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継父

作者: 大西洋子

そのひとと私達が初めて対面したのは、小学生になる少し前のことだった。

「はじめまして、茜ちゃんに葵ちゃん」

ママよりちょっぴり若く背が高いそのひとは、ママから私達の新しいパパになるひとだと紹介された。

「君達の誕生日が、もうすぐなんだってね」

私は興味津々に、双子の妹の葵はこわごわと、そのひとを見つめていた。

「そうだ、これからよろしくを兼ねて、君達の服を買いに行こう」

会ったその日に、その人の車に乗せられて、何時もは通り過ぎるだけだった大型のショッピングモールに行き、下着に普段着にと、ありとあらゆる服を買ってもらった。

「ここが君達の新しいお家だよ」

次の日、そのひとに案内されたそのマンションは、とても日当たりが良く、いくつもの部屋があって、数日後私達はそこへと引っ越した。

「さあ、食べたい物を言って。ママが作ってあげるわ」

引っ越ししてからは、冷蔵庫の中には、お肉やお魚、色鮮やかな野菜が、その出番を待つようになった。

でも、それよりもなによりも、真夜中に目覚めたとき、ママが側に居てくれるようになったこと。

「パパのおかげで、あなたたちが寝ている間、仕事に行かなくていいようになったのよ」

そうしてことある毎に、ママはそのひとが私達にとって王子さまであり、魔法使いなのよと語り、私達もそう思っていた。あの日までは……

「何しているの?」

あの日、土曜日の十二時過ぎ。部活を終え、シャワーを浴びようと、着替えを取りに私達の部屋に入ったら、そのひとが私の箪笥の前に立っていた。

「ああ、ごめん、ごめん。君達の部屋に爪切りがないか探していてね……」

そのひとは、そう言って部屋を後にしたれど、どこかしら違和感があった。

正しく言い直すと、その違和感は私達がまだ少女だった頃からずっとあった。

「茜ばかりずるーい! 次はあたし!」

私達が、そのひとの胡座をかいた足の上に、競うかのように乗ったときとか、

「どうだ、葵、高いだろ?」

順番に肩車をされたときとか、

「茜、葵、こっちを見て。はい、チーズ」

プールで水遊びしている私達を見る、そのひとの顔は、男子が女子のスカートの中を覗こうとするあの顔によく似通っていた。

中学に入ってからだったか、午後から部活だった葵に、そのひとから感じる違和感についてたずねてみた。すると、葵は突然涙をこぼし出し、ぽつりぽつり語った。私はその独白に言葉を失った。

「何度もやめてほしいと頼んでいるのに、やめてくれないの」

これは、私達だけの話にしておくわけにはいかない。翌日、そのひとが出かけている合間にママに話をした。けれども、

「それって、挨拶のようなものよ」

と、まともに取り合ってくれない。それどころか、

「パパのおかげで今の私達がある。それを忘れないでね」

ママの言うことはよくわかる。だからといって、その人が葵にしてきたことに口を閉ざし、目を背けていいのだろうか。

私は葵と話し合い、その人と二人っきりになる時間を減らすために、塾や図書館へ通うことにした。

さらに家に居るときも注意を払うことにした。トイレにお風呂と私達は順番に入り、必ずその側に居るようにして、私達の部屋に鍵をとりつけた。

私達は何事もなく中学を卒業し、高校に進学。葵とは違う学校に通うことになったけれど、同じ時間帯に最寄り駅を利用するよう、お互いに連絡しあい帰宅した。

2022年4月1日、女性の婚姻可能年齢が18になり、それを知ったそのひとは、二年延びてしまったと嘆いた。

「それは、どういうことなのかしら」

そのひとはママに詰めよられ、私達に部屋に戻るように告げ、しばしの口論の後、

「あなたたちが言うとおり、あのひとは王子さまでもなく、魔法使いでもなく、光源氏だったのね」

ママはこれまでのことを謝罪し、私達はようやく平安な日々を得た。

代わりにそのひとは針の筵の日々をおくることになるけれど、同情の余地すらない。



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