人がこの光景を見ていれば胸焼けがするのも当然だろう。

観客はそんな事を気にせず盛り上がってるだけなのだからいいだろうが、審判という役を任された身からするとこの勝負をしっかりと見続けなければならない。

2人が5皿目までを食べ終えたところでシエルは「もう無理」と言ってクロエに審判を任せた。

店からは料理が次々と運ばれてくる。

そしてそれを2人は勢いに任せて食べ続ける。

この勝負に決着がいつ着くのか誰にも分からなくなってきていた。


対決が始まり数十分後。

2人の前に積み上げられた皿はゆうに20は超えていた。

セシリオの方は限界が来始めたらしく皿に手をつけるスピードが落ちてきている。

一方のアッシュはまだ余裕を見せながら食べ続けていた。


「貴様…どこにそんなに入るんだ…?」


手の止まり始めたセシリオがアッシュの食いっぷりを見て信じられんばかりに問いかけた。


「どこって言われても…ングング…食えるもんは食えるんだよ。」


なおも食べ続けるアッシュはなぜそんな質問をされるのか分からないといった表情で答える。

ついにセシリオの手が止まり、彼は椅子に深く沈み込むようにして天を仰いだ。

…アッシュはまるで、まだ勝負が続くかのように楽しそうに皿に手を伸ばしている。

その底知れない食欲と、未だ余裕すら見せる表情を見て、セシリオは深い敗北を悟り、ただ一言、絞り出すように呟いた。


「…化け物め…」

「これは…アッシュ様の勝利ですね!」


クロエの勝利者宣告と同時に周囲のギャラリーから大歓声が湧き起こる。


「なんだよ、もう終わりかよ…」


これ以上食べる事ができないのが残念と言わんばかりにアッシュは残念がる。

皿にして30近く。

それでもアッシュはまだまだ余裕を見せていた。

かくして大食い対決は見事アッシュの勝利で幕を閉じた。



翌日。

セシリオは再び何でも屋の事務所を訪れていた。

今日も勝負するのかと身構えたアッシュだったが、セシリオはそうではなかった。


「アッシュ、貴様に負けたのは自分の鍛錬不足だと思い知らされた。」


そう言うセシリオの目はどこかキラキラと輝いていた。

大食い対決でどこを鍛錬するのかとシエルは突っ込みたかったが、そこはグッと我慢する。


「アンタ、俺に構わなければすごいやつなんだろ? だったら俺なんか忘れて自分の思う事をしろよ。」

「そうだな。この数年お前に勝つ事だけを目標に生き続けてしまった。これからはそれを忘れて自分の思う事をしようと思う。」


セシリオは右手をそっとアッシュに向けて差し出した。

それを見てアッシュはいい笑顔を見せながら握り返す。


「これが男の友情なんですね…」


その光景を見ながらうっとりとするクロエをシエルが小突いた。


「では、俺は再び旅に出ようと思う。世話になったな。」


手を離したセシリオが事務所から出て行こうとした時だった。

大きな音で扉が開き、それと共に1人の兵士が駆け込んできた。

アッシュ達は何事かと兵士を見る。


「何でも屋! 領主様が大変なのだ! 至急屋敷まで来てくれ!」


兵士の言葉にまた何か面倒な事に巻き込まれるんじゃないか、とシエルの胸が痛んだ。

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