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黄昏の国の何でも屋 ー古代遺産に刻まれた夢ー  作者: かみやまあおい
第一章

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第14話:絡み合う因縁

依頼主である林業家の男性に案内された場所は、町の郊外にある手入れの行き届いた森だった。

しかし、その一角は、まるで時間の流れが止まってしまったかのように、木々が葉を失い、枝を垂らしている。

土は水分を吸い尽くされ、かさかさに乾いていた。


「こりゃ確かに酷いな……」


森の悲惨な状況を見てアッシュは呟く。

シエルは険しい表情で地面に膝をつき、枯れ葉を手に取って観察する。


「確かにただの病気ではないわね。土壌も荒れてないし、害虫の痕跡もない。」


アッシュは周囲を見回しながら、この異変の不自然さを感じていた。


「そうだな。まるで生命力だけがごっそり抜き取られたみたいだ。」


クロエが真剣な顔で一歩前に出た。


「アッシュ様のおっしゃる通りです。これは、自然現象ではありません。確実に魔術で起こされたものです。」


アッシュとシエルが驚いてクロエを見る。


「クロエ、何か分かるの?」

「はい、このあたりに魔術の痕跡が残っています。」

「痕跡?」


シエルはクロエの言葉の意味がわからず尋ねる。


「魔術は体内から練り上げたマナを原動力として発動します。発動した後は使用したマナの残滓が残るんです。私たち魔術師はそれが分かるんです。」


彼女はただの魔術師だと言っていたが、その口調には確信がこもっていた。


「お二人とも少し下がってください。」


そう言うとクロエは目を閉じ、枯れた木々の根元にそっと手をかざす。

すると、彼女の指先から淡い光が放たれ、地面を這うように広がっていく。

その光は、まるで森の残された記憶を読み取るように、ゆっくりと形を変え、一つの紋様を象り始めた。


「……見つけた!」


クロエが目を開けると、その瞳に驚きが浮かんでいた。

彼女の顔は、驚きと同時に、恐怖と、そして少しの悲しみに満ちていた。


「どうしたんだクロエ?」

「……使用された魔術が分かりました。事務所でお二人に話した通りこの魔術は生命力を吸収する魔術です。」


クロエの言葉に、シエルが冷静に問いかける。


「誰かがその魔術を使用したせいで森がこうなったのね。でも魔術の内容はが分かっただけじゃ犯人は特定できないわね?」


クロエは、答えに窮したように唇を噛みしめる。彼女は少し震える声で言葉を続けた。


「実はこれは普通の魔術師では会得する事すらできない禁忌の魔術なんです。唯一会得の方法が書かれていた本が学院で厳重に保管されていたのですが、過去に盗まれたそうです……」


クロエの言葉に、アッシュとシエルの間に緊張が走る。

禁忌という言葉が、この事件のただならぬ背景を物語っていた。


「待てクロエ。それってもしかして6年前の事件か?」

「アッシュ様、よくご存知ですね。その通りです。」


アッシュは自分の問いにクロエが頷くのを見ると難しい顔をする。


「アッシュ、なんでそんな顔してるのよ?」

「……実は俺はその盗難事件に関わっていたんだ。その犯人を追い詰めたのは俺だ。」


アッシュから初めて話された騎士団時代の出来事。

それは、アッシュにとって、騎士団時代の唯一の、そして最も苦い記憶だった。

あの時、あと一歩というところで逃してしまった後悔は、今でも彼の心に深い傷となって残っていた。


「クロエ、俺が逃したやつは魔術学院の人間だったって話を聞いてるんだけど何か知ってるか?」


アッシュの問いに、クロエは少し迷いながらも、その名を口にした。


「……確か名前は『ディノ・ラグジー』です。彼は学院の中でも特に魔術の探究に力を入れていたそうです。」

「ディノ・ラグジー……」

「学院では彼が禁忌の魔術の本を盗んだと言うのはすぐに話題になったそうです。私が学院に入ったのは3年前ですが、先生から彼のようになってはいけないと強く言われました。」


クロエの言葉を聞いたシエルは、一瞬考え込んだ後、再び口を開いた。


「クロエ、その魔術は簡単に何度も使えるものなの?」

「いえ、禁忌の魔術ほどとなると恐らく1回で体内のマナをほぼ使うはずです。恐らく3日ほどは魔術が使えなくなるかと。」

「この魔術が一昨日使われたとなると、次に相手がまた魔術を使うとしたら明日ね。目的は分からないけどきっと相手はまた来る気がする。私の推論だけどね。」


シエルは、事態が自分たちの想像以上に深刻であることを悟っていた。クロエはシエルの言葉に続く。


「魔術は命を生み出す事はできません。ましてや命を奪うと言う事は感じられています。あくまで生活を豊かにするための一つの方法として教わります。こんな禁忌の魔術なんて使ってはいけないんです。」


それまで黙っていたアッシュが口を開く。


「なあクロエ、あいつ…ディノはなんで禁忌の魔術を手に入れたかったのか聞いてるか?」


アッシュの問いに、クロエは悲しげな表情で首を振る。


「あくまで噂ですが最愛の人が不治の病で亡くなってしまったからだ、と……彼はその最愛の人を生き返らせる方法を考えていたんじゃないかと聞いてます。」


クロエの話を聞き終えたシエルは、静かに立ち上がった。


「これは私たちで解決できる問題ではないかもしれない。でも憲兵に報告して王都から専門の人を呼んでもらうにしても間に合わないかもしれないわ。」


アッシュはそれに対して真剣な顔で答える。


「シエル。お前の考えは正しいと思う。だけどこの問題は俺たちで解決する。俺が逃したのが発端ならば、俺がディノを捕まえて片をつける。」


アッシュの視線は、遠くの山を見つめていた。

そこには、王都からルミナの町へと続く街道が伸びている。


「騎士団にいた頃、やつを逃した事は俺の中でずっと残っていた。おれの騎士団時代の唯一の汚点だった。やつが使ったこの魔術は、一歩間違えれば人々に取り返しのつかない被害をもたらす。」


普段の明るいアッシュからは考えられない言葉に、シエルは驚きを隠せない。

彼女はアッシュの騎士団時代について詳しい事は聞いた事がなかったが、小さい頃から無敵だと思っていた彼にそんな事があった事を知ったからだ。


「……あなたの口から初めて過去の事を聞いたわ。本当に、この依頼を続けるでいいのね?」


アッシュは静かに頷いた。彼の表情は、迷いのない、覚悟を決めた騎士の顔に戻っていた。


「ああ。俺は、この町で穏やかに暮らしていくつもりだった。でも、昔の事件がまた俺に関わってきた。このまま放置したら俺のプライドはズタズタになる。」


アッシュの決意に、シエルは何も言わなかった。

彼女はアッシュの騎士団時代の過去を知らない。

しかし、彼の固い決意に嘘がないことは、長年連れ添った彼女には分かっていた。

ただ、彼の隣に立ち、その固い決意を見守る。


「……分かったわ。でも、無理はしないで。あなただけでこの問題を解決するんじゃない。今度は私もいるわ。それに……」


シエルは、クロエに視線を送る。

クロエは、アッシュの覚悟に満ちた表情を見て、ただ静かに頷いた。


「クロエ、申し訳ないけど今回の件はあなたの力が必要だわ。力を貸してちょうだい。」

「はい! アッシュ様とご一緒できるなら、私も全力で協力します!」


三人の決意が、静かに、しかし確かな熱を帯びて固まった。

それぞれの思惑と、それぞれの願いを胸に秘め、彼らは、禁忌の魔術が引き起こした事件の解決に向けて、一歩を踏み出した。

それは、三人の新たな冒険の始まりであり、アッシュの過去に決着をつけるための戦いの始まりでもあった。

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