櫻子を助けた男
午後の授業をサボった俺は、別館の一階に来ていた。
この場所で、櫻子は25人の女生徒に追い詰められ……。
自分の嫌いな所を言われたのだ。
どれだけの恐怖が櫻子を襲っていたのだろうか?
「授業サボってるの?旭川君だよね」
「誰?」
「俺は、菅原裕樹」
「何の用?」
「遠藤さんの事を調べてるって聞いたから」
櫻子について、何かを知ってそうな菅原が近づいてきた。
「遠藤さんがいじめられてるのは知らなかった。ただ、俺達が掃除当番だった日に何となくいじめられてるんじゃないかって思ったんだ」
「掃除当番?」
「そう。俺と藤田と坂村は、ゴミを纏めて捨てに行ったんだ。その時、教室の掃除をしていたのは遠藤さん、本村さん、井村さん、多田さんの4人だった。4人いるから、掃除はすぐに終わると思ってたんだ。下げた机だってすぐに動かせるから大丈夫だって」
「それで?」
「藤田と坂村と戻ってきた時。遠藤さんが一人で教室の掃除をしていた。授業が始まる10分前で、みんなはと聞いたらお手洗いに行ったと言った。一人じゃ無理だから手伝うよって行ったら、遠藤さんは大丈夫。一人で出来るからって……。俺達は、遠藤さんを手伝った。それで、ギリギリ二分前には掃除が終わったんだ」
「戻ってきたそいつらは、何か言ってたのか?」
「一人でやったんじゃないんじゃないとかなんとか言ってたと思う」
櫻子へのいじめが囲まれただけで終わってなかったのがわかった。
「それで、菅原君は遠藤を守ってくれたのか……」
「俺も藤田も坂村も、遠藤さんを守ってあげたかった。だけど、守ってあげれなかった」
「好きだったのか?」
「好きだったよ。恋とかそんなんじゃなく人として」
「人として?」
「そう。遠藤さんはね、俺達陰キャ組に優しかったんだよ。すごく。だから、俺も遠藤さんに優しくしてあげたかった。だけど、近づいて話しかけたりするのに遠藤さんは怯えていた。だから、俺は遠藤さんと話が出来なかった」
「そうだったんだな。ありがとう、菅原君」
「いや、俺は何も。ただ、遠藤さんの死の真相を調べてるって事は、君は恋人だったんだろう?」
「ただ、遠藤さんが好きだっただけだよ。菅原君と同じだ」
菅原君は、ニコニコ笑っていた。
櫻子が、冷たい視線ばかりじゃなく、こんな穏やかな視線にも包まれていたのならよかった。
菅原達と仲良くなっていたら、櫻子は今でも生きていたのかも知れない。
でも、それを選べばもっといじめられてたのかもな。
「遠藤さんって可愛い人だったよね。笑顔がすごく」
「ああ。確かにそうだな」
「これから、大人になる遠藤さんはどんな人になっていたのかな?時々、夢に見るんだよ。変わらない笑顔の遠藤さんが大人になった夢」
「菅原君も助けられなかった事、後悔してるのか?」
「してるよ。だから、こんな噂話まで信じて」
菅原君は、手に何かを持っている。噂話って何だ?