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肩より少し下の長さの髪をくるくる回しながら、ぼんやりとしていたらぱぱぱーん! 弾ける音がした。
「んが! 何!?」
「さくら見ろ、ポップコーンだ」
どこか真面目に黒曜が告げてくる。
さくらが黒曜の手元を見ると、何の変哲もない箱からポップコーンが飛び出ていた。箱の外に飛び散るそれは、地面に落ちていく。ポップコーンとは食べ物なのでは? これでは食べられないのでは? そもそもその箱から何故ポップコーンが飛び出るのか?
どうでも良い謎は尽きない。
「なにそれ?」
「ポップコーンだ」
「ごめんね、それはわかる」
言い方が悪かったのだろうか。ポップコーンが何故箱から出るのか聞いたつもりだった。人間が食べているし、甘いポップコーンもあるから知識としてはある。映画館なるもので食べるらしい。だから知識はあるが本当に何故箱から飛び散る?
「その箱なに」
「魔法の箱だ」
「まほうのはこ」
オウム返しに返した。
ちょっと何を言っているのかわからない。
「俺は錬金術が好きなんだ。色々な組み合わせで色々な物ができる。可能性は無限大。良くするのも、悪くするのも己次第」
じっと黒曜のきらめく瞳がさくらを見つめる。
ドキリ。
鼓動が跳ね上がる。なんだろうか、これは。いままではここで何か違和感が起きていた気がするのに、なんだか今は確信しそうになる。この感情が何であるのか。
「これなら、さくらを笑顔にだってできるだろう?」
「私を……?」
「ああ、大事な……妹だからな、笑った顔が見たい」
妹と呼ばれ、ズキリと胸が痛む。大事だと言われて嬉しいはずなのに。
わずかにノイズが走る。
ジージー、めまいを感じる。
妹としてじゃなくて、女の子である自分を見て欲しい。
ドクン、ドクン。鼓動が嫌に大きく聞こえる。
冷や汗が流れてきて、ハッと我に返る。何を考えていたのだろうか。
汗を拭い、へへ、と誤魔化すように笑う。
変な感じがしたのは、気の所為だ。
「黒曜と一緒なら、いつだって笑っていられるわ」
ビクリと黒曜の体が揺れ、驚愕したようにさくらを見る。ああ、誤解させただろうか。
「もちろん、黒曜の錬金術だって好きよ」
微笑んで言う。
「それは、人を楽しくさせたり、助けになったりする技術だわ」
するりと黒曜の胸元に頭をこすりつける。
黒曜の身体が強張っているように感じるのは、気の所為だろうか。
まるで、何かに気付いたかのような、気付かないでいてほしかったものが表に出たかのような、そんな表情をしている気がした。
「黒曜?」
体を大きく震わせ、黒曜はさくらを抱きしめた。
「えっ!?」
「さくら、さくら、俺は、どうすればいい?」
泣きそうな声だ。
「俺は、ただ、さくらを守りたかった。このままずっと一緒にいたかった。それだけなのに……この予感は消えない……」
何を言っているのだろうか、黒曜は。
さあさあと雨が降る。恵みの雨が。この楽園に。
雨で視界が悪くなり、さくらを抱き込む黒曜の表情は伺えない。
ああ、黒曜が見えない。それなのに、心が熱くなるのだ。まるでふたりともが――☓を抱いてる。
悪魔の手が触れた場所が熱を持っている――そう錯覚してしまうほどに。




