*間章
「あ、また作られてるー」
妹の不快気な声に兄は視線を向ける。
しかめた顔ですら愛らしいのだから、この妹はなんなのだろうか。俺が守らなければならない人。世界で一番の人。堕ちるなら共に。そう願った唯一の人。
彼女がトリガーだったからか、作られたモノに対して感じ取るのは、いつも彼女の方だ。
懲りないな……何度も、何度も壊してきたのに、また作られる。俺だって、不快だ。兄は冷えた目で空を睨む。夕焼け空をひたすら睨み据えると、妹に向き直る。
「妹くん、どうする?」
「兄さん、不快だから、壊しましょうよ」
わざとらしく呼べば、わざとらしく返ってくる。
うっそりと妹は笑う。
「恋をすればいいのよ、私たちみたいに」
兄は手を伸ばし、妹の頬に触れ顔を寄せる。
「ああ、そうだな」
そっと口付けてから微笑む。
うっとりした顔で妹は兄を見上げていた。
この妹にずっと恋焦がれていた。守るべき同胞、守るべき家族、それだけじゃなかった。これは恋情だ。
見守るだけでは嫌。己が幸せにしたい。己が隣にいたい。その唇に、触れてみたかった。これが恋でなくてなんなのだろうか?
「恋をすればアイツらは壊れるしかない」
いい気味だ。これに懲りてもう作らなければいい。
「あ! とと様とかか様、またいちゃついてますね!?」
義息子の声に、兄と妹は揃って声の方向に顔を向ける。
「今日はぼくとかか様に錬金術を見せてくれる約束ですよ! とと様!」
ぷくりと頬を膨らませる養い子にふたりは苦笑を浮かべ、黒いコートを翻して向かう。
「ああ、これから準備する」
黒い羽が揺らされる。
物を作るのは好きだ。好きが高じて錬金術にまで手を伸ばしてしまった己を、妹と養い子は嬉しそうにしてくれる。可愛いな。愛しいな。
手が伸ばされ、手と手が繋がる。妹を横目で見てから笑う。笑いながら悪魔の義兄妹は言った。
「「くそったれな神にささやかな反逆を」」