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天使の恋と悪魔の故意  作者: わん8
1天使よ××することなかれ
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 黒曜は、もう何日もまともに目を合わせてくれない。

 さくらが声をかけても、距離を取られる。触れようとすれば、そっと避けられる。

 その理由を、さくらは知らなかった。

 ただ、胸の奥が、壊れそうなほど痛い。わけもわからずに避けられるままなのは嫌だった。


 感情が爆発した。ずっと、ずっと、さくらを見てくれない黒曜。苦しくてたまらないのだ。胸が切り裂けそうな程に愛しさと苦しみと、悲しみがある。

 

 だから黒曜の背中を見た瞬間に駆け寄り抱きついた。

 

「どうして!? どうして私を見てくれないの!?」

 

 さくらの瞳からは絶え間なく涙が零れ落ちる。黒曜の白い軍服が淡く色付くのも構わずに。

「私は黒曜と離れたくない!!」

 だって、この感情は、なんだ? わからない。わからないけど、独占欲だ。これは――欲だ。


 黒曜の身体が、はっきりと強張った。

 逃げようとするでもなく、突き放すでもなく、ただ、動けなくなったみたいに。

 

 しばらくして、震える声が落ちた。

 どうして?

 

「さくら」

 その声は、いつもより低く、いつもより壊れそうだった。

「……俺は、知ってしまった」

 黒曜は、笑っていなかった。

 初めて見る顔だった。

 兄の顔でも、天使の顔でもなく――ただ、一人の“誰か”の顔。

「俺たちは、もう……ずっと前から、間違っていたんだ」


 ぐっと唇を噛む黒曜。

「俺のしたことは、逆効果だったんだな」

 黒曜の瞳がさくらへの愛しさを、隠しきれていない。

 黒曜の言葉は、さくらの中で、ひとつずつ意味を持ち始めていた。

「近づくと、壊れてしまう」

「離れたくないのに、離れなきゃいけない」

 それは――ああ。これは。恋だ。

 さくらと、黒曜の、恋心だ。

 

 その瞬間だった。

 胸の奥で、何かが弾ける音がした。

 視界が歪み、身体の輪郭が、曖昧になる。 


 身体が崩壊していくのを混じる。

 恋――これがトリガーだった。

「……さくら」

 黒曜は、崩れ落ちそうなさくらを抱きとめた。

 彼はやっと、逃げるのを、やめたのだ。

 

「……あはは、変なの。……あんなに黒曜が、私を避けて……守ろうとしてくれたのに。……私の方から、見つけちゃったのね。……この痛みが、恋なんだってこと。……ねえ、黒曜。私を、ひとりに……しないで……」

 縋るさくらを黒曜が強く強く、骨も軋むほど抱きしめる。もう離さない、そう言いたげに。

「俺が弱かったせいだ……。すまない、さくら。……もう、何も怖がらなくていい。神様が用意した恋をしない“完璧な俺たち”なんて、終わりだ」


 そのときだった。

 どこからともなく、冷たい声が落ちてきた気がした。

「いい気味だ」

 悪魔が笑っていた。

 それは、初めての光景の“はずなのに”、どこか懐かしい声だった。

 嘲笑ではない。怒りでもない。

 ――結果を知っていた者の声。


「また、同じところで壊れたね」


 そして世界が、白く、反転した。


・・・

 

 桜色の髪が風に遊ばれる。きっちりした白を基調とした正装を纏い、短パンから覗く足は瑞々しくも惜しげ無く出されている。彼女は澄んだ空色の瞳で皮肉げな青年に声をかける。

「はじめまして私はさくら! こっちは兄の黒曜。よろしくね」

「……アルノルト、死神だ。俺はよろしくする気なんかないから、勝手にしろよ」

「感じ悪いわね! アルノルト!」

 どこか苦しげな顔で、死神は天使を眺めていた。

 またかよ、とは言葉にされなかった。


 ――何度目だ。

 何度、この組み合わせを見送った。

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