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天使の恋と悪魔の故意  作者: わん8
1天使よ××することなかれ
11/13

11間章


 

「あれま」

 妹が、つまらなさそうに頬杖をついて言った。

 遠くに見る空は今日も綺麗だ。神の庭は相変わらず整いすぎていて、吐き気がするほど清潔だ。あの場所には還りたくない。


「黒曜ったら、ちゃんと避け始めたみたいねー?」

 視線の先には、白い建物と、その中を歩く天使たちの気配。

 直接見えなくても、わかる。あのふたりの距離感くらい、手に取るようにだ。

「うん。うん。黒曜くん、いい感じに壊れてきているな」

 兄は愉快そうに笑った。

 黒い羽が揺れる。彼は楽しそうなときほど、声が柔らかくなる。妹はうっとりと聞きほれる。彼女にとってこの瞬間がたまらなく好きなのだ。


「守りたいものがあるほど、勝手に自滅してくれる」

「やめなよー、兄さん。そんな言い方」

 そう言いながら、妹はきゃらきゃらと笑っていた。


「でも――」


 ふっと、妹が視線を細める。


「思ったより、早いわ」

「ああ。妹くんの保護プログラムの調整、うまくいったみたいだ」

 兄は肩をすくめる。

「ほんの少し、“自覚しやすくした”だけなのに。神様の設計って、ほんと脆いな」


 恋をしていると自覚する速度。

 それだけを、ほんの少しだけ、弄った。


 それなのに。


「もう胸が痛くてたまらない、か」

 妹はくすりと笑った。

「かわいいわね、あの子。自分が何に苦しんでるのかも分からないまま、壊れていくの」

「さくらは特に素直だよ。守られることに慣れすぎている」

 兄は、遠くを見るような目で言った。

 妹は頬を緩める。つんつんと兄の腕をつつく妹。


「それで、黒曜は?」

「順調」

 兄は即答した。

「距離を取るほど苦しくなってる。けど、近づくよりマシだと思ってる。――最高の状態だ」

「さくらを想うと離れなきゃいけない。でも離れると苦しい。なんて哀れなのかしら?」

 妹は嬉しそうに笑った。


 遠くで、何かが歪む気配がした。

 ほんの一瞬、空間がざらつくような、微かなノイズ。


「あ」


 妹が言った。


「今、また来たわね」

「うん。感情が臨界に近づいてる」

 兄は楽しそうに言う。

「はは、またプログラムが走ったのか。今度はどの記憶を削られたんだろうな」

「まだ保護が残ってる証拠ね」


 妹は指先で空をなぞる。


「でも――」

 くすり、と笑う。

「もう遅いわ」

「うん。もう、知っちゃったから」

 兄は、まるで祝福するように言った。

「一度、“欲しい”って思った心は、なかったことには戻れない」


 妹は兄の腕に絡みつく。



 遠くの神の庭では、天使が今日も、何も知らずに息をしている。

 壊れる運命の中で、何も知らずに。


 兄は妹の額に口づけて、微笑む。

 ふたりは手を繋ぎ、黒い羽を揺らしながら言った。


「「ままごとを続ける神様に、ささやかな反逆を」」

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