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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第21話:水の都

ウォルドはエスペリア内でも王都に次ぐ2番目に大きな街である。

ウォルドの領主であるアーサー・ガバリオンは元々王都の騎士団長を務めていた。

そこで実績を重ねた事により大臣に任命され、主に軍備についての担当を任されていた。

そんな折、ウォルドの街を築く事になり、その領主にアーサーが任命された。

ウォルドを作る地方では昔から水の精霊が信仰されており、ここでも水の精霊を信仰する事で街の繁栄を願った。

そのため街の中心には水の精霊の王である『アクアリス』の像が建てられた泉が作られている。



領主から依頼を受けた翌日、三人は旅の支度を終え屋敷へと向かった。

今回の旅は長くなりそうな気がする、アッシュはそう感じたのか剣を三本用意した。

騎士団時代から長期に渡る遠征の時は何かあってもいいように予備の剣を多く持って歩いていた。

当然ウォルドでも武器屋はあるのだろうが、アッシュは自分の手に馴染んだ物が一番だった。


領主の家の前に行くと、そこにはとても普通の冒険者が使う事はないだろう、貴族向けの馬車が停まっていた。


「...おいおい、ひょっとしてこれでウォルドまで行けって言うのか?」

三人が口を揃える中、屋敷の中から領主が現れた。

「君達のために急いで馬車を手配させてもらった。これでウォルドまで向かって欲しい。」


昨日とは違い笑顔で語る領主にアッシュが声をかける。


「領主さん、悪いけどこれで行ったら目立ちすぎるぜ。そもそも、今回の依頼は公にしたくない話じゃなかったか?」

「しかしな、私の所にある馬車はこれしかないのだ。これで無理となるとどうしたものか...」


頭を悩ます領主にアッシュはため息をつく。


「領主様、せっかくですが私たちは馬だけ借りてウォルドに向かおうと思います。その方が目立たないでしょうし。」


シエルが言うと領主は「そうか...」とさも残念そうな顔をした。

すぐに馬車から馬だけをはずしてアッシュ達に貸し出されると颯爽とアッシュは馬に乗り込む。


「さすがアッシュ様。馬に乗る姿が様になってますね。」

「まあ、騎士団時代に散々乗ったからな。それよりシエルとクロエは馬に乗れるのか?」


アッシュが聞くとシエルとクロエは顔を見合わせる。


「私は王都にいた頃に何回か乗った事あるわ。クロエは?」

「私はその……馬に乗った事は一度もなくて……」


そう言うと「あはは…」と乾いた笑いを見せるクロエ。


「仕方ない。シエル、お前はそっちの馬に乗れよ。クロエは俺の後ろに乗れ。」

「いいんですか!?」


アッシュの提案にクロエは飛びつく。


「ぜひアッシュ様の後ろに乗りたいです! できればアッシュ様の前に乗って腕で抱えられる感じで乗りたいですが…」


邪な願望を言い出すクロエの背中をシエルが叩く。


「アホな事言ってないでさっさと乗なさい。今から出て今日中にウォルドに着かないと。」

「やっぱりダメですよね…分かりました。」


クロエは渋々とアッシュの後ろに乗った。まあその間もアッシュに腕を引っ張り上げられて喜んではいたのだが。


「では領主様。行ってきます。」

「頼んだぞ。何かわかったらすぐにこちらに知らせるんだ。」


領主と数人の騎士達に見送られ、アッシュ達はルミナの町を出発した。


ルミナの町からウォルドまではそこまで遠くはない。

馬で街道を駆け抜ければ1日で着ける距離だ。

途中にはいくつか小さな村があり、そこで休憩をしていく事もできる。

三人は二つ目の村で休憩する事を目標に馬を走らせた。

途中ですれ違う旅人や商人などを見ると町を出たという実感も湧く。


日がだいぶ登った頃、三人は二つ目の村に到着した。

村には小さな宿屋と酒場が一緒になった建物があり、彼らはそこで休憩を取ることにした。

時刻は昼時で、酒場は村の男たちや数人の旅人たちで賑わっていた。

アッシュたちが隅の席に座ると、シエルはすかさずウェイトレスに水を注文し、さりげなくウォルドの話題を切り出した。


「私たち、ウォルドの友人の所に行こうと旅をしているんですが、最近、ウォルドって何かあったんですか? なんか友人と連絡が取れなくなってしまって。」


ウェイトレスは顔を曇らせた。


「さあ、最近はあまりウォルドから来る旅人さんを見かけないんですよ。それに…」


彼女は声を潜めた。


「つい先日、ウォルドから来た商人が、なんだかひどく怯えている様子だったと聞いたんです。理由を聞いても何も話してくれなかったみたいで…」


シエルはアッシュとクロエに目配せをする。

アッシュは黙ってウェイトレスの話に耳を傾けていた。すると、隣のテーブルに座っていた老人が、口を挟んできた。


「いや、ウォルドに行った旅人に何人かあったが、みんな同じことを言っておったわ。街の入り口で身分証を厳しくチェックされ、目的を尋ねられる。少しでも怪しいと判断されたら、追い返されるらしい。」

「それは…尋常じゃないですね…ウォルドで何があったんでしょうか?」


シエルが、眉をひそめながら尋ねる。


「詳しいことはわしも分からん。ただ、ここを流れる川の水は、ウォルドの街から続いているんじゃが、最近、やけに濁って、生臭い匂いがするようになったと聞く。あの土地は水の精霊の恩恵を受けた土地じゃ。何か良からぬ事でも起こってなければいいがのう…」


老人はそこまで言うと、不自然に口を閉ざした。

アッシュは彼の言葉を頭に刻み込むと、静かに立ち上がった。


「シエル、クロエ。出発するぞ。」

「分かったわ。お爺さん、ありがとうございました。ほんのお礼です。」


シエルは老人のテーブルに少量の銀貨を置いて店を出る。

三人は急いで宿屋を後にし、再び馬に乗った。

先ほどの村で聞いた不穏な情報が、彼らの心を重くした。


ウォルドへ続く街道をひたすら馬で走る。

日が傾き始め、空がオレンジ色に染まる頃、彼らの目の前に巨大な城壁が見えてきた。

それが、水の都ウォルドだった。

街に近づくにつれて、アッシュは水の匂いを感じた。

しかし、それは清らかな水の匂いではなかった。

どことなく生臭く、淀んだ匂いだ。クロエがアッシュの背中にしがみつき、不安そうに囁いた。


「アッシュ様…この街、なんだかおかしいです…」


彼女の言葉に、アッシュは無言で頷いた。

夕暮れの光に照らされ、高くそびえ立つ城壁。門の周りには普段より多くの兵士が配置され、入ろうとする人々の顔を厳しい目つきで確認している。

この街で何が起こっているのか。そして、アッシュの元恋人は無事なのか。

不穏な空気の中、三人は馬を降りてウォルドの門へと向かった。

門に近づくアッシュ達に兵士達が駆け寄ってくる。


「貴様ら旅人か? この町に何の用だ?」

「私たちはここに住む友人に会いに来たんです。入らせてもらえませんか?」


シエルが言うと兵士の一人が眉をひそめる。


「友人だと? 名前はなんだ?」


唐突な質問。さすがにそこまではシエルは答えられない。

シエルが回答に困っているとアッシュが口を開いた。


「ルーシェ・ヒグス。友人の名前です。」


アッシュは、わざと「友人」と強調した。その言葉に兵士が反応する。


「何?」


瞬間アッシュ達は兵士に囲まれた。


「なな、なんですか…! いきなり囲まれるなんて私たち何もしてませんよ!」


驚いたクロエがアッシュにしがみつきながら抗議する。


「その男が言った名前、ルーシェ・ヒグスは現在指名手配中になっている。貴様らが仲間の可能性もある。」

「なんだって!?」


今度はアッシュが声を上げる。

一体ルーシェに何があったのか、だが考えている隙はないように見えた。

兵士達はジリジリとアッシュ達に詰め寄ってくる。


「アッシュ、あんたのお友達は何をしでかしたのよ?」

「知らねえよ。俺が聞きたいぐらいだ。」


兵士達が三人に手をかけようとした時だった。突然どこからか矢が兵士達目掛け飛んできた。


「お前達、こっちだ!」


どこからか声が聞こえる。三人は頷くと兵士達をかき分け声のする方に走った。

その後を兵士が慌てて追おうとするも続けて飛んでくる矢に足止めをされる。

三人は門をくぐると急いで街の中に駆け込んだ。


「こっちに来い!」


入ってすぐの細い路地から声がする。

三人は声の方向へと走った。

路地を走り抜け、街の端にある墓地まで来たところに自分達を助けたと思われるフードの人間が立っていた。


「誰だか知らないけど助かった。一体この街はどうなってるんだよ?」


アッシュの声に目の前に立つ人間がフードを取る。


「久しぶりだな、アッシュ。」

「あ! お、お前は……?」


フードの下から現れたのはブロンドの長い髪をした女性だった。

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