13間章(終わり)
「……また、壊れたね」
妹は、消えていく白い光を眺めながら言った。そこにはもう、天使たちの姿はない。
「うん。今回も、恋を自覚した瞬間だったな」
兄は、どこか満足そうに息を吐く。
「やっぱり、コピーは同じところで壊れる」
妹はくすりと笑った。
「でもさ、兄さん。あのふたり、私たちより少しだけ、素直じゃなかった? 少しだけよ?」
「それは、そうかもな」
兄は空を仰ぐ。
「神様が“安全装置”を付けたからだろう。恋をしたら消えるように、最初から壊れるように作られてる」
妹は肩をすくめる。
「かわいそうね」
兄は、ふと、妹を見る。
黒い翼の奥で、赤い瞳が柔らかく細められた。
「俺たちは、違った」
「うん。私たちは、最初から壊れなかったよ。理久や恵美達もそうね」
「元々は神様の想定外だったな」
妹は笑った。
「恋をして堕天した有効な駒。消えなかった。堕ちても終わらなかった。敵に成り下がった。だから――失敗作」
「だから、“オリジナル”だ」
その言葉は、静かで、誇りも、嘲りもなかった。ただ事実を告げるだけの声音だった。
妹は遠くを見る。
「それで神様は、私たちをコピーした」
「恋をしないように」
「堕ちないように」
「壊れるように」
兄は小さく息を吐いた。
「でも、失敗した」
妹はくすりと笑う。
「だってさ。コピーって、結局、元に似るのよ」
「感情までな」
ふたりは並んで、閉じていく世界を見送った。
「ねえ、兄さん」
「ん?」
「私たち、悪いことしてると思う?」
「思わないな」
兄は妹の手を取る。
「だって、神様が作りたかったのは“感情のない完璧な天使”だろ?」
「うん」
「でも、俺たちは――」
妹は、悪戯っぽく笑った。
「“恋をしても壊れない存在”だもの」
遠くで、また新しい光が生まれ始めていた。
次のさくらと、次の黒曜。
何も知らずに、何も覚えていない、新しいコピーたち。
妹はそれを見て、楽しそうに言った。
「また、始まるわね」
「ああ」
「今回は、どっちが先に気づくと思う?」
「さあな」
兄は、妹の額に口づける。
「でも――」
囁くように言った。
「どうせ、また恋をする」
妹は笑った。
「いい気味だわ、神様」
黒い羽が広がる。
ふたり――何もかもを知っている黒曜とさくら――は、次のふたり――何も知らないコピー――が生まれるのを眺めながら、静かに、手を繋いで見送っていた。
――End.




