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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
幕間1

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幕間1-2:出会った二人

これはまさに運命的な再会だった。

数年前、それぞれ別の道を歩み出したアッシュとシエル。お互いに小さい頃の面影しか知らなかった二人にとって、その偶然の出会いは驚愕でしかなかった。


「シエル……お前、いつの間にこの町に戻ってきたんだ?」

「それはこっちのセリフよ。アッシュこそ、王都で騎士団にいたんじゃなかったの?」


お互い王都にいた中で、アッシュの噂は耳にしていた。


「最年少で騎士団の副団長になった若き騎士」。


シエルにとって、幼い頃の憧れだった「お兄ちゃん」が天才騎士などと呼ばれていたことには、まるで実感が湧かなかった。

そのアッシュが今目の前にいる。シエルには意味が分からなかった。


「あんた、騎士団はどうしたの? なんでここにいるのよ!?」


シエルの問いに、アッシュは言葉に詰まり、視線をそらして右頬を撫でた。

その癖は、彼が困ったときや隠し事をしているときに必ず出るものだった。シエルは直感的に、これはただ事ではないと悟った。


「とりあえず話を聞かせてちょうだい。なんでここにあんたがいるの?」

「……まあ、お前になら話してもいいか……」


アッシュはそう言うと歩き出す。シエルは黙ってその後についていく。


アッシュが来た場所は、昔みんなでよく遊んだ空き地の一つだった。町並みが様々に変化する中でも、ここだけは変わらなかったらしい。


「それで、あんたが今ここにいる理由を教えてもらいましょうか。」

「ああ、実はな……」


アッシュはゆっくりと、自分がここにいる理由をシエルに話し始めた。




「はあぁ!? そんなのおかしいじゃない!」


アッシュの話を聞いて、シエルは怒りをあらわにした。

どう聞いても納得がいかない。

アッシュは被害者であり、騎士団を辞めなければならないはずがない。シエルの怒りは頂点に達していた。


「落ち着け、シエル。俺はもう気にしてないから……」

「あんたが気にしなくても私が気にするわよ! 悔しくないの!?」


シエルの怒りは止まらない。

放っておけば、王都まで殴り込みに行きかねない勢いだ。


「だからもういいんだって! 俺ももう過去のことだって割り切ってるし。それにルミナに帰ってきて内心ほっとしてるんだ。」

「は!? どういうこと!?」


明るい表情を見せるアッシュに、シエルは声を荒げる。


「俺は強い戦士になりたくて王都に行った。騎士団にも入れた。天才騎士とか呼ばれて嬉しかった。」

「昔からあんたは世界最強の戦士になるって言ってたじゃない。なのに、その夢を捨てたの?」


小さい頃から、アッシュは強い戦士になるのが夢だった。

子供同士で喧嘩が始まっても、必ずアッシュが仲裁に入っていた。

彼は子供たちのリーダーであり、憧れの存在だった。シエルもまた、そんなアッシュに憧れていた。


「だけどな……」


アッシュはそう言うと、静かに俯いた。


「王都ってのは、俺が考えていた以上にドロドロの世界だったんだ。特に副騎士団長にもなると、政治の世界に嫌でも巻き込まれるんだ……」

「それは……」


シエルは言いかけた言葉を飲み込んだ。

王都にある政府の中で派閥争いが起こっていたのは知っていた。

科学技術院で働いていた頃、シエルもそういった争いに巻き込まれたことがある。

シエルは持ち前の口の達者さでうまくそれを乗り越えてきた。


だが、アッシュは違った。

子供の頃から純粋に強さだけを追求してきた彼にとって、そういった泥沼の争いは辛かったのだろう。

アッシュの顔に浮かんだのは、純粋な強さだけを求めていた頃の、子供のような無垢な表情だった。

それは、王都で疲弊し、諦観した男の顔ではない。


「……分かったわ。私はもう何も言わない。アッシュが決めた道なんだから、その通りに進めばいい。」


アッシュの顔に安堵の表情が広がる。


「シエル、ありがとう。」


シエルはこの笑顔が見れれば、それで良かった。

落ち込んだり悩んだりしているアッシュの顔など見たくなかった。


「それで今は何をしてるのよ?」


気を取り直してシエルはアッシュの現状を聞く。


「特に何もしてないんだ。幸い騎士団の時に貰ってた金はあるし、のんびり仕事を探しながら生活してる。」

「あんた、昔から剣以外はからっきしだったわよね。」


その言葉に反論しようとしたアッシュだったが、すぐに諦めた。

昔から口喧嘩でシエルに勝ったことはなかったし、今のシエルの言葉は正論だった。


「……ねえ、アッシュ。私と一緒に何か仕事をしない?」

「は? 突然何を……」

「あんたは力がある。私には知恵がある。これを組み合わせたらなんでもできそうじゃない?」


これはただの思いつきだった。

アッシュを励まし、昔の元気で能天気な彼に戻ってほしい。シエルの願いはそれだけだった。


「なんでもできるって言われてもなぁ……一体何の仕事をやるっていうんだよ?」

「……なんでもできるんだから、なんでも屋をやればいいんじゃない?」


その言葉にアッシュは「なるほど」と頷く。


「でも、そんなのうまくいくのか?」

「何のために私がいると思ってるのよ。絶対に成功させてみせる。」


シエルは力強く話す。

アッシュと一緒にいること。アッシュを元気づけること。

今自分にできることはこれしかないと、シエルは強く思った。

かくして、ここに何でも屋が結成されたのだった。



時は戻り、現在。

アッシュとシエルの話を聞き、フィオはメモを取りながら涙を浮かべていた。


「そうだったんですね……お二人にそんなことがあったなんて……」

「いや、そんなに泣くことじゃないからな、これ。」


アッシュはフィオの涙を拭くために布を手渡す。


「ありがとうございます……そこからお二人で何でも屋を始めたんですね。」

「ええ、そうよ。まあ初めのうちはどうなることかとも思ってたけど、町の皆んなが頼ってくれたのはありがたかったわ。」


アッシュたちが何でも屋を始めると言った時、町の住民たちは皆でこの二人の商売をなんとか成功させてやりたいと、色々な仕事を持ってきてくれた。

そのおかげで今自分たちはこうして生活できているのだと二人は理解していた。


「ありがとうございます。ひとまず過去の話についてはわかりました。それでは、何でも屋を始めてからのことについても伺えますか?」


フィオの言葉に二人は顔を見合わせてニヤリと笑う。


「結構話は長くなるぜ?」

「エグい話とかもあるわよ?」

「いや……その……なるべくソフトな感じのお話でお願いします……」



二人の話は尽きることなく、取材が終わった時にはすでに外は暗くなり始めていた。

フィオは二人に礼を言うと事務所を後にする。


「何でも屋か……あの二人が頑張ってやってるんだから、私もいい記事にしてもっと宣伝してあげなくちゃ!」


手に持っていたノートを強く握ると、フィオは力強い足取りで新聞社へと帰っていったのだった。

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