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⑨冥王ネビュラ


「う~ん。いい天気だ。」


 ラーシャの咀嚼音が止み、

 鳥の囀りが安らかに聞こえる。

 ネビュラは音を楽しむように、

 穏やかに目を閉じていた。


「ここはいい。ダンジョンとは思えない。とても眠たくなってくるよ。私はホームを持たないからね。.....いつも外弁慶とも言える。閑話休題。」


 ネビュラは二本目の煙草に火をつける。


「どうして。あの時、どうして君だけ逃げようとしたんだい.....?」


・・・


「君は、最初からクズだったのかもしれない。しかしこの五年でこの世界の言葉を操り、習得難度も使用魔法量も高い転移魔法を1から学び、一日一度だけ5メートル先に移動できる程度に会得出来たことはスゴイことだ。凄い執念だ。驚くべきことだよ。でも、どうして君だったんだ。仲間のためにとか、敵を倒すために、とかじゃなくて。」


 どうして.....だろうか。.....思えば俺は、最初から。


「さい.....」


「ん?」


 ネビュラは杖を振り、

 遠のく意識が少し楽になる。


「さいしょ.....から、さいしょに、クマみたいなやつと、戦った時から。ダメだと思った。」


「うん。」


「チートスキルもない、レベルもない。ゲームだとかマンガだとか、ラノベで見てたような世界よりも、よっぽど疲れるし、よっぽど怖いし、よっぽど自分は弱いし、.....何よりも、痛かった。痛かったんだ.....!!初めて怪我をした時、痛かった。なんかこの世界、便利な治癒魔法とか無いし!!血は止まんないし、血見るの嫌だし。そもそも魔法覚えるのとかクソコスパだし!!......毎日毎日毎日毎日、何時間掛けたと思ってんだッ!!何時間も掛けて勉強してやっと枯れ葉に火が付いただけって何だよそれッ!!剣術もガキの頃からやってる奴らには敵わないし.....!!弓も当たんないし。なんだよココ、聞いてた話と違ぇよ!!なんだよ.....!!」


 溢れ出す感情のまま、俺は泣いていた。


――スー、ーッ.....ハー


「分かるよ。」


 ネビュラは一吸いしてから、遠くを見つめて言った。


「私もきっと、そう思うんだろうな。いくら超自然的な探求が出来て、整った秩序で物作りが出来たとしても。なんでこんな不便なんだー。なんで杖を振っても火が出ないんだー。火は何処だー。魔法は何処だ―って。」


――パチン。とネビュラはライターの蓋を閉める。


「イカレぽんち。イカレたクソ野郎。イッちゃってる人。気違い。.....狂信者ドラマグラ。でも私は、君の気持が分かるし。.....君達の世界が、あると思っているよ。.....あぁ、また喋り過ぎてしま・・」


 同情。.....された?


「さてと.....そろそろ.....」


 俺が。こいつに.....?.....は?


「.....殺してやる。」


「お?」


「殺してやる、ネビュラ。殺してやる.....殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!!殺してやるネビュラ!!ぶっ殺してるッ!!このイカレ野郎ッ!!お前が!!お前に、お前に.....一体俺の?!――ぶふkつy.....!!」


 脇腹に衝撃が走る。

 俺の身体は思った以上に軽いようで、

 思った以上に転がり易いようで、

 さながらサッカーボールにでもなったような気分だった。


「ダメだよ。もっと端的じゃなきゃ。後世に残らずとも、私の心に残るような。端的な言葉じゃなきゃ。それとも、聞かれてから応えたいタイプだったとかか。あぁ、余計なプレッシャーをかけるといけない。大丈夫だ、私は君のよき理解者に成れる。何を言ったってね。」


 はぁ.....そうか.....俺はもう.....


「じゃあ.....ほら、”言い遺す言葉”は?」


 俺はもう.....


「最強.....無双.....凡夫な.....じゃ.....ダメ、ですか.....?」



――パチン。スゥー、ハー.....



「何言ってんだ、お前。」




















{原題:ノアの旅人『冥王ネビュラ』 より}

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