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UN:KNOWN  作者: エイト
4/7

いまから…

 二日後。朝から太陽は今も空一面を我が物顔で支配している雲に隠されたため

、その上でさんさんと輝く太陽もなすすべがないまま迎えた昼の時間帯、希の学

校へと二人の青年、怜と千が足を踏み入れた。誰にも招かれることなく。ただ、

誰もが楽しみな昼食という時間を壊すためだけに。


 「ふふっ、んふふふ」

 友達数人と机をくっつけ合い彼女たちは昼食の時間を楽しんでいた。希の反省

しきった態度が功を奏したのか、弁当のボリュームは以前のものに戻っており、

しかも今日は希の大好物であるからあげも入っていた。そのため、ご機嫌なので

ある。

 「希ちゃん、涎でてるよ…」

 言いながら、弁当を取りにいっていた女生徒が席に着く。

 「希ちゃん、お弁当の時間が一番活き活きしてるもんね」

 希の隣に座っている女生徒の的確なコメントに一同は笑ってしまう。

 希はほっぺを膨らませて抗議の意思を示すが、みんなはその様子を見て‘可愛

いー’と感想をもらすだけで全然、抗議になっていない。

 希はそんなことよりも、という感じで手を合わせる。みんなも、はいはいとい

った半ば呆れた感じで手を合わせ、

 「いただきまーす」

 少女たちの声は見事にそろった。そんな微笑ましい昼の時間帯だった。


 グラウンドを我が物顔で進む怜と千に気づいたのは4限目に体育の授業をし、

その後片付けを任されていた男子と女子の体育員だった。そして、二人の片づけ

を確認する役割を担っていた体育教師だった。体育倉庫から出てきて教師に片づ

けの終了を告げようとしていた男子生徒の視界に怜と千が入り、何となく疑問に

思ったその男子生徒はグラウンドの真ん中を歩いていく二人に指を指し教師に尋

ねる。

 「先生、あの人たち誰なんです?今日、何かあるんですか?」

 体育倉庫の片づけの様子を見ていた体育教師は振り向いて確認する。黒い上下

のスーツを着た二人組が学校へと向かっていた。朝の連絡でそんなことを聞かさ

れていなかった男子教師は二人の体育委員にOKのサインをだし、確認のため二人

のところに向かった。

 「あの、すいませんが、どちらさまです?」

 歩きながら話しかける。二人は無言で進んで行く。止まる気配がないと考えた

体育教師は二人の行く手を遮るように前にでて身分の提示を求める。

 「すいませんが、身分の方を確認させてもらってもよろしいですか?」

 右側にいた怜が進み出て、そして、教師の右肩に軽く手を置いた。その瞬間、

教師の身体は氷漬けになる。

 「ふん」

 怜は氷漬けになった教師を無視して進んでいく。

 二人と教師のやり取りを遠巻きながら体育倉庫から見ていた二人の生徒は先生

の異変に気付き、二人の視界に入らないように注意しながら教師の方へと進んだ

。教師は氷漬けになっており、辺りはまだ冷たい。女生徒の方が叫ぶ。

 「先生、先生。先生!」

 その声は窓を開けていた教室にいる生徒の注意を引いた。何人かの生徒が教室

から顔を出し、叫ぶ女生徒の方を見る。が、何がどうなっているのか把握できず

、ある男子生徒が大声で聞く。

 「おーい。どうしたー?」

 その声はおおよそ緊張感を含んだものではなかった。叫ぶ女生徒の隣にいる男

子生徒が応じる。

 「先生がっ、今学校に入っていこうとしてる奴に氷漬けにされたんだよっ」

 それを聞いた生徒たちが玄関の方に視線を移すと、校舎に足を踏み入れた二人

の男の頭があった。


 男たちは土足に構うことなく、ズンズンと廊下を進んで行き二階の職員室のド

アを勢いよく開けた。

 中は昼食を取っている先生や先の授業の疑問を聞きに来ている生徒たちでにぎ

やかだった。

 入り口の近くにいた男性教師が足元を見てくってかかる。

 「おい、お前ら。靴を脱げ。何の…」

 怜に肩を掴まれた男性教師は体育教師と同様に一瞬で氷漬けにされてしまう。

見ていた教師、生徒は悲鳴をあげ、逃げようとするがドア、窓を氷漬けにされて

しまう。そして、次の瞬間にはそこにいた教師、生徒までも氷漬けに。

 「おい、怜。やりすぎだろ」

 千の文句も聞かず、怜はマイクのもとに。そして、慣れた手つきで操作してい

く。


 昼食をいち早く食べ終わった希は一部の生徒が騒いでいる理由を確かめようと

もせずに、友達の弁当を物色しては「おいしそー」、「ねぇ、一つちょーだい」

と、かつあげのような行為をしていた。

 そんな時、突然放送がかかる。

 「この前の‘怪’の能力者。二日前にお前と戦った‘氷’と‘泥’の能力者だ

。今からここであの続きをしようじゃないか。

グラウンドに降りてこい。決着をつけよう。お前に拒否権はない。お前が来なき

ゃ、ここの生徒、教師が犠牲になるぞ!いいな」

 希の心拍数が上がる。同時に心の声も聞こえる。

 ‘どうやら、あいつらがここに乗り込んできたらしいな…どうする?’

 迷いなく希は答える。

 ‘決まってんじゃん!さっさと終わらせる!ここで暴れてもあいつら仕留めれ

ばみんなの記憶には残らないし’

 椅子から立ちあがった希は前の席の友達の卵焼きを手でつまみあげるとパクッ

と口にいれ、そのまま窓の方に向かって走った。助走は全然というほどなかった

が、見事な運動神経で開いていた窓の淵に両足を乗せると足を少し折り曲げ高く

ジャンプ。その行動と変形した窓の淵、ひび割れたガラス窓に呆気にとられるク

ラスメイトたちに構うことなく、グラウンドへと着地した。

 グラウンドには氷漬けにされた体育教師、叫ぶ女生徒がいた。男子生徒は職員

室に助けを呼びに行っていた。

 グラウンドに着いた希は氷漬けにされた教師と女生徒のところに行く。すぐに

一昨日の奴の仕業とわかる。

 ‘ねぇ、何とかならない?’

 ‘能力者をやればなんとかなるだろが…’

 おそらくそういう答えが返ってくるだろうと考えていた希は‘そう’と返すだ

けでそれ以上は何も言わない。

 そして、周りを見回す。誰もいない。

 「あっれー?おっかしいな?待ってるっていってたのに誰もいないぞ?」

 緊張感がまるで感じられない声で希が言う。

 バリン!

 何かが割れる音が響く。希が音がした方に顔を向けると、職員室の窓ガラスが

二枚割れていた。彼女以外の視線は割れた窓ガラスや落下する破片に向けられて

いたのだが、彼女の目だけは違うものに注がれていた。

 希が臨戦態勢をとると同時にそれは彼女の前に現れた。

 まだ、記憶に鮮明に残っているそれが口を開く。

 「よぉ、また会ったな」 日差しに照らされた氷の狐はあの時よりも一層透き

通って見える。

 「遅いじゃん。呼び出した割りに。ま、いいけど。そんなことより、先生をも

とに戻してくれる?」

 親指で後ろで氷漬けになっている体育教師を指す。目はそらさない。臨戦態勢

も崩さない。

 「ふん。俺に勝ったら…勝手にどうにかなるだろうよ」

 言い終わると同時に希が動く。右手を黒く巨大化。その腕が怜に襲いかかるが

、怜はヒラリとかわし、希の懐へ。が、右肘の部分から生えた黒く大きな腕に胴

体を掴まれる。完璧な不意打ちで怜に防ぐ手段はなかった。そのまま希は握りつ

ぶそうとするが、途中で力が入れられなくなる。気づいた時には、右肘から生え

た腕は根元から狐の尻尾によって切り落とされていた。

 「つっっっ!!」

 希は苦痛に歪む声をもらす。本当は叫びたいほどの痛さだったが、そんなこと

で隙を作るわけにはいかなかった。そんな彼女の変わりに校舎から見ていた希の

友達、他学年の女子、そして、氷漬けにされた体育教師と共に近くで一連の出来

事を見ていた女子が叫び声をあげる。

 希や怜にはその声は届かない。彼らの五感は互いにのみ向けられている。

 再び、希に激痛がはしる。右肘から先が狐の尻尾に切り落とされていた。苦痛

に顔を歪めながらも、希は向かってくる怜に合わせて黒く巨大化した左手で怜の

わき腹に拳を叩きこんだ。 奇妙な声をもらし、怜は吹っ飛ばされる。怜の身体

は斜め横のまま一直線に、その延長線上に位置する体育倉庫へと突っ込んでいっ

た。コンクリートとコンクリートがぶつかったような音がして、体育倉庫の横の

壁が崩れ去った。

 希はじっとその方向を見ている。深追いはしない。しばらくすると、怜が姿を

現す。見る限り、ダメージはなさそうだ。その様子を見て、希は忌々しそうに呟

く。

 「タフなやつ…」

 再生した右手を左手と同じように黒く、巨大化させる。そして、両膝を曲げ、

身体を丸める。顔は真っ直ぐ怜の方に。その態勢のまま、怜に突っ込もうと思い

っきり右足を一歩前に出すのだが…ドロッとした感触が両膝を包み込み、勢いを

削がれてしまう。‘何?’と自身の足を見ると、泥でできた人差し指と中指のよ

うなものが膝の辺りに。そして、太もも辺りには親指みたいなものがあり、三つ

の指で希の両足を包んでいた。希は逃れようとあがくが、うまく身動きがとれな

い。

 「な、なにこれ!?ちょっっ」

 泥のいやな感触が伝わってくる。と、我に返ったように、希は怜の方を見る。

怜の周りには無数の氷の矢。認識したと同時にそれらが、希に向かって飛んでく

る。咄嗟に、両手をクロスさせガード。氷の矢は希の両腕を貫くことはなかった

。が、つかの間の安心だった。ひんやりとした空気を感じた時には、怜の尻尾に

よって彼女の体は心臓の少し下あたりで真っ二つに切られ、支えを失った上半身

は前に落ちていた。自分の視線が段々と下に向かっているのを希は感じていた。

やがて、泥に顔をぶつけ、そのまま顔から地面にぶつかった。

 直後、遠くで誰かの叫び声が聞こえた。

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