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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第3話:奇妙な発明家

レンとミオの事件を解決してから数日。

町に電気と活気が戻り、アッシュとシエルの何でも屋は、これまで以上に多忙を極めていた。

時計塔が止まったことで、町のあちこちで機械の不具合が多発し、修理の依頼が殺到していたのだ。

事務所の机の上には、故障した調理器具や錆びた水道管の設計図が山積みになっていた。

アッシュは、新しい依頼の書類に目を通しながら、大きなため息をつく。


「おいシエル! こんなに修理の依頼が来てるなら大儲けじゃないか! これで今日の晩飯は肉に……」

「なに言ってるのよ、この筋肉バカ。修理の依頼は全部私の仕事だから私が困るのよ。あんたの食費減らしておくからね。」

「なっ……! ふざけるなよ! ただでさえ最近肉をなかなか食わせてもらえないのにこれ以上食費を削られたら地獄じゃないか!」

「そう思うならあんたができる仕事でも探してきなさいよ。」


アッシュの怒りにシエルは顔を上げず、淡々と書類を整理しながら返す。


「だいたい修理依頼が増えれば、その分部品の在庫も減るでしょう。無駄遣いばかりしてるから、新しい部品を買うお金がなくなって、結果的に食費を削減するしかないのよ。」

「なんだと! あれは無駄遣いじゃなくて、俺の体に投資してるんだ!」

「そんな無駄な物に投資するぐらいならもっとマシなものに投資しなさい。」


シエルに厳しく言われ、アッシュはしょんぼりする。

すると一人の老人が事務所の扉を開けて入ってきた。

その老人は、帽子にゴーグルをつけ、奇妙な工具がぶら下がった作業着を身につけている。

その瞳は、子どものように好奇心に満ちていた。


「おお、ここが噂の何でも屋か!」

「そうだけど、どうした爺さん。修理の依頼なら今はちょっと立て込んでるから無理だぞ。」

「馬鹿者、修理など自分でできるわ。わしはジン、町の片隅で発明をしている者じゃよ。」


ジンと名乗る老人は、アッシュとシエルを交互に見つめ、満足げに頷いた。


「噂通りじゃのう。力自慢のあんちゃんと、頭の良さそうな嬢ちゃん。実はわしが作った『空飛ぶ自転車』のテスト飛行を手伝ってほしいんじゃ!」


その突拍子もない依頼に、アッシュは目を丸くした。


「空飛ぶ自転車だって? そんなことできるわけねえだろ、爺さん。酒でも飲んでるのか?」

「わしゃいたって正気じゃ。今開発しておる空飛ぶ自転車は設計もできておるし、本体も完成しておる。あとはテスト走行だけなんだが、わしの体では厳しくてな。ここに依頼しにきたんじゃ。」


ジンは持ってきた設計図をテーブルに広げる。

それを見てアッシュには何が何だか分からなかったが、シエルは違った。

彼女は、ジンの奇抜な設計図に目を奪われていた。

そこには、古代の技術を応用した驚くべき発想が詰まっていたのだ。


「面白そうじゃない。アッシュ、受けるわよ。」


シエルの言葉に、アッシュは絶句した。


「おいおいシエル! 正気かよ!?」

「この設計図を見る限り、このジンさんの設計は完璧よ。実に面白そうじゃない。」


機械が絡むとシエルは途端に食いつきが良くなる。今回もまた同じことになったようだ。


「はぁ、分かったよ。その代わり今来てる修理の依頼はちゃんとこなしてくれよ。」

「ええ、ジンさんの手伝いが終わったらちゃちゃっと終わらせるわ。」


シエルに浮かんでいる笑みを見て、アッシュはため息をついた。



ジンの工房は、ガラクタの山と、見たこともない奇妙な機械で埋め尽くされていた。

その中心に鎮座する『空飛ぶ自転車』は、お世辞にも美しいとは言えない。

継ぎはぎだらけの骨組みに、使い古されたパイプや歯車が組み込まれており、今にもバラバラになりそうな不安定さを醸し出していた。


「これに乗るのか……?」


アッシュが不安げに呟くと、ジンは胸を張って言った。


「もちろんだとも! わしが考えたこの新エンジンは完璧だ。あとは実際にお前が乗って漕いでもらうだけじゃ!」

「は!?」


突然このヘンテコな自転車に乗れと言われ、アッシュは困惑する。


「俺が乗るのか!?」

「当たり前じゃ。こっちの姉ちゃんにはわしの分析の手伝いをしてもらう。そうなると乗るのはお前だけじゃろうが。」

「マジかよ……俺死なないよな?」

「心配するな。わしの開発は完璧じゃ。」


ジンはガハハと笑う。

シエルに「頑張ってね」と肩を叩かれ、アッシュは諦めて乗ることに決めた。


テスト飛行は、町の外れにある広場で行われることになった。

ジンは近所では有名らしく、「またあの発明家が何か作ったらしい」と人が集まり始めていた。


「こんなに注目されるのかよ……」

「別に周りの目は気にする必要はないわ。あんたはとにかく漕ぎなさい。」

「分かったよ。やればいいんだろ。」


アッシュが自転車に乗ろうとすると、一人の男が息を切らして駆け寄ってきた。


「親父! また危険な発明をしようとしてるのか! テスト中に事故でも起こしたら、町の人に迷惑がかかるだろう!」


どうやらジンの息子と思われる人物は、ジンの『空飛ぶ自転車』を指差しながら、怒鳴った。


「また邪魔をしに来たのかゲイル。お前に何を言われようとわしはやめんぞ。」

「ゲイル……? ひょっとして町のインフラを研究しているゲイル・リバート?」


名前を聞いて、シエルには思い当たる節があったようだ。


「は、はい。確かに私はゲイル・リバートですが……」

「わお、本物に会えると思わなかった! あなたの研究したものは私すごく興味があるの!」


シエルはゲイルの手を無理やり取ると握手をする。

どうやらシエルはゲイルのことをどこかで見たか、知っているようだった。


「あの、あなたからもいってもらえませんか。父の発明はいつ何が起こるか分からないんです。万が一近隣の人に迷惑がかかったら大変です。」


それを聞いていたジンが怒ってゲイルに詰め寄る。


「馬鹿なことを言うなゲイル! これはわしの夢じゃ!」

「父さんの夢のせいで怪我人が出たらたまったもんじゃないですよ!」


ジンとゲイルが口論に夢中になっている隙に、アッシュは自転車に乗ってみた。


「しかし本当にこれで空を飛べるのかね……?」

「今ならゲイルさんの邪魔は入らないわ。アッシュ、力いっぱい漕ぎなさい。」

「分かってるよ、そら行くぞ!」


アッシュがペダルを漕ぎ始めると、自転車はガタガタと揺れながらも、ゆっくりと空へと舞い上がった。


「うおおお! 本当に飛んでるぞ!」


アッシュが興奮して叫ぶ。

しかし、喜びもつかの間、自転車は急にガタガタと揺れ始め、エンジンから煙が上がり、不安定な状態になっていく。


「な、なんだ!?」


アッシュが焦り始めると、シエルは冷静に指示を出した。


「アッシュ、しっかりハンドルを握って安定させて!」

「わ、分かった!」


アッシュはがたつくハンドルをしっかりと握ると、力で無理やり自転車の揺れを抑える。

推進力を失った自転車は、無事に地面に着陸した。


「ふう……死ぬかと思った。」


降りてきた自転車のところに、シエルとジンが走って向かってくる。


「アッシュ! 大丈夫!?」

「ああ、怪我はない。」


アッシュが降りたところで、ジンが自転車を慌てて確認する。


「設計は完璧なはずだ……一体何が問題だったんじゃ……?」

「確かに私が見ても設計は完璧だと思ったのよね……」


後からジンの息子のゲイルが青い顔をして近づいてくる。


「見ろ! 父さんの無駄な発明のせいで人が死ぬかもしれないんだぞ! もうやめてくれよ!」

「うるさい! こいつはこれから持って帰って原因を調べる! わしの発明は無駄じゃない!」


ゲイルの怒りにジンは反論すると、自転車を押して研究所へと帰っていってしまった。


「なあ、君たちからも父さんを説得してくれ。俺は、父さんの夢のせいで迷惑をかけられた人たちをたくさん見てきた。だからこそ、父さんとは違う、きちんと人の役に立つものを作りたくて今の仕事についたんだ。」


ゲイルの頼みにシエルは首を横に振る。


「ゲイルさん。あなただって同じエンジニアなら分かりますよね。ジンさんはきっとあれが完成するまでやめませんよ。」


シエルに言われ、ゲイルは下を向き拳を強く握りしめる。


「心配するなよ。おやっさんの発明は必ず成功させる。なんたって俺たちはなんでも屋だからな。受けた仕事は最後までやり遂げるさ。」


そう言うアッシュの顔を見て、ゲイルは「もういい!」と言って去っていってしまった。


「シエル、やるぞ。俺はあのおやっさんの発明を完成させてやりたい。」

「ええ、私も同じよ。ゲイルさんにお父さんはすごい発明家だって認めさせてやるわ。」


二人は改めて、この依頼を成功させようと誓った。

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