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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第20話:GO WEST

エルフの森での事件を終え、アッシュたちは事務所でつかの間の休息を取っていた。


町の食料品店で起こっていた異変は、彼らが精霊の暴走を止めたことで自然に解決したが、その真相を知る者は限られていた。

食料品店の店主には「泥棒は無事捕まった」とだけ報告した。

報酬は微々たる物ではあったが、それ以上にエルフという新たな人脈ができた事はアッシュたちには収穫だった。


穏やかな昼下がり、アッシュは慣れた手つきで剣の手入れを、シエルは広げた地図を前に思索にふけり、クロエは一人、小さな魔法の練習に静かに打ち込んでいた。


そんな中、事務所の扉をノックする音が響いた。

普段、依頼人が訪れる時とは違う、硬質で規則的な音だった。

シエルが「どうぞ」と声をかけると、扉が開き、町の兵士が一人、硬い表情で入ってきた。


兵士の姿は、いつもの見回りとは明らかに違っていた。

身につけた鎧は磨き上げられ、彼の顔には緊張と疲労の色が浮かんでいる。

彼は警戒するように周囲を見渡し、アッシュとシエル、そしてクロエの顔を確認すると、居住まいを正した。


「アッシュ殿、シエル殿。領主様がお二人をお呼びです。至急お越しいただきたいと。」


兵士は、普段彼らと接する時よりも明らかに丁寧な口調だった。

そのただならぬ雰囲気に、アッシュとシエルは顔を見合わせた。何事かと問うシエルに、兵士は首を振る。


「私もなぜ領主様が呼んでいるのかは分かりません。ただ…領主様は大変お心を痛めておられるご様子でした。」


その言葉に、アッシュは嫌な予感を覚えた。

兵士のただならぬ様子、そして伝言の内容が、単なる依頼ではないことを物語っていた。


「あまり行きたくない感じがするな…」


アッシュはめんどくさそうに頭を掻く。


「とはいえ私たちをご指名なんだから仕事の依頼でしょ。行くべきだとは思うわ。」


シエルは兵士の言葉からお金の匂いを感じ取っていた。


「あのう…それって私も着いていっても大丈夫でしょうか…?」


クロエがおずおずと手を挙げて言う。


「領主様は何でも屋のお二人をという事でしたので、あなたも何でも屋の方なら大丈夫だと思いますが…」


兵士は予想外の人間がいた事に驚くも問題ないだろうと判断する。


「仕方ない。それじゃあ行ってみるか。」


彼らはすぐに準備を整え、クロエを伴い領主の館へと向かった。



広大な敷地に立つ領主の館は、いつもなら賑やかなはずの庭も、今日は静まり返っていた。

重厚な扉が開き、一行は応接室に通された。

部屋の奥には、不安げな表情で立ち尽くす領主の姿がある。


「おお、そなたらが噂の町の何でも屋か! よく来てくれた! …噂では二人と聞いていたが…?」


領主はアッシュとシエルの顔を見て、そしてクロエの顔を見て首を捻る。


「彼女は見習いです。今までは二人だったんですが、今は三人でやっています。」

「そうだったか、まあ良い。立ち話もなんだから座って話をしよう。」


そう言うと領主はアッシュたちをソファに案内する。三人はおとなしくソファに腰掛ける。


「それで俺たちを呼び出した理由はなんなんだ? 領主様直々に声をかけてくれるなんてよっぽどな事だと思うんだけど。」


アッシュにせかされ、領主は真剣な顔になる。


「君達をこうして直接呼び立てしたのは、他でもない。我が領が今直面しているこの難題を、公にすることなく、君たちの手で解決してほしいと、切に願っているからだ。」


領主はそう切り出すと、言葉を続けた。


「本来であれば、我が領の騎士団に命じるところだが、君たちの方が向いていると感じた。だからこそ、このような異例の頼みをすることになった。どうか、力を貸してほしい。」


領主は、神妙な面持ちで彼らに頭を下げた。


「ちょっと待ってくれ。騎士団を動かすほどってよっぽどの事じゃないか? そんな仕事を俺たちに依頼しようって言うのか?」


アッシュは慌てて領主を問い詰める。シエルも横で疑わしい眼を領主に向ける。


「騎士団の人間に任せようとすると大事になってしまうからな。あまり事を大きくしたくないのだよ。」

「はあ……まあ、とりあえずその内容を聞かせてもらいたいな。受けるかどうかはそれからだ。」


アッシュの言葉に領主は頭を上げると内容を話し始めた。


「実はここから離れたところにある水の都ウォルドと連絡がまったく取れなくなってしまったのだ。通常であれば定期的に交流のやり取りをしていたのだが、それがここ数週間まったく使者が来なくなったのだよ。」


水の都ウォルドは、精霊の祝福を受けた水の恩恵で栄えている都市で、この町とは長年にわたり友好的な関係を築いていた。

ウォルドの領主は義理堅いと有名で突然連絡が取れなくなると言うのは確かに何かあったのかもしれないと思わされる。


「ウォルドで何が起きているのかは分からないが、このまま連絡が取れないとなると王都まで話を持っていかなくてはならなくなる。それだけは絶対に避けたいのだ。それで君達にウォルドの街に行って何が起きているのかを調べてきてほしいのだ。」


領主の切実な訴えに、アッシュは腕を組んで考え込んだ。シエルは、冷静に領主に尋ねる。


「単純に連絡が遅れているという事はありませんか?」

「それはない。あの街の領主の噂は君達も知っているだろう。それにこちらから使者を送ったところ、門前払いをされたぐらいだからな。」

「なるほど…そうなるとやはり向こうの領主に何かあったと考えるのが正しいでしょうね…」


アッシュは、静かに剣の柄に手をかけた。


「……分かった。この依頼、引き受ける。ウォルドには、俺の知り合いもいる。行けば、なにか手掛かりが得られるかもしれない。」


クロエはアッシュの言葉に静かに頷き、シエルもまた、アッシュの決意に異論はないという顔で頷いた。


「そうか、引き受けてくれるか。なら馬や道中の食料、路銀はこちらで用意しよう。明日にでも出発してほしいのだができるか?」

「問題ないさ。明日の朝にまたここに来るからそれまでに用意しておいてもらえれば。」


領主はアッシュの話を承諾すると、前金としてかなりの金額をシエルに渡してきた。

正直ウォルドの街に行って何もなかったとしても問題ないほどの金額だった。


三人は話が終わると一度事務所へと戻る。


「アッシュ、ウォルドの知人ってどんな関係なの?」

シエルが尋ねるとアッシュは少し苦い顔をしながら話す。

「……騎士団時代の恋人だ。同じ騎士団で俺よりも早く辞めて生まれ故郷のウォルドに戻ったんだ。」

「「恋人!?」」


恋人と言う突然の言葉にシエルもクロエも驚きを隠せない。

アッシュはそういう色恋沙汰にはまったく無関係だとシエルは思っていた。そんなアッシュにまさか恋人がいたとは、シエルの心は微妙な感じになっていた。


「アッシュ様! 昔の恋人と言っても今はもう関係ないんですよね!?」


クロエが鼻息を荒くしてアッシュに詰め寄る。


「当たり前だろ。関係があったら俺はウォルドの街に移り住んでる。今はどうしてるのかも知らないよ。」

「ならいいですけど……」


クロエは多少溜飲が下がったのかソファにどっしりと座る。


「まあいいわ。そのアッシュの元恋人(・・・)にも会ってみたいし、情報も得られるなら問題ないわ。」

「なんかえらい強調された気がするんだが……まあ行って話してみればどんなやつか分かるさ。」


アッシュはそう言うと、窓の外に広がる夕焼けを眺めながら、遠い日の思い出に浸っていた。

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