その執事、最強(の操り人形)也!~尚、お嬢様は最強の言霊師~
勢いで書いてしまった。反省は……していない!
あれは私が5才の頃、庭を1人散策中。
巨大な犬に襲われ恐怖に震えていた。
そして、愛しの執事は私の前に颯爽と現れ、その巨大な犬を撃退してくれた。
私は、幼心にはっきりと恋心が芽生えた瞬間だった。
「お嬢様、怪我はありませんか?」
ジョルジュが震えている。
きっと私へ襲い掛かってきた獰猛な魔物に怒りを感じているのね!
「ええ、大丈夫よジョルジュ。私はまた、あなたに助けられたのね」
「この私がいる限り、お嬢様に怪我一つ負わせはしませんよ」
「頼もしいわ!ジョルジュ!」
私はいつまでもこの瞬間を忘れないだろう。
そう思った。
この物語は、子爵家令嬢クラリスの小さな恋の物語である。
◆◇◆◇◆
数分前。
あれはお嬢様。
おや、あれは庭師のペットのコロもいるではないか。
相変わらず凶悪な顔をしているな。
おっと、お嬢様が怯えている。
コロはきっと遊んでほしいんだと思うが、お嬢様もまだ子供。コロのことが怖いのだろう。
「ややっ!」
私は、驚いて転んでしまいそうなお嬢様を見て必死に走った。
お嬢様がお怪我などされたら!……旦那様に殺される!
私はギリギリセーフでお嬢様を支えることに成功した。
「お嬢様、怪我はありませんか?(こっわ!コロめっちゃこっわ!大人しいのは知ってるけど、近くでみるとやっぱ顔こえーよ!めっちゃびびるわ!怖すぎて震えるー)」
「ええ、大丈夫よジョルジュ。私はまた、あなたに助けられたのね」
「この私がいる限り、お嬢様に怪我一つ負わせはしませんよ(怪我されたら私は旦那様に殺され……)」
「頼もしいわ!ジョルジュ!」
私はいつまでこんな瞬間が続くのだろうか?
この物語は、執事ジョルジュの悲しき労働の物語である。
◆◇◆◇◆
子爵家令嬢クラリスとして可愛がられた私。
この度なんと14才となりました!
そしてデビュタントで社交界へ!鼻息荒く着飾ってお友達のメーテル嬢と歩いていた。
「おいお前、可愛いな!俺の女にしてやるよ!」
見た目ちんこい侯爵子息に絡まれる。
「あと20年後に出直してくださる?私はもっと大人の、そう!年上のジェントルメーンがタイプなの!」
「何をー!ちょっと可愛いからって生意気な女だ!俺は、侯爵様だぞ!」
「あなたは、侯爵じゃないでしょ?侯爵の子供。爵位は無いじゃない!」
「こいつ!」
侯爵子爵は私に詰め寄ってきた……が、ジョルジュがまた怒りに震え間に入ってくれた。
「お嬢様にこれ以上近づくのはご遠慮ください!(うひゃー!どうする俺!どうしたらいい?相手格上じゃん?でも、お嬢様に何かあれば旦那様にころ……)」
きゃー!ジョルジュ好きー!
私は、怒りに震えるジョルジュに愛を感じた。
「邪魔立てするな!邪魔をするなら……お前に、決闘を申し込む!」
子息はジョルジュに胸ポケットの手袋をバシンと叩きつけている。
「これは……(マジどうなってんの?手袋パシーンって、決闘?マジ無理!土下座する?頭ガツンと擦りつけちゃう?)」
ジョルジュが珍しく言い淀んでいるわ?
「ねえ、大丈夫なの?貴方の執事でしょ?殺されちゃうんじゃない?」
隣にいたお友達の御令嬢メーテルが心配してくれている。
「大丈夫よ!ジョルジュは強いもの!きっと私を守るため受けて立つわ!」
私は余裕の笑み(魔力放出中)でそう返した。
「宜しい!ならばその決闘、受けて立ちましょう!(なに言ってんの俺!待って?本気にしないで?でも、また体が勝手に投げつけられた手袋を、拾っちゃってポイってー!)
私は、手袋を汚物を触るように指でつまんで投げ返すジョルジュに、飛び上がるほど嬉しくてキュンキュン(魔力駄々洩れ)していた。
◆◇◆◇◆
私はメーテル。
あ……ありのまま、今起こった事を話すわ!
私のお友達であるクラリス嬢とデビュタントに参加したのよ!
そして、すったもんだあってクラリス嬢の執事が決闘を申し込まれたのよ……
私の心配を他所にクラリス嬢は「きっと私を守るため受けて立つわ!」と言ったと思ったら、絶対に決闘なんて受けないはずの執事が「宜しい!ならばその決闘、受けて立ちましょう!」と受けてしまったの!
な……何を言ってるのか、わからないと思うでしょ?私も何がなんだか分からなかったわ……頭がどうにかなりそうだったわ……
何かの魔法とかスキルとか、そんなチャチなもんじゃ、断じてないわ……
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……
だって、鑑定で見た目の前のクラリス嬢が……操り人形って……聞いたことのない凶悪そうな名前のスキルを持っていたもの……
私は、きっとこのことを生涯秘密にするわ……
だって、何かあったら次は私が操られてしまうかもしれないもの……
◆◇◆◇◆
私はジョルジュが決闘を受けて立ったことで、会場に隣接した訓練場に移動した。
ああジョルジュ!今日もきっと素敵な戦いが見れるのね!
心を高ぶらせ、メーテルと一緒に一番近い特等席に陣取って見守っていた。
「貴族の正当なルールの下で行われる。相手が死んでも罪には問われない!いいな!」
侯爵息子がそう宣言する。
「え、ええ?(どうしたらいい?やっぱ土下座?頭擦りつけちゃう?今度は土あるし?本気の土下座できちゃうね!そうだやろう!ビバ土下座!)」
ジョルジュは足の震えを隠し考えた後、土下座をしようと覚悟を決めた。
私はジョルジュが何を言うのかワクワクしながら(魔力混じりの)熱い視線を向けていた。
「ど……(さあ!勢いよく頭を地面に!あれ?足が動かない、そして声も出ない!どうなんてんの俺!)」
只々混乱するばかりで体は微動だにしなかった。
「どうするの?あの執事さん死んじゃうわよ?今のうちに『降参しなさい』って言ってあげたら?」
「大丈夫よ!ジョルジュは強いもの!きっと素敵な返しであんなガキ、煽り倒しちゃうんだから!」
私はジョルジュをキラキラ(魔力増し増し)した瞳で見つめた。
「ど、どーでもいい御託は結構!早くかかってきてくれませんか?貴方のようなおしめの取れないお子様と違って、私は忙しいのですよ?(待って!待って俺!何言ってんの?死にたいの?俺、死にたいのかなぁ?)」
冷たい目をしたジョルジュは目の前の侯爵子息を指さしディスっていた。
来たわ!素敵な姿にキュンッ(魔力ちょい漏れ)と来たわ!素敵過ぎない?さすが私の執事!サスシツ!
「くっ!余裕があるのは今のうちだ!カモン!ゴーリキー!」
「お、お坊ちゃん、私はゴーライキです」
侯爵子息に呼ばれ、少し後ろに立っていた腰の低い男が前に出た。
だがその男の筋肉ははじけそうなぐらいマジもんに見えた。
「俺の代わりはこいつだ!」
「なっ!(なんだそりゃ!確かに、貴族同士の決闘は代理人を立てるが……じゃあいいのか……いやよくねーよ!やっぱ土下座するしかないな!なんなら靴を舐めるしかないな!)」
ジョルジュは土下座しようと腰を低くした。
「何言ってるよの!そんな弱そうな男!ジョルジュならワンパンよ!」
私は両手でシュッシュと(魔力を)ワントゥーしていた。
「な、舐めてたらワンパンで終わってしまいますよ!さっさと本気でかかって来ては如何かな?!(お嬢様ー!何言ってくれちゃってるの?そして俺ぇー!なんでファイティングポーズでトントンとステップ踏んじゃってるの?めっちゃカッコ良いじゃん俺!)」
「くっそー!やれ!剛雷鬼・ゴーリキー!」
「お、俺は!ゴーライキだー!」
叫んだゴーライキは、背中の巨大な斧を掴むとグリンと回し、一気にジョルジュに迫ってきた。
「きゃー!死んじゃうー!」
叫ぶメーテル。
「大丈夫よ!ジョルジュの体は鋼鉄より強いの!あんな斧、頭で跳ね返しちゃうんだから!」
「(お経様ー!何言ってんの?アホなの?頭で受けれるわけないだろがい!頭ぱっくり割れちゃうじゃないかい!ってなんて俺仁王立ち?受けて立つの?俺の頭はアホなの?だれか、止めてー!)」
そして放たれる一撃。
周りの観客達から悲鳴が飛び交う中、ジョルジュの頭に叩きつけられた斧は、木っ端みじんに吹き飛んだ。
「ど、どうなってやがる……」
砕けた斧の柄をジッと見つめているゴーライキ。
「(ど、どうなってやがる……はこっちのセリフじゃろがい!なんだよ俺の頭!パーンってなったぞ?恐怖でちょっと出ちゃったじゃんか!脳汁出なかったけど尿漏れ出ちゃったじゃん!帰ったらおしめしようかな?ダメだ……感情が追い付かん。言うなれば無だ。俺の心が死んでる……)」
私は、黙って侯爵子息とゴーライキを見つめている。
その冷酷そうな表情にまたキュンキュンのドキドキ(魔力過剰放出)であった。
「ねっ!ジョルジュは勝ったでしょ?きっとあの後、悪い子にはオシリペンペンなんてしちゃうんだから!」
「えっ?(ストップお嬢様!なんてアホな発言を……え、待って?そんな……男のケツなんて触りたくない……あ、ズボンをずぼんと脱がして……いーやー!ちっちゃい象さんとこんにちわー!)」
私は逃げる侯爵子息をふんずかまえてお尻をバシンバシンと叩き続けるジョルジュを、熱い吐息(魔力含有率高し)を吐きながらいつまでも見ていた。
その後、怒れるお父様の圧力もありジョルジュは無罪放免。それは当然よね。だってジョルジュですもの。
あとあの子息は引き篭もって泣いているという。そのまま軟禁されるのだとか。
お父様は子爵位ではあるが、陛下とは学生時代の旧友。
今も親しくお付き合いしているのでたかが侯爵……なのである。
こうして、私(最凶の言霊師)と、ジョルジュ(悲しき操り人形)の愛の物語は続いていく。
~ おしまい ~
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