練習1
ふと、思うことがある。人生にセーブ機能があれば、自分の人生は、もっと違った人生を歩めたのではないか。
今だってそうだ。
小さな会社に入り、どうでもいいようなことを、笑顔で聞く。
相手は、ただ自分の話を聞いてほしいだけなのだ。
というか……この話、何度目だよ。
かれこれ、10回目くらいか。そこからは数えてない。馬鹿馬鹿しいのでな。
「聞いてよ! 山城さん! この前、うちの猫が」
「怪我して、大変だったんですよね」
「そうなのよ! それで――」
ダメだ。先制パンチを入れたのに、まったく効果がない。まずい。このパターンは――!
お局のあの構え、間違いない。椅子に座る気だ。
よく見ると、机の上には、お菓子まで常備されている。これは非常にまずい。
椅子に座られたら最後。地獄の長話が始まる。それも、もう何回目か数えていない、同じ話、決まって始まるのが、「この前、うちの猫が」
そもそも、俺は猫が嫌いなんだ。
猫アレルギーなんだよ。もふもふ、できねぇんだよ!
猫嫌いな俺に、その話をするな!
「へえ、そうなんですね」
俺は促されるまま、椅子に座っていた。
なぜ、こうなった。
人が良いのか、俺?
損なのは頭で理解しているのに。
はあ、と心の中で溜め息をついた。
ああ、セーブ機能がほしい。
そして、やり直したい、そう切実に願う山城だった。