ユネという少女
《 本日は昔の私の民、ユネについて話しましょう…
ユネは過去の賢者です。彼女はこの地の為と、彼女に出来る事は全てしてくれたわ。
…あら?ユネを知っているの?そう…彼女ももう歴史に残るようになったのね…そうよ、ユネは賢者イディヒダの後継者だった。
そうね…先ずは彼女の生い立ちから話しましょう。
彼女はこの地の北側、ボレアスの地との境で生まれた。この地の中では寒い方でしょうね。
貴方達、1000年程前の大冷害は知っているかしら?…よく知っているわね、そう、ボレアスの力が強まってこちら側まで凍りつき、境の村たちの生活が困難になった時のことよ…
彼女…ユネは、その日に生まれたの。
幸い、大冷害はそう長く続かなかったわ。あら?村人はどうしたのかって?ふふ、少し南にある村に避難したの。境から離れればあまり被害は受けないからよ。けれど、勿論境の作物は全滅。避難先の村に頼り続ける訳にも行かず、境の民たちは困窮したわ。
そう、子ども達も働かなければいけない程にね。
ユネは働いたのかって?答えは…いいえよ。彼女は五つになっても作物には一切触らなかったわ。
何故…そうね、それは彼女が大冷害の日に生まれたからよ。それと、祝福を持っていたことも関係があるかもしれないわね。
大冷害のその日に生まれ、自分たちとは異なる未知の強大な力を持っている。それだけで、ユネは村で異質…いいえ、不吉な存在として扱われ始めたわ。作物に触れば、また全滅するかもしれない。冷害が起こるかもしれない。余計な事をしないように小屋に入れておけ。って具合にね。
ユネが八つになり、村が受けた冷害の傷が癒えても彼女の扱いは変わらなかったわ。私はできる事なら彼女をあの村から出してあげたかった。彼女の持つ力は正しく使えば大きな変化が起こすこともできる、それに彼女は賢かったから上手く力を扱えると思っていた。彼女に力を使って欲しかった。彼女に変化を起こして欲しかった。…そうね、私も未熟だったわ。私が手を出してはいけないとはわかっていたのに見過ごせなかった。
そうしていたらイディヒダが後継者の育成を始めたいから候補を探すと言い出したの。私は境の村でユネが祝福を持ちながらも捕虜のように扱われている光景が忘れられなくて、イディヒダに候補の一人に彼女はどうかと言ったの。実際、ユネの祝福は強いから申し分ないはず。けれど…イディヒダにも悪い事をしたわ。自分の目で選びたかったでしょうに、私にそう言われたら断れないものね。神は人の世に干渉してはいけない…今思うと、本当にその通りだったんだと思う。結果、ユネは賢者になった訳で…私が二人の人生を捻じ曲げてしまったのかしら…
いいえ、そんな事は今はいいの。それからイディヒダは私の指示通りに境の村へ行き…ユネを候補者として保護した。イディヒダはユネと面識がなかったから、先ずは彼女の祝福の力と賢者に必要な能力を見たそうよ。そうしたら彼女はイディヒダの想像以上の力を発揮したみたいで、興奮した様子で私のところに来たわ。「テテュス様、彼女を候補者に推薦して下さりありがとうございます!」…ってね。私はこの選択で良かったのかわからなかったけれど、イディヒダも満足しているならと何も言わなかった。思えば、あそこで止めておけばよかったのかもしれない。あまりにも強大な力は滅びをもたらすとでも言ってね。
そう…あの時の私は、知らなかったのよ。世界の澱みも、人の美しさも、愚かさも。それに気付いていれば、あんな結末にはならなかったかもしれないわね…
…あら、時間のようね。貴方達は早く帰りなさい。ええ、もちろんよ。また今度続きを話してあげるわ…ええ、また会いましょう… 》