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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第2話:罪と救済

時計塔の内部。

ごっそりと抜き取られた歯車の痕跡を前に、二人は息をのんだ。町を支える心臓部が、何者かに盗まれたのだ。


「……何者かに、盗まれたのよ。」


シエルの静かな声に、アッシュは驚愕の表情を浮かべる。

だが、シエルはすでに次の段階へと思考を進めていた。

彼女は床に落ちていた、素朴な作りの木の人形を拾い上げた。顔には無愛想な表情が彫られている。


「アッシュ、これに見覚えは?」


アッシュは人形を手に取り、まじまじと見つめた。

その表情が、次第に驚きに変わっていく。


「これ、レンが作ってたやつだ。なんでこんな所にあるんだ?」

「レン……?」


シエルは小さく呟いた。


「ああ、町に住んでるやつだよ。この人形は少し不格好だけどなぜか妙に味があるって、子どもたちの間で人気なんだぜ。」


アッシュは、レンという少年が病気の妹のために、この人形を売って生活費を稼いでいることを知っていた。


「なるほどね……という事は、そのレンって子が歯車を盗んだ可能性が高いわね。」

「でもなんであいつがそんなことするんだ? 歯車なんて盗んでもなんの得にもならないだろうに。」


アッシュは頭を捻る。


「アッシュは知らないかもしれないけど、こういう歯車って今の技術じゃ小さいものを作れないのよ。そうなった時に使われるのは古代遺跡から見つかった小さいものなの。」

「なるほど……それで、その小さい歯車を盗むと何かいい事があるのか?」


話をイマイチ理解できていないアッシュに、シエルはため息をつく。


「要するに、そういう特殊な部品はお金になるってことよ。さっきのあんたの話から、おそらくそのレンって子は歯車を盗んで売り飛ばし、生活費にしようって考えたんでしょうね。」


シエルの想像にアッシュは「なるほど」と頷いた。


「とりあえずそのレンって子を追いましょ。アッシュ、その子の家は知ってる?」

「俺は知らないけど、町の中の誰かなら知ってるんじゃないかな。」

「分かったわ、じゃあ行きましょ。」


二人は時計塔を後にし、不安げに待っていた管理者の老人の元へと向かった。

老人は二人の顔を見て、事態が深刻であることを察した。


「どうだったんじゃ……? 原因はわかったのか?」


アッシュは言葉を詰まらせたが、シエルが冷静に答える。


「はい、原因は歯車の盗難です。ただ、犯人はわかりました。」


シエルの言葉に、老人は愕然とした。


「盗難……? 一体誰が、そんなことを……。」


アッシュは老人の肩にそっと手を置き、言った。


「爺さん、俺たちに任せてくれ。必ず歯車を取り戻してくる。」


アッシュの力強い言葉に、老人はわずかに安堵の表情を浮かべた。


「それで、お爺さん、質問なんだけどレンって子の家は知ってる?」


シエルの質問に、老人は「レン……?」と首を傾げる。

そこに近くにいた住民の一人が入ってきた。


「レンって、あの人形売りのレンだろ? あいつならここから北に行った所にある、赤くて古いアパートに住んでるよ。」

「なるほど、ありがと。次にうちを利用してくれる時にサービスするね。」


シエルは教えてくれた住民にウインクして返す。



二人は、急いでレンが暮らすという古いアパートへと向かった。

どの部屋も灯りが消えている中、一室だけ灯りが窓から漏れていた。


「あそこがレンの家か。」

「そうね、行きましょう。」


二人は階段を上がり、灯りが漏れていた部屋の前まで向かう。

アッシュはそっとドアをノックした。だが、中からは返事がない。


「どうする?」

「どうするも何も行くしかないわよ。」


シエルは何も言わずに扉を開けた。

そこには病に伏せている妹のミオと、震える手で薬をミオに飲ませようとしているレンの姿があった。

レンは、アッシュとシエルが訪れたことに驚き、ミオを庇うようにして二人を睨んだ。


「何だよお前ら……! 何の用だ!」

「レン、お前がしたことは分かってるんだ。おとなしく盗んだ歯車を返すんだ。あれは子供がやっていいことじゃない。」

「な、何言ってるんだ……! 俺は何もしてない!」


アッシュは何も言わずに部屋に入っていくとレンの腕を掴んだ。レンは必死に暴れるが、アッシュの力にはかなわない。


「話を聞かせてくれ、レン。歯車はどこだ? 時計塔が動かなくなったら、この町自体が大変なことになるんだ。」


アッシュの問いに、レンは悔しそうに顔を歪める。

彼は歯車を盗んだことを決して認めず、「僕じゃない!」と必死に嘘をつき続けた。

しかし、アッシュは力ずくではなく、彼の目に真っ直ぐ向き合い語りかけた。


「お前がやったことは悪いことだ。だけど、俺たちに話してくれ。きっと、何かお前たちを救う方法はあるはずだ。」


アッシュの不器用だが真っ直ぐな言葉に、レンは一瞬、抵抗するのをやめた。


一方シエルはミオに近づき病状を観察する。

彼女の顔色は良くなく、時折咳をする。


「なるほど。これはそんなに酷い病気じゃないわね。普通に医者で貰った薬を飲めば治るはずだけど。」

「……医者なんて俺たちには高すぎるよ。生活するのがやっとなのに医者なんていけるわけがないよ。」

「じゃあ今彼女に飲ませている薬はどうしたの?」

「前に町に来てた奴に安く売ってもらったんだ。これを飲ませていれば大丈夫だって……」


シエルはレンがミオに飲ませようとしていた薬を手に取った。その匂いを嗅ぐと、眉をひそめる。


「レン。残念ながらこれは薬じゃないわ。子供だからってそいつが騙したのね。」

「え……そんな……じゃあミオは……」


落胆するレンにアッシュが声をかける。


「レン、ミオの病気は俺たちがなんとかしてやる。これは男としての約束だ。だから歯車を出してくれ。」

「……」


アッシュの言葉は、レンの心を動かした。

彼は、アッシュとシエルを信じ、隠していた歯車を差し出した。

シエルは歯車を手に取ると、急いで部屋を飛び出していった。恐らく時計塔に向かったのだろう。

残ったアッシュはレンとの会話を続ける。


「レン、どうしてあの歯車を盗もうと考えたんだ?」

「……俺の父さんは古代遺跡の発掘をやってたんだ。それで歯車の話を聞いたことがあって……それなら売ればお金になると思ったんだ……」

「そうか。お前は妹を守りたかったんだな。」


アッシュは、小さい頃にいじめられていたシエルを守っていた自分のことを思い出した。

あの頃にシエルを守り続けるために強くなると決めたからこそ、自分は王都で騎士にもなった。


「なあ、兄ちゃん……さっき言ってたミオを助けてくれるって話……」

「ああ。約束は守る。俺たち、何でも屋だからな。どんな困りごとでも解決してやるぜ。」


アッシュはレンに笑顔を見せた。

その笑顔を見てレンの顔にも笑みが浮かぶ。二人の絆が深まった瞬間だった。


その後、時計塔はシエルが無事に修復し、町の電気は戻った。

管理人の老人には歯車を盗んだのは盗人だったと語り、レンの名前は出さなかった。

アッシュはミオを医者に連れて行き、無事に正しい薬をもらった。

治療費は何でも屋のお金から払った。

シエルには「また赤字が増えたじゃない」と言われたが、アッシュは気にしなかった。

幼い少年とその妹の笑顔。それこそが、アッシュにとって何よりの報酬だった。

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