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夢への一歩⑦

 ダグラスの計らいで、この事件が表沙汰にされるようなことはなかった。しかし、この事件にかかわったものの家になにも影響がなかったわけではない。


 ホルステイン侯爵家とオラスト伯爵家からは多額の慰謝料を請求され、社交界を締めだされ、ほかの貴族とのかかわりを一切絶たれたことによって、もともと力のなかった家門はあっという間に衰退した。サフィリナを連れだした令嬢たちは除籍され、修道院へ送られている。


 ジュエルスから話を聞いたサフィリナは、小さく溜息。


「あの男の人たちが、クローディアさまから頼まれたというのは本当なの?」

「ああ。彼女に声をかけられて舞いあがっていたようだ。リナのことなんてなにも知らなかった」


 暴行しようとした二人の男は、クローディアが父親に口をきいてやる、と言った言葉を信じて騒ぎを起こした。決してサフィリナに恨みがあったわけじゃない、全部クローディアが悪い、と訴えていたというが、そんな言葉で片づけられるほど彼らの罪は軽くない。


 男たちは運よく未遂に終わったため鉱山送りは免れたが、むち打ちの末、わずかな財産も与えられずに平民におとされたそうだ。


「……彼女は?」

「……クローディアは、結婚した」


 二度とジュエルスにまとわりつくことはないから許してほしい、とモーディアル伯爵から床に頭をこすりつけて慈悲を乞われたという。


 結婚相手はパストリア子爵ヨハン・ラディオン・ディーリング。四十を過ぎても独身のヨハンは、下っ腹が突きでた中年太りの容姿のせいか女性に人気はないが、性格は優しく、裕福とは言い難いが貴族の体面が保てる程度の財力はある。しかし、あくまでも体面が保てる程度で贅沢ができるわけではない。


 それでも、急ぎ二人を結婚させたのは、修道院に送らせないためだ。しかし、クローディアにしたらこの結婚は修道院に送られたのと同じ。結婚相手は二十歳以上も年上で、見目もよくない中年男。これまでのような贅沢な生活は望めず、片田舎で静かに暮らさなくてはならないし、社交界に戻ってこられるかもわからない。


 それでもまだ貴族でいられるだけましだろう。


 そう判断したモーディアル伯爵は二人の結婚を早急にまとめ、いやがるクローディアを馬車に押しこみ、自身も乗りこんでその日のうちに結婚をさせたという。


 しかしそれだけで許されるわけもなく、多額の慰謝料を払い、モーディアル伯爵が有している土地を半分返還することで話が決着している。


「……そう」


 サフィリナはそれ以上言葉にせず。


「いやな話を聞かせたね」

「いいえ」


 サフィリナが横に首を振る。


「私にかかわることだもの。知っておかないと」


 あのときのことは本当に恐ろしくて、思いだすと体が震える。それでも、なぜクローディアがあんな事件を起こす前に、彼女に理解を求める努力をしなかったのかと悔やまれるのは、サフィリナが彼女をそこまで追いこんだ、という罪悪感があるからなのだろう。



読んでくださりありがとうございます。

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