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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
幕間1

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幕間1-1:偶然の再会

「アッシュ、今日ルミナ日報の記者さんが来るから準備しておいてね。」


事務所内で筋トレをしていたアッシュは突然のシエルの言葉に動きを止める。


「記者? なんか仕事の依頼か?」

「違うわよ。うちの話を聞きたいって以前連絡があったでしょ。覚えてないの?」


頭の中の記憶の糸を手繰り寄せて必死に思い出そうとするアッシュ。

しかしどうやらその記憶はアッシュの頭の中にはなかったようだ。


「知らん。覚えてない。」


早々に諦めるアッシュ。


「ほんとあんたって筋肉バカよね...時々なんでこんなのが騎士団に入れたのかって不思議になるわ...」


そんなアッシュの姿を見てシエルは呆れる。


二人が行っている何でも屋についてルミナの町の新聞『ルミナ日報』に載せたいという話が来たのは3日前の事だった。

その時にわざわざ新聞社の人間が来て話をした事をアッシュは覚えていなかった。


「とにかくもう少しで新聞社の人がもう少しで来るからしっかりしてよね。」


シエルに言われ、アッシュは仕方なく筋トレを止めると着替えをしに自分の部屋へと戻っていく。


しばらくすると事務所の扉をノックする音が聞こえてきた。

シエルは服装をしっかり整えると扉に向かう。

扉を開けるとそこにはシエルと同年代ぐらいの女性が立っていた。


「る、ルミナ日報のフィオといいます! 今日はしゅ、取材の方をよろしくお願いします!」


そのどもり方と仕草は明らかにベテランのそれではなく、新人なのだろうと言う事はシエルから見てもよく分かった。


「なんか力入ってるみたいだけど大丈夫?」

「は、はい! 今日はしっかりと取材させていただきます!」


なんで私達の取材ぐらいでこんなに力が入ってるんだか、シエルはなんだか可笑しくなりながらフィオを中へ案内した。


カチコチに固まって座っているフィオにお茶を出したと同時ぐらいにアッシュが部屋から出てきた。

何を勘違いしたのかアッシュはどこかのパーティーにでも行くかのような格好をしている。


「アッシュ、そんな格好してお城のパーティーでも行くの?」


その格好に呆れながらシエルは尋ねる。


「バカ、お前がちゃんとした格好しろって言ったんだぞ! だからこういう格好にしたって言うのに...!」

「そうじゃないわよ。だらしない格好はするなって言ったの。着替えてこい。」


シエルに怒られたアッシュはトボトボと部屋に着替えに戻る。


「あの...ひょっとして私来ない方が良かったですか...?」


おずおずとフィオがシエルに尋ねる。


「あぁ、気にしないで。あのバカはいつもの事だから。」


シエルは笑みを浮かべながらそう言うとソファに座る。


少しするとアッシュがいつもより少しだけちゃんとした格好で出てきた。

この辺りは元騎士団だけあって意識があるらしい。

アッシュがソファに座ったところでフィオが口を開く。


「それでは取材を始めさせていただきます。まずはこの何でも屋を始めたキッカケを教えてください。」



遡って2年前。

ルミナの町に久しぶりにシエルは帰ってきた。

王都の学院に進学するためにこの町を出て5年。

学院を卒業してそのまま王都の科学技術院に勤務してからというもの、なかなか長期の休みも取れずに帰ってくる事はなかった。


久しぶりに見る町は少しだけ風景が変わっていた。

両親とよく食べに行っていた食堂はアパートになっていた。

そして小さい頃によく遊んでいた空き地には新しい家が建ち、どこかから引っ越してきた家族が住んでいた。


「まあ、5年も経てば町も変わるわよね。」


シエルはゆっくり町並みを見ながら歩いて回る。

両親が亡くなって以来、シエルの家は売りに出されていた。そのためこの町にはもうシエルの家はない。

ただ、家が売れたお金もあり、ルミナの町では宿屋を一時的な拠点にするつもりだった。


懐かしい道を歩いていくと昔と変わらない宿屋がある。


『幸福の林檎亭』


シエル達が小さい頃からよくお邪魔していた場所だ。

子供の頃に友達とみんなでここに来るとちょっとイカつい店主のおじさんがお菓子をくれたのだ。


「あのおじさん、まだ生きているのかしら。」


シエルは懐かしい顔を見たい気持ちを押さえながら宿屋のドアを開ける。


中は昔と変わっていない風景だった。

その懐かしさにシエルの心が少しだけ跳ね上がる。


「すいません! しばらくここに泊まりたいんですけど!」


入口で大きな声を出すと、店の奥から年老いた女性が出てきた。


「はいはい、ごめんなさいね。ちょっと家の事をしてたから...」


そう言う女性の言葉がシエルの顔を見た瞬間止まる。


「お久しぶりです、おばさん。」

「...え!? ひょっとしてヴィータさんのとこのシエルかい!? しばらく見ない間に随分と大きくなったねえ...」


小さい頃の面影が残っていたシエルの顔を見て女性は驚く。


「おばさん、私の家が見つかるまでしばらく部屋を借りたいんだけどいいかな?」

「そういやあんたの家はもう売り払ったんだったね。別に何日いてくれてもいいんだよ。お代もまけとくから。」


この町の人間は得てして人情味に溢れている人が多い。

こういうところが、シエルがこの町を気に入っている一つである。


部屋の鍵をもらうとシエルは宿屋の2階に上がる。そして一番奥の部屋の鍵を開けて中に入った。

部屋は一人で泊まるぐらいにはちょうどいい広さである。

シエルは荷物をベッドに放り投げると窓を全開にした。

中に入ってくる風が心地よい。


今後の生活について必要なものを確認するとシエルは町に出た。

やる事はたくさんある。

まずは新しい家を探さなくてはいけない。

その後に家財道具だ。

宿屋に泊まっている間に使う日用品も買わなければいけない。


シエルはまず大通りにある雑貨屋に向かう事にした。

家を探すにもまずは足元を固めておかないといけない。

歩き慣れた裏道を抜け大通りへと出る。

大通りといっても町のメインストリートなだけであって、観光名所など広場の時計塔ぐらいしかないこの町に観光客などほぼいない。

町に住む人間がせいぜい買い物に出てるぐらいだ。


大通りに並ぶお店を懐かしそうに見ながらシエルは雑貨屋へと辿り着いた。

店の前にはちょっとした日用雑貨が並べられている。

シエルはそこを眺め必要なものを探していた。

その時、店の奥から出てきた男性とぶつかりそうになった。


「あ、ごめんなさい。商品を見てて気づかなかったわ。」

「いや、こっちこそすまん。考え事をしてて気づかなかったよ...」


そう言ってシエルの顔を見る男性は口をポカンと開けて動きが止まる。

シエルも男性の顔を見ると昔の記憶が思い返される。


「......ひょっとしてシエルか......?」

「......もしかしてアッシュ......?」


二人の再会はまさに偶然の産物だった。


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