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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第27話:戦いの後

戦いは終わった。

アーサー率いるウォルドの軍はアッシュ達やレジスタンスによって倒され、広場にはレジスタンス達の勝利の雄叫びが響き渡っていた。

それと同時にレジスタンスの数人が街中に向かい、隠れていた街の人間に勝利を伝える。

人々は外に次々と姿を現し、レジスタンスの勝利に喜び騒いでいた。


「...終わったか。」


アッシュは持っていた剣をその場に投げ捨てるとルーシェ達の元へと向かう。


「ルーシェ、無事か?」

「ええ、なんとか無事よ。それよりアーサーを倒したのね。」


アッシュは倒れているアーサーの死骸にチラリと目を向け「ああ」と短く答えた。


「あいつも道を踏み外さなければ真っ当な領主としてこの街をもっと良くできたろうにな...」


家族を失った事によるアーサーの暴走。

同じように家族を失ったアッシュには気持ちが分かるところはあった。

だが、アッシュとの決定的な違い、それはその問題を乗り越える事ができたかどうかだった。


「...そういえばシエルは?」


アッシュはシエルの事を思い出しルーシェに居場所を問う。


「分からないわ。私も兵士達と戦うので精一杯だったから...」

「まさか...シエルに何かあったのか!?」


アッシュは慌てて広場内を駆け回る。


広場は倒れた兵士の死体と勝利で喜ぶレジスタンスや街の人間でごった返していた。

その中を掻き分けながらアッシュは必死にシエルを探す。


「シエル! どこだ!」


もしかしたら先ほどまでの戦闘に巻き込まれたかもしれない。

アッシュの顔に焦りが浮かぶ。

もし今自分がシエルを失ったら、改めて自分の中での彼女の大切さを思い知る。


広場の中を探し回り、泉の近くまで来た時だった。

泉に装置が設置されていた事をアッシュは思い出す。

もしかしてそこにシエルがいるのでは、アッシュは急いで装置まで走った。


大きな装置の裏、そこに彼女はいた。

真剣な表情で装置の停止作業をしているシエルの顔を見てアッシュは脱力する。


「シエル、ここにいたのか。」


アッシュはゆっくり歩きながら声をかける。

シエルは表情を変えず、声をかけたアッシュを見た。


「どうしたのよ、そんな顔をして。まさか私が死んだとでも思った?」

「お前な...人がどれだけ心配したと思ってるんだよ...」


アッシュは彼女のそばまで歩み寄ると、彼女がつい今しがたまで真剣に見ていた装置に目をやる。


「こいつがお前の研究してた物なのか...それで何か分かったのか?」


アッシュの問いにシエルは立ち上がって装置をバンと叩く。


「アーサーはこれを使って精霊の力を水から抜き取っていた。それはこの装置を見た時から分かっていたのよ。でもそれを何に使っていたのかが分からなかったの。」


アーサーの真の目的、確かにそこまではアッシュも分かっていなかった。

家族を失った事で始まったアーサーの暴走。

なぜ彼が精霊の力を集めていたのか、精霊の力を何に使っていたのか、それは全くの謎だった。


「昨日彼の屋敷に行った時に研究室に案内されたわ。そこで私は彼の研究の本当の目的を見たの。」


シエルの言葉にアッシュは唾を呑む。

アーサーが何を考えていたのか、いよいよそれが明らかになるのだ。


「彼の本当の目的は街の人間の精神支配よ。全ての人間の精神を支配して悲しみや苦しみを感じない世界を作ろうとしてたのよ。」


シエルの言葉にアッシュはアーサーが言っていた言葉を思い出す。


「新しい国を作る」


アーサーは自分が受けた家族を失った悲しみや苦しみから人々がそういう辛い思いをしなくても良い国を作りたかったのだ。


「アーサーは魔術師によって兵士を人形のように操っていた。あれもこの計画のための実験だったのよね。」

「そうか......そう考えるとアーサーは本当の悪人じゃなかったんだな...」


アッシュとシエルは動きの止まった装置を見ながらアーサーの思いに心を痛めていた。


「シエル...俺は今回の事でお前がいなくなる事の恐怖を知った。小さい頃からお前がそばにいるのが当たり前だったから。もしお前を失ったら俺もアーサーの考えに同調してたかもしれない...」


難しい顔で言うアッシュの額をシエルは指でパチンと弾く。


「私はいなくならないわよ。私とあんたは二人で何でも屋でしょ。あんた一人じゃできる訳ないじゃない。」


シエルはそう言って笑みを見せる。


「そうだな...俺達は二人揃っての何でも屋だ。これからもそれは変わらない。」


アッシュはその笑みを見て心が軽くなった気がした。



ウォルドの街が解放され、その日は一日中お祭り騒ぎとなっていた。

人々は久しぶりに自由に外に出て酒を飲んだり友人同士で騒ぎあったりと自由な時間を過ごしている。

ルーシェはこの時を久しぶりに見れる事に喜びを感じていた。

その光景を見ながら泉の淵に座り一人酒を呑む。

そんなルーシェのそばにアッシュが寄ってきた。


「こんな所で何一人で呑んでるんだよ。お前も向こうでみんなで呑もうぜ。」


アッシュはアーサーを倒した英雄として扱われ散々街の人間に酒を呑まされてきており、既に顔が赤くなっていた。


「私はここでいいわ。あなた達が来なかったらこの時間は生まれなかったんだもの。今日はあなた達が主役なのよ。」

「バカ言ってるなよ。」


アッシュはルーシェの隣に座る。


「お前だって今日は頑張った一人だろ。この街を考えて戦い続けてた主役の一人だ。」

「...ありがとう、アッシュ...」


ルーシェはアッシュの言葉に救われた気持ちになりながら酒を呑む。


「アッシュ...あなたはもう帰ってしまうの? ここにしばらく残って私を助けてくれない?」


突然のルーシェの提案。

アッシュの酒を呑む手が止まる。


「......悪い、ルーシェ。今の俺はルミナの町の何でも屋だ。もう騎士団にいた頃の俺じゃない......」

「......そう。仕方ないか......」


二人は黙って酒を呑む。


「シエルの事を大事にしてあげなさいよ。あなたの大切な相棒なんでしょ。」

「分かってるよ。今の俺には命の次に大事な存在だ。あいつの事は俺がしっかり守る。」


強い口調で言うアッシュをルーシェは羨ましそうな目で見つめる。

その視線に気付き、アッシュは照れ臭そうに星の煌めく夜空を見上げた。



次の日、街の門の前。

アッシュ達三人はルミナの町に戻る事になり門までルーシェに見送られた。


「ありがとう、アッシュ。あなた達がきてくれて本当に良かった。」

「礼なら俺達をここに来させたルミナの領主に言ってくれ。それがなければ俺達はここに来なかったんだから。」


ルーシェはその言葉に微笑むとシエルを見る。


「シエル、今のアッシュはあなたに任せたわ。きっとあなたならアッシュの最高のパートナーになれるわ。」

「そうだといいわね。まあ私がいないとアッシュは何もできないから離れられないでしょうけど。」


そう言って笑うシエルにアッシュが「ふざけるな!」と声を上げる。


「それじゃあな、ルーシェ。これから大変だと思うけど頑張れよ。」

「あなた達も何でも屋を頑張ってね。いつかルミナの町にも遊びに行くわ。」


アッシュ達は馬に乗るとウォルドの街から駆け出した。

その後ろ姿が見えなくなるまでルーシェはじっと見続けていた。

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