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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第23話:二つの道

作戦会議を終えたアッシュたちは、それぞれの持ち場へと向かうために地下室を出た。


「クロエ、無理はするなよ。何かあったらすぐに戻ってくるんだ。」


アッシュは心配そうにクロエに声をかける。


「はい! アッシュ様も気をつけてください!」


クロエは、ルーシェの隣で不安げな顔をしながらも、力強く頷いた。


「心配いらないわ。私がついているんだから。」


ルーシェは微笑むと、クロエと顔を見合わせ、覚悟を決めたように地下水路へと向かった。


地下水路は、何百年も人の手が入っていないようで、壁には苔がびっしりと生え、湿った土の匂いが立ち込めていた。

水路を流れる水は不気味に濁り、上階から漏れてくる光もほとんど届かない。

クロエは杖の先に魔力を灯し、あたりを照らす。


「なんだか不気味な場所ですね...」


杖の灯りで周りを見ながらクロエが言う。


「ええ。ここは出来上がってからまったく人の手が入ってないみたいね。確か祭壇は水の精霊の力が一番強い場所にあったはずよ。」

「精霊の力ですか...感じ取れるかちょっと試してみます。」


そう言うと、クロエは目を閉じて、かすかに残る精霊の魔力を感じ取ろうとした。

しかし街を覆う淀んだ魔力が邪魔をし、なかなか正確な場所を特定できない。


「だめです...まったく感じ取る事ができません...」

「やはり精霊の力が弱っているのかしら。ひとまず泉の下にあたるところまで進んでみよう。」


二人は暗い地下道をひたすらに進む。


しばらく進んだ時だった。

通路の先に灯りらしきものが見えた。


「...こんな地下水路に灯りなんてどういう事?」


ルーシェは立ち止まると腰の剣に手をかけた。


「ルーシェさん、嫌な予感がします...」


クロエも両手で杖を強く握りしめる。

その灯りが大きくなるにつれ足音が聞こえてきた。

それは一人のものではなく複数人の、しかも軍靴のものだった。


「まずい! クロエ、逃げるわよ!」


そう言うとルーシェは反対側に向かって走り出す。

クロエも慌ててそれに続く。


二人はなんとかして地下水路の出口まで走る。

しかし、そこに待っていたのは領主に仕える兵士達だった。


「反乱者ルーシェ・ヒグス! 大人しくしろ!」


兵士達は槍を構えルーシェ達に向ける。

慌てて剣を抜こうとするルーシェだったが、後ろからも兵士が駆け寄ってくるのを感じると抵抗を諦めた。


「なんでこの計画がばれたの...?」


悔しそうに言うルーシェの前に兵士達の隊長が立つ。


「貴様の居場所などとっくに分かっていたのだ。ただアーサー様のお慈悲で何も行動しなければ放っておいたのだ。今回仲間を引き連れて動き出したのがいけなかったのだよ。」


隊長はそう言うと後ろの兵士達に二人を捕らえるよう命じる。

ルーシェ達は逆らう事はせず、大人しく兵士達に取り押さえられたのだった。


一方、アッシュとシエルは、ウォルドの街中へと身を隠しながら慎重に向かっていた。


「まさか、ルーシェが指名手配されるなんてな...」


アッシュは、街並みを見上げながらぽつりと呟いた。

街は昼間だというのに活気がなく、人々はみな暗い顔をしている。


「あなたの元恋人は間違った事はしてないわ。ただやり方を間違えたのと味方がいなかっただけよ。」

「味方か......」


シエルに言われアッシュは考えてしまう。


もし自分がルーシェと一緒にこの街来ていたなら。

もっとルーシェと綿密に連絡を取っていたなら。


難しい顔をしてしまったアッシュをほぐすかのようにシエルが声をかける。


「アッシュ、これが終わったらしっかりルーシェさんと話してきなさいよ。あんたも話したい事はいっぱいあるんでしょ?」

「シエル......」


考えてる事を見透かされたかアッシュは苦笑を浮かべる。


「それにしてもあの二人、大丈夫かしら。特にクロエが心配だわ。」


シエルはクロエの身を案じながらも、鋭い視線を周囲に向けていた。


「大丈夫だ。ルーシェも騎士団にいたんだ。クロエの事もきっと守ってくれる。それより、何か変わったことはないか?」


アッシュの問いにシエルはしばらく周囲を見渡すと、不自然な光景に気づいた。


「アッシュ、この街さっきから人にまったく会ってないわよね?」

「そういやそうだな。店も開いてなけりゃ通行人も歩いてない。」

「いくら兵士が傲慢ぶってると言っても人ぐらい歩いててもおかしくないでしょ。なんで誰も歩いてないの?」


シエルの疑問にアッシュは言葉を詰まらせる。

これだけの大きな街だ。いくら領主が何かやっていると言っても生活する人々がいるはずなのだ。

だが現実として二人の前には人が一人もいなかった。


「領主の実験、ひょっとしたらとんでもない事になってるのかもしれないわね。」

「なんであろうと止めるしかない。でないとこの街だけじゃなく国全体がとんでもない事になっちまいそうだ。」


二人がしばらく歩みを進めると、商業地区と思われる通りに出た。

普段なら店が沢山出ているのであろう通りだが、今は人っ子一人いない廃墟の街のような状態だった。


「こりゃいよいよ領主がやばい事をやってるという感じだな...」

「! アッシュ、隠れて!」


シエルが小さいながらも力のこもった声でアッシュを誘導する。アッシュもそれに従い建物の影に身を隠す。


「どうしたシエル?」

「あそこに人がいるわ...だけど様子がおかしい。」


シエルが指差す方を見ると、明らかに何か様子がおかしい兵士が一人、うろうろと歩き回っていた。


「兵士か...だけど何か変だな? 歩き方もおぼつかない感じだ。」


アッシュは、警戒しながら兵士の様子を観察する。

すると、兵士は突然立ち止まり、まるで何かに取り憑かれたかのように、大きな声で叫び出した。


「精霊様は、我々に栄光を与えてくださる! 逆らう者は...みんな...みんな...!」


兵士の目は血走り、その顔は苦痛と狂気に歪んでいた。


「なんだありゃ...? 気でも狂ったのか?」

「私にも分からないわよ。でもあれは何かの力で正気を失っているんだわ。」


シエルは顔を青ざめ、アッシュもまた、目の前の光景に言葉を失った。


「とにかく何が起きてるのか調べるためにも泉まで行かないと...」


その時、背後から別の足音が近づいてくる。

振り返ると、そこには同じように兵士が二人、槍を構えて立っていた。

通りの兵士に気を取られ足音に気づかなかったのが悔やまれた。


「貴様ら...先ほど逃げたルーシェ・ヒグスの仲間だな! ルーシェの居場所をはいてもらうぞ!」


二人の兵士は、同時にアッシュたちに襲いかかってきた。

アッシュは咄嗟に剣を抜き、迫り来る槍を鋭く弾く。

キインと、乾いた金属音が街に響き渡った。


「シエル! お前は先に泉に行け! こいつらは俺が何とかする!」

「...分かったわ! 必ず生き残って泉まで来なさいよ!」


そう言うとシエルは一気に大通りに出て走り出した。

他の兵士に見つかる可能性もあったが、状況を考えるともはやそんな事を言っている時間がなさそうだった。


通りを走り抜けると街の中心部に当たる広場に出る。

地図ではその広場の中央にアクアリスの泉があるとなっていた。


「嘘...でしょ...?」


広場の近くに到着し、建物の影から覗いたシエルは言葉を失った。

泉の中心にあるはずのアクアリスの像は破壊されていた。

そして古代遺跡の遺物と思われる大きな機械が取り付けられていた。

それが泉から水を汲み出し、何かを行った後に地下水路に水を捨てていた。


「あれは...私が研究していた装置...? だけど何か進化している...」


シエルが王都にいた頃、あらゆる物を解析する事ができるという古代遺跡の遺物について研究をしていた。

だが、研究が完了し結果をまとめた後、その研究資料と遺物は何者かに盗まれてしまった。

シエルはその責任を取って王都を去ったのだった。


シエルは建物に隠れながらゆっくりと近づいていく。

遺物はすごい音を立てて泉から水を吸い上げ、そこから分離した何かが横の巨大なビンに注がれていく。


「あれは...水を吸い上げた後に解析して何かしらの成分を抜き取っているのね...」


シエルが遺物をじっくりと見ている時だった。


「貴様! 何をしている!」


その声に慌てて振り向くといつの間にか数人の兵士が槍を構えてシエルに向けていた。


「しまった...遺物に気を取られすぎてた...」


シエルは迂闊だった自分を叱咤しながら兵士達を見つめていた。

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