練習3
貴族の長男に生まれたアランは、今日が誕生日だった。今年で、十二歳になる。
「おお、アランよ。父の期待を裏切るでないぞ」
「わかってます。父上。騎士の家柄に生まれたことを恥じぬよう、僕は毎日、木の棒だけを振ってきました。その成果、今ここで示します!」
父上は、うなずいた。
「それでは、アラン様、前のクリスタルに手をかざして下さい。それで、アラン様の中に眠る才能を呼び起こすことができます」
「これで、やっと証明される」
アランは、クリスタルに手をかざした。すると、眩しい光に包まれる。
「こ、この光は! まさか!」
神官は、身を乗り出した。
「こ、これが僕の才能……」
クリスタルの中には、《鍵開け》という文字が浮かんでいた。
「何だ? その、《鍵開け》というのは?」
父上が訊いた。
神官は、なぜか言いづらそうな顔をし、鼻先に皺を寄せた。
「これは、そのままの意味でございます」
「どう言うことだ? はっきりしろ!」
「どうか、落ち着いて下さい。いいですか。《鍵開け》というのは、缶のフタを道具も使わずに開けたりする能力のことで、主婦からしたら、たいへん、ありがたい能力なのですが……。残念ながら、アラン様には騎士としての才能がなかったようです」
それを聞いた父上は、激情した。
「アラン! お前は我が家の恥だ! 二度と、私の前に姿を見せるな! いいな? 今日限り、お前とは親子の縁を切る!」
「そんな、待って下さい!」
この日、僕は父上から見捨てられた。家からも追い出された。
そして僕は――
「ヒャッハ――アァッ!! 食料は全部、俺のものだ!!!」
頭をモヒカンにし草原を颯爽とバイクで走っていた。
これが、今の俺――アランだ。
俺は、グレた。
あの日から、何もかもが上手くいかない。
好きな人に告白をすれば、鼻で笑われ、その帰り道にバナナの皮で足を滑らせ、怪我をした。財布は擦られるし、もう散々だ!
そりゃあ、グレるよ。もう、グレる要素しかないじゃん。
「おい、アラン、いつものを頼む」
「へい。お頭」
差し出された桃缶を、そっと指でなぞる。
すると硬い缶が、バナナの皮を剥くように、簡単に蓋がとれた。
「おお! さすがだな。その才能は大したものだ」
全然嬉しくねぇよ。なんだよ、その雑な褒め方。お前の頭を《鍵開け》してやろうか、あん?
いや、ちょっと待てよ。この能力、使いようによっては、化けるかもしれない。
たとえば、洞窟の中にある、マジックアイテムを入手すれば。
マジックアイテムとは、宝箱の中に入った古代兵器のことだ。
本来なら、ダンジョンの奥に潜むボスを倒して鍵を入手しないと開けることができない。
だが、この能力を使えば、ボスを倒さずに中のマジックアイテムを入手することができるのではないか、とアランは考えていた。
そうと決まれば――俺は、モヒカンを揺らしながら、颯爽とバイクを走らせる。
ついた。ここが噂のダンジョン。中には、強力な魔物が住みついている。だが、俺には、これがある。
そう、手に持つのは、長年共にした木の棒ではなく、ダイナマイトだった。
ダンジョン攻略に魔法と剣で戦う? 古い古い、男は黙ってダイナマイトよ。コイツがありゃ、どんな相手も、木っ端微塵だ。
そんなわけないだろ、とういう心の声を無視し。アランは若さと、思いっきりのよさだけで、ダンジョン攻略に挑んだ。
そして、なんや、かんやあって。アランは、宝箱の所まで辿り着くことができた。
「これで、俺も億万長者だ!」
本来の目的を忘れ、アランは、《鍵開け》の能力を使って宝を開けた。
「こ、これは!」
中から出てきたのは、棘がついた肩パッドだった。
「なんじゃこりゃ、これって、もう完全にアレじゃん!」
ふと、背後に気配を感じた。
振り向くと、嫌にガタイのいい大男が立っていた。よく見ると、男の胸のところに、七つ傷のようなものが見えた。
「動いたら――ボンっだ」
目が合うなり、男は、そんな不吉なことを言い出す。
取る選択は、3つ。
1 勇敢に戦う。
2 全力で逃げる。
3 靴を舐める。
さあ、どれが正解だろう。
アランは生き残りを賭け、選択に挑む。