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櫻子の気持ち

ぶんちゃん、泣かないで』

「俺が、全員殺してやるから」

「あんたは、全員の死を望んでるのか?」

『はい。望みながら死にました。だって……』



櫻子が黙り込んだ。

俺は、櫻子に起きた真実を知れないのか?



『でも、私も小学校低学年の頃。奈美枝なみえちゃんをいじめてしまったから、よく考えたら同じなんですよね。それなのに、自分の番がやってきた時は死ぬなんて。愚かですよね』

「いや、そんな事ない。小学校低学年は、まだいい事と悪い事の区別がついていない事が多い。それだけじゃなく、家庭の中の問題で相手をいじめたりしてしまう事も多い。だけど、高学年からは別だ。高学年以降は、区別もハッキリついている。って事は、自分の意思でいじめをしている事になる。それは、全然違う」

『大人にそんな風に言ってもらえて嬉しいです。母も父も私が悪いとしか言わなかったから……』



櫻子は、佐伯さんの言葉に涙を拭う仕草をする。



「あんたの望みは何だ?」

『文ちゃんの隣にずっといたかった』

「櫻子。それなら俺が全員始末するから待ってろ」



櫻子は、必死で首を横に振る。


ビビビビ……。


画面に大きなノイズが走り、櫻子の姿が消えた。



「何で?櫻子は、どこに行った?」

「文哉に殺人を犯して欲しくないから回線を遮断した」

「嫌だ。俺は、殺す。櫻子を追い詰めた全員を殺す」

「殺した所で、第二、第三のそいつらが出てくるだけだ。どうせなら、心を殺したらどうだ?それなら、死ぬまで見届けられるぞ」



佐伯さんは、おもちゃのナイフを俺に差し出してくる。



「そんなおもちゃで何が出来るんだよ。そんなのじゃ人を殺せるわけない」

「これは、異世界の魔道具の一つで人の心に恐怖や悲しみや苦しみといった苦痛を植え付ける事が出来る。殺すよりも数千倍の価値がある」

「はあ?また、異世界かよ。そんなのあるわけないだろうが」



俺は、佐伯さんの胸ぐらを掴む。

異世界なんてものが本当に存在しているのなら、俺は櫻子に会えるはずだ。

さっきの櫻子の話だって、おかしかった。

櫻子は、幽霊になって天国にいったんだ。


「信じないなら、昼と夜が交わる瞬間に檸檬高校の屋上から飛び降りろ」

「そんな事したら死ぬに決まってるだろうが」

「死なないんだ。檸檬高校の屋上から飛び降りた先に異世界の扉がある。ただし、時間を間違えれば死ぬ」

「櫻子は、時間を間違えたってのか?」

「遠藤さんは、いつ飛び降りた?」

「夏休みに入ってすぐの18時25分だ」

「昼と夜が交わる時間には、少し早かったんじゃないか」

「昼と夜が交わるって何だよ」



佐伯さんは、紙に絵を書く。

昼間の明るさがだんだんと下に下がっていき夜になる。

その夜の闇と昼の明るさが、空の真ん中辺りにやってきた時に屋上から飛び降りると異世界に行けるのだという。

異世界に行く為には、高く飛ばなきゃならないらしい。

そうしないと、空の間に入れないからだ。



「もし、失敗したら?」

「失敗したら、文哉の肉体は死ぬ。そして、お前の名前を異世界で俺が売る」

「佐伯さん、異世界と繋がってるのか?」

「繋がってるよ。能力をもらう為に取引をしたからな。俺は、ブローガー。こっちで死んだ人間の名前を異世界で売っている。こっちの名前は貴重でな。異世界では、高値で売れるんだ」



佐伯さんは、レジを開けて俺の手に何かを置いた。



「これは、何?」

「これは、向こうのお金で。一万キャンディーだ」


キャンディーと言うだけあって、見た目は昔売っていたドロップに似ている。



「おはじきってわかるか?あれみたいだろ?」

「確かに、それにも似てる」

「色で価格が違う。それは、黄色だから一万キャンディー」

「で、これをどうするんだよ」

「これは、向こうのお金だ。能力や魔道具を買うのに必要だ」



佐伯さんは、俺の手の平に黄色のキャンディーを10個のせる。



「10万キャンディー持ってれば充分だ。能力を習得して、こっちに戻ってこい」

「意味わかんねーーよ。何の能力をもらってくるんだよ」

「何でもいい。一つ習得するんだ。それと、魔道具も一つ買ってくるといい。こっちでも使えるからな。まあ、金が使えるのは向こうに行けた場合だ。もし、死んでしまえば必要ないものだ」



佐伯さんは、開店準備をする為にコーヒーを作り始める。

異世界とか、キャンディーとか、頭の中がぐちゃぐちゃでよく理解が出来ない。



「佐伯さん、檸檬の木の下で未来が見えるって話知ってる?」

「知ってる。俺は、それで未来を見たからな」

「本当に?どんな未来?この喫茶店で働いてる未来?」



佐伯さんは、俺の言葉に笑いながらコーヒーをたて始める。



「この店の名前知ってるよな?」

「ほのかだろ?」

「そう。ほのかは、俺の彼女だった」

「だった?」

「18歳の夏。檸檬高校の屋上から飛び降りて消えたんだよ」

「異世界に行ったのか?」

「そうかもな。遺体も見つかっていないから」

「わかってるんだよな?佐伯さん」



佐伯さんは、俺をチラリと見つめる。


「未来を見たからわかってる。ほのかは、異世界に行った。ただ、あの日の満月は赤黒かったから……。異世界の扉か2つ開いたみたいで。ほのかは、檸檬高校の屋上から行ける方じゃない異世界に行ったのがわかった」

「連れ戻したいのか?」

「まさか。連れ戻さないよ。ほのかは、向こうで幸せに暮らしてる。こっちではいじめにあっていたからね。酷いいじめに……」



佐伯さんは、コーヒーをいれ終わると俺に看板の電気をつけてきてくれと言った。

櫻子の幸せを願うなら、異世界って場所に置いてく方がいいって事だよな。


いや、まだわからない。

菅原君と一緒に未来を見てみない事にはわからない。

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