六人の賢者
「これより、賢者の集いを始める」
「普段なら最初にそれぞれの報告を聞きますが、今回はイディヒダの後継者が新しく来ましたので…」
エレボスの地の賢者、フェネルがそう口を開くと、イディヒダが緩慢に手を挙げた。
「わかっておる。私の後継者を紹介しよう。ユネ、」
イディヒダに声を掛けられ、ユネは椅子から立ち上がり、全員の姿を目に収めるように一歩下がった。
「お初にお目にかかります、テテュスの地の後継者、ユネと申します。ご指導の程、よろしくお願いいたします。」
ユネは落ち着いた様子で深く頭を下げ、その状態のまま数秒が経つと緩やかに前を向いた。表に出ないだけにしろ、この顔ぶれの中で緊張が全く見えないとは大したものだ。ニナはこの賢者の集いに違う風が吹く可能性を思い浮かべ、口角を上げた。
「よろしくお願いします、ユネ。それではこちらからも自己紹介を。わたしはエレボスの地の賢者、フェネルです。次はネーヴァン、お願いしますね」
自分に回ってくると思っていなかったのか、ネーヴァンは少し面食らった様子で、頭を掻いた。
「俺に振るのか…あー、俺はヘファイストスの地の賢者、ネーヴァンだ。宜しく頼む。」
ネーヴァンが言い終わると、フェネルは次はお前が行けと言うように、シドに視線を投げかけた。
「ああ、僕か。僕はアイオロスの地の賢者、シドだ。宜しく。」
シドは端的に自己紹介を済ませ、もう結構だと言うように頷いた。それを見たフェネルはこちらに視線を向けた。
「ユネ、私とはさっきも話したね。もう一度言うけど私はアポロンの地の賢者、ニナ。よろしく。」
ユネと視線が絡むと、ニナは微笑んだ。ユネもどこかぎこちないが、ニナに微笑みかける。
フェネルはその様子に嬉しそうに頷き、ユフザーゼに視線を向けた。ユフザーゼは表情こそ変わらないが、口下手なのをフェネルが心配していることを察したのか、大丈夫だと言うように軽く手で制した。
「…吾はボレアスの地の賢者、ユフザーゼ。隣の土地故、関わることは多いかもしれんな。宜しく頼む。…そして、此奴は吾の後継者のベリナーだ。」
「ベリナーです。ユネさん、よろしくお願いします」
ユフザーゼに短く紹介されたベリナーは端正な顔を気弱そうにへらりと崩した。全員の紹介が終わり、ユネは再びよろしくお願いいたしますと頭を下げた。
それをきっかけに、皆を見回しながら微笑んでいたフェネルが手元の資料に目を落とした。
「すみません、いつもならもう少し後継者の方と話す時間を設けるのですが…兎にも角にも、今回は時間がないのです。各地代表賢者の皆さん、前回話題にあがった災害について各自報告をして頂きたいのですが」
フェネルが申し訳なさそうに眉を下げながら、口を開く。すると再びイディヒダが手を挙げた。
「私から、良いかな?」