第46話 解放者『ハデル・F・S・エル』
ざわつく町の中を俺とサラシャ、そしてパシィが進む。
俯きながら進んでいると隣からサラシャが呟いた。
「…………母上も思い切ったね」
「ああ」
「だけど今ハデルだけが頼りだから。……ボ、ボクの時みたいに彼らを助けてやってよ」
「善処するよ」
「……いつものように自身気に言わないんだね」
目だけを彼女の方にやると苦々しい顔をしていた。
奴隷紋解放。言うのは簡単だが実行する事がどれだけ難しい事なのかを、彼女は知っているようだ。
「難易度が違い過ぎる」
俺が肩を落としているとリュックサックから元気な声が聞こえてきた。
「おいおい。何しょんぼりしてんだ? マスター」
元気な彼女らが今は恨めしい。明るい声が俺を苛立たせている。
彼女達が悪いわけではない。
俺の実力不足だ。
しかし少し集中したいのは本当で。一先ず黙らせるために現状を説明した。
だが俺の言葉にベルデが反応した。
「何か忘れていませんか? 」
「? 」
「ぼ、僕達もいます! 全員繋いで、演算して、コントロールすれば、だ、大丈夫……だと思います! 」
ブルの言葉に俺は瞳を開く。
目から鱗が取れたようだ。
「その手があったか! 」
「私達の力を使えば高速演算や並列思考を遥かに上回る力を発揮できるでしょう」
「それにおれっち達の制御力を合わせれば! 」
「イレブンナイン以下のずれさえ起こしません! 」
三リス達がジャンプしサラシャの肩に乗ってそう言った。
「元気を取り戻したみたいだね」
「ああ! 」
「少し嫉妬しちゃうけど……、応援してるよ! 」
「任せておけ! 」
そう言い俺は歩く。
解放を待つ、人々の元へ。
★
アベルの町の広場にて。
そこには多くの人達が集められていた。
現在この広場は関係者以外立ち入り禁止。
よっているのは解放できる俺と魔国関係、そして奴隷にされた人達だ。
知らされている人数よりも多い。
ちらりとカイトの方を向く。
「……部下からの報告なのですが、冒険者ギルド・ギルドマスター『レド』の館にて多くの奴隷が見つかりました。彼らが恐らく、それに当たるかと」
痛々しい顔でそう言うカイト。
……あの赤鬼。本当に禄でもなかったな。
そう思いながらも持ち場に進んだ。
着く。
彼らを見て一歩たじろぐ。
だが二歩歩いて壇上へ進む。
ここに来るまでに何度もシミュレーションした手順を確認する。
そして彼らの前に立った。
「ああ~こういうのは慣れてないから手短に言おう」
俺は頭に被せたローブを脱ぎながら彼らに言う。
すると人々にどよめきが走った。
「ハ、ハイエルフ様?! 」
「まさか?! 」
「神の御使い様が?! 」
……そうだった。ハイエルフは希少過ぎて一部で神聖視されてるんだった。
いつも騒がれないから油断していた。
だが良い。
むしろこのローブは邪魔だ。精密な操作が必要になる上で色んな魔法が付与されたこのローブは邪魔だ。
靴も脱ぐ。これも魔法が付与されているかな。
そして正面を見て、伝える。
「今から君達の奴隷紋を消す」
「な! 」
「ほ、本当ですか! 」
「おお……神よ」
「で解放後の君達の身分だが——」
「それは魔王リリスの娘であるボク『サラシャ・アスモデウス』の名において保障しよう。解放後即座に国民証を発行する手筈になっているから、手続きを忘れずにね」
とサラシャが前に出て言う。
すると即席で作ったのかそれ用の天幕が張られていた。
「じゃぁ最初だが……」
「私から」
俺が言うと一人の魔族の女性が出てきた。
顔だけではわからないが恐らく集団の最年長。彼女の顔はどこか決意に満ちたような表情をしている。
……恐らく彼女は奴隷紋解放がどれだけ難しいのか知っているのだろう。
それを踏まえて自分が被検体になると。
増々失敗が出来ないな。
「まず座って」
「はい」
彼女が座り、俺も座る。
『ロッソ、ベルデ、ブル。やるぞ』
『まかせとけ』
『いつでもいいわよ』
『い、行きます』
『『『以心伝心』』』
俺達は繋がった。
ゆっくりと、首に両手をかざす。
『超速演算、並列思考、魔眼解放、精霊眼解放——』
息を吸い、吐く。
『魔力糸、小精霊操作——』
そして解放が——始まった。
★
「あはは……。これは参ったね」
「姫様。彼は一体」
カイトがサラシャに聞く。
「彼は凄腕のダンジョン管理人さ」
「しかしあれほどの魔力操作……。それにそれだけではないような」
「良いじゃん。今の所それだけで」
カイトはサラシャの言葉に「はぁ」と気の抜けた声で応じた。
今、あの場で行われているのはまさに神業。
論理的には可能でも実践するのは不可能ともいえる離れ業。
ハデルは目の前の女性を二つの力——『魔力』と『小精霊』を同時に扱い奴隷紋解放を発動させている。
奴隷紋解放にこの方法はとらない。その昔使われていた技術は少なからず脳に影響を残すものである。
しかしながらハデルが得た知識はそれとはまったく別。偏った環境で育ち、偏った知識を得た彼は、知らずのうちに失伝したはずの技術を再現していた。
ハデルの指が、僅かに動く。
今、首元にある奴隷紋に魔力糸と小精霊で編んだ糸で直接干渉する。
紋の表面にするりと入り脳へ向かわせる。
僅かなずれすら許されない精密操作で脳と繋がっている奴隷紋を解いていく。
解けるのを確認すると、一つ終え、再度入れる。
これを何十、何百と繰り返し——一人目を終えた。
★
「……ハデル。終わったよ」
「! 」
サラシャに肩を叩かれて気付く。
一気に集中力が切れた。
「周りを見て」
目を動かす。俺の目の前には喜びで踊っている人達が目に映った。
遅れて今暗い事がわかる。
『暗視をかけておいたぜ』
『助かったよ』
どうやらロッソが気を利かして環境変化に俺の目を合わせてくれたようだ。
「ハデルが解放した人達だよ」
「…….そっか。よかったぁぁぁぁ」
ばたりと背中を倒して夜空を見る。
急に体を倦怠感が襲ってきた。
ぐぉぉ! 反動が!
「ふふっ。少し休んだら」
「……悪いけどそうさせてもらうよ」
俺はそう言い視界を閉じた。
それと同じくして、タイミング悪くそれを見ていた人がいた。
「救世主様が倒られたぞ! 」
その一言でその場は騒然となる。
(ハデルはえらく人望を集めたみたいだね)
それを嬉しく思いながらも彼の体を少し寄せる。
そしてサラシャは集まって来た彼らに言った。
「ハデルは大丈夫だよ。一気に疲れが出たみたい」
「ですが私達のせいで……」
「布団でゆっくりと休ませたら大丈夫だよ。さ、皆もまだ完全に安全とは言えないんだ。これからお仕事のことも考えないといけないし」
「確かに」
「だからね。少し提案があるんだけど」
サラシャはそう言い他の皆を集めた。
その提案は受け入れられ、後でハデルをびっくりさせることになる。
ここまで如何だったでしょうか?
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