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夢への一歩⑤

 ダンスフロアではジュエルスとクローディアがダンスを踊っている。二人が一緒に踊っていたら悪い噂はすぐになくなる、というクローディアの言葉に従ったかたちだ。


「私たち、ダンスのレッスンで何度も一緒に踊っているから、息がぴったりよね」


 クローディアは先ほどまでの様子とは打って変わって上機嫌だ。


「……俺はまだお前を許していない」

「私、興奮してサフィリナさんにはひどい言い方をしてしまったけど……本当は謝って仲直りをしたかったの。でも、うまく言葉が出なくて……」


 そう言って落ちこむ様子を見ると、これ以上責めることもできない。


「エルともちゃんと仲直りをしたい」


 ジュエルスは大きな溜息をついた。


「わかったよ」

「ありがとう、うれしいわ! これからも仲良くしましょう!」


 クローディアはぱぁっと顔を輝かせ、かわいらしく微笑んだ。


 サフィリナとクローディアが仲良くなれるのなら、自分の中のモヤモヤした気持ちは隅のほうに押しやって、クローディアのわがままにもつきあうべきなのだろう。不本意だが。そんなことを考えてジュエルスが黙りこんでいると、クローディアがすねたように口を尖らせる。


「私だって傷ついたのよ。知っているでしょ、私の気持ち」


 少し頬を染めてジュエルスを見あげるクローディア。


「……ああ」

「知っていても、私を選んではくれなかったのね」


 小さく呟く声が音楽にかき消される。


「エルにふさわしい女性になるために努力していたのに……私、本気で――!」


 そう言って顔を上げたクローディアは、ジュエルスが険しい顔をして、遠くを見ていることに気がついた。


「エル? どうしたの?」


 しかし、ジュエルスの意識はそちらに集中していて、クローディアの呼びかけに気がつかない。


(どういうことだ?)


 先ほど、四人の令嬢たちと一緒にサフィリナが会場を出ていくのを確認した。その四人の令嬢たちは会場に戻ってきたのに、一緒にいたはずのサフィリナがいない。もちろん、寄り道をしている可能性はあるが。……いや、よく思いだしてみれば、あちらは招待客の進入を禁止しているほうではないか?


「悪いが、ちょっと待っていてくれ」


 ジュエルスは曲の途中であるにもかかわらずクローディアから離れ、令嬢たちのほうへと早足で向かっていった。


「エ、エル! なんで、いきなり」


 驚いたクローディアもそのあとを追う。


「失礼、少しお聞きしたいのだが」

「ジュエルスさま?」


 突然ジュエルスに声をかけられ驚く四人の令嬢たち。これまで一度だってジュエルスから声をかけられたことなどなかったからだ。


「君たちと一緒にここを出ていった女性はどこへ?」

「え……あ……」


 途端に顔を青くした令嬢たちが、互いの顔を見てうつむいた。


「どこにいるんだ?」

「わ、私たちは知りません。途中で、あの、わかれたので」

「どこでわかれた?」

「え? あ、あの……」


 そこへクローディアもやってきた。


「どうしたの?」


 令嬢たちがクローディアに気がついてますます顔を青くする。


「エル、彼女たちがなにか?」

「サフィリナの居場所を聞いているんだ」

「サフィリナさんの? どうして彼女たちが? あなたたちはサフィリナさんとお友達だったかしら?」


 クローディアが令嬢たちに聞くと、四人の令嬢たちはうつむいたまま首を横に振った。


「い、いいえ、知り合いではありません。さっき少しお話をしただけで……」


「エル、彼女たちが知っているはずがないわ。だって彼女たちはサフィリナさんとお友達ではないんだから。ね、そうなのよね?」


 クローディアが令嬢たちに確認をすると、令嬢たちは「ええ」と小さくうなずく。


(いや、彼女たちは知っているはずだ。リナは彼女たちについていくように会場を出ていったのだから)


 しかし、こんな場所で騒ぎを起こすわけにはいかない。イライラした様子でジュエルスは令嬢たちを見おろす。


「本当になにも知らないのか? もし知っていて隠しているのであれば、その責任を問うことになるぞ?」

「……でも……あ、あの……」

「ちょっとエル。なんでそんな怖いことを言うの? 大袈裟ね」


 クローディアは少し顔を引きつらせながら、深刻にならないように笑う。


「俺は君たちと一緒に彼女がここを出ていくところを見ている。だから隠しても無駄だ」


 その言葉を聞いて令嬢たちが真っ青な顔をした。


「だから、彼女たちは知らないって――」

「早く答えてくれ」


 ジュエルスはクローディアの言葉を遮るように声を荒らげる。


「え、そ、その……」

「早くしろ!」


 ジュエルスの声に恐ろしさを感じたのか、ずっとうつむいていたオリビアが口を開いた。


「所蔵庫近くの……」

「ちょっと!」

「所蔵庫近くのどこだ!」

「きゃ、客用寝室です。一室だけ、鍵が開いていて……」


 そこまで聞いたジュエルスが会場を飛びだした。


(さっき通ったときに見たあの部屋か。客用寝室だと?)


 いやな胸騒ぎがジュエルスを急きたて、心臓が早鐘を鳴らしながら不穏を伝える。


「クソッ!」


読んでくださりありがとうございます。

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