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天使の恋と悪魔の故意  作者: わん8
1天使よ××することなかれ
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4

「聞いたぞ! 恵美と僕の悪口言ってたらしいじゃないか、さくら!」

 仁王立ちして宣言してくる理久に、さくらはめんどくせー! というしかめた顔をする。

 キラキラ太陽にあてられ光る金髪に、強く輝く青みがかった水色の瞳、そして眼鏡をかけている青年に、なんてもったいない残念なやつなんだと思いながら言い返す。こいつ黙っていたらイケメンという奴らしいのに、可哀想だ。

「人聞きの悪いこと言わないでくれる?」

「なんだい? 違うのっていうのかい?」

「違うわよ!」

 怒って言い返せば思案するような顔になった。

「ふーん、アレが嘘なら、君は……」

 うん、とひとつ頷かれる。

「相変わらず上級天使達に嫌われているな!」

「うっ! うるさいわね……やっかみでしょ」

 爽やかに言い切られた。グッと詰まる。

 最高級天使なのに、楽園の近くの仕事しか回してもらえない出来損ないの天使、それがさくらと黒曜なのだ。こんなやつが自分より上の力を持ってるなんておかしいと思われているのだろう。正しくは蔑む、だろうか。いつも冷たい視線を向けられる。

 能力は、あるつもりなのに、侮られるのは悔しいし、嫌われるのは悲しい。

 どうせ理久も本気で信じていたわけじゃないのだろう、あっさりしたものだ。

「最高級の天使にしては、さくらと黒曜は僕達に近いからね。下級と上級は情緒が死んでいるよ。中間管理職みたいな僕らの位置が一番心が芽生えてしまう」

 ぼやくように理久は言う。中級の中でもエリートと呼ばれる天使と近いと言われて、嬉しいような悔しいような複雑な気持ちになるが、たしかに付き合いやすさは段違いだ。

 

 上級は澄ました顔をしながらも傲慢で異物を嫌う。変わらない日常を好む。

 下級はどこか虚ろに命令に忠実に動く死兵のようだ。

 そんな中、理久達一部の中級天使のエリートは、さくら達に優しくしてくれた。

 

「心が芽生える……?」

「天使は他者を思いやる心がないよね。だから理解できないのさ! さくらと黒曜の気持ちも、僕の気持ちもさ」

「理久の、気持ちって? 私と黒曜の気持ち?」

 ああ、と手を打つ理久。

「君たちはそうだよね、わからないよね」

「私達は……?」

「僕達は、恋を禁じられているけど、できないわけじゃないんだよ」

 自嘲したような笑みを浮かべている。

 どういうことだとさくらは困惑する。うっすら鳥肌が立ち、冷や汗が出る。ドクンドクンと鼓動が早くなる。聞いてはいけないことだ、これは。だって私は黒曜に×をしてはならないと、決められている。


 決められている? どういう、ことだろうか。

 ジジジジジ、ノイズが強く走る。

 まただ、また何かに邪魔される。いや、――何の話だっただろうか?


「やっぱりプロテクトがかかっているんだね」

 憐みの表情で見られる。

「自分の心くらい、自分のものでありたい、僕なら……」

 何を、言っているのだろうか。わからない。理久が何を言っていいるのか、何を言いたいのか、わからない。

 

 理久はさくらを眺めていたかと思うと、自嘲したように笑ってから、なにか覚悟を決めたかのような顔で口を開こうとした。

「理久!」

 理久とさくらは肩を揺らす。それほど鋭い声音だった。

「……恵美」

 めんどうそうな顔で理久は声の主、恵美に向かって話しかける。

「ずいぶんカリカリしてるじゃないか。鉄分不足かな? ヒステリックは嫌われるんだぞ!」

「な! ヒステリックでも鉄分不足でもないわ! 天の果実はきちんと食べているもの!」

 嫌味な表情の理久に怒った顔で、恵美は怒鳴る。

 天の果実は栄養満点な天使の主食だ。天使の身体ならなんでも賄える。

「そんなことより、何を話していたの!」

 涙をこぼしながら、恵美は続ける。

「だめよ、だめなのよ! さくらは、だめなのよ! 私は友達をこれ以上……!」

 頭を勢いよくふる恵美の姿に、さくらは呆然と眺める。恵美が取り乱している? 何故?

「恵美!」

 勢いよく恵美を抱き寄せ理久は焦った声音でまくしたてている。

「落ち着くんだぞ! ここでそれ以上言うのは、君が危ないんだ!」

「理久、だって、理久」

 すがるように理久を見上げる恵美。その姿はどこか美しいとさくらは感じた。

「もう言わない。言わないから、恵美も言わないで」

「あなた、死のうとしたわね?」

「それ、は」

「許さないわ、死ぬなんて、許さないから。貴方は私のものよ」

「!?」

 強い言葉の恵美と驚いた表情の理久。

 なんだか、これは、まるで、ふたりの間に××感情があるかのようじゃないか?


 ドクン。

 

「あ?」

 体がゆっくりと、倒れていく。


 「さくら!?」 

 優しい腕が、さくらを抱きとめた気がした。

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