第43話 レドは侵攻する ハデルは迎え撃つ
冒険者ギルド前。町の人が不安げに建物を見る中、多くの冒険者達が集まっていた。
しかし不安げな顔をしているのは町人だけではない。冒険者達も不安げな顔をしている。
「いいか、てめぇら。コズの野郎から支援を引き出した。しくじんじゃねぇぞ」
筋骨隆々な体に大剣を背負ったレドが言う。
その言葉に、全員が更に不安になった。
いつもレドは冒険者ギルドに来ない。館で、まるで昔のことを振り払うかのように暴れているからだ。
しかし今日、レドが突然ギルドに現れ、開口一番「ダンジョンを攻略しに行く。全員集めろ! 」と言った。
困惑しない方がおかしい。
しかし彼らはその言葉に従った。
それは、その昔レドに逆らい命を落とした者がたくさんいるからだ。それ故にギルドの建物に残っていた不良達は休んでいる仲間を叩き起こして集め、現在に至る。
集められた冒険者達は何故今の状況になっているのかわからない。
そもそもダンジョンを攻略するということ自体が呑み込めていない。
よって一人の冒険者が口を開いてしまった。
「……ギルマス。どこのダンジョンに向かうので……すか? 」
慣れない敬語を使いながらレドに聞く。
その言葉に溢れんばかりの怒気を孕ませ冒険者に言った。
「そこのアベルのダンジョンに決まってんだろうがぁ! 」
怒気に当てられ、全員が委縮する。
しかしアベルのダンジョンと言われて更に困惑した。
踏破済みのダンジョンを攻略するなど彼らは聞いたことがない。
何故そんなことをするのか疑問に思うが、引き下がる。
これ以上レドを怒らせるのはよくないと直感的に感じたからだ。
そして彼らは魔改造されたアベルのダンジョンへ向けて足を向けた。
アベルのダンジョン前。冒険者達とサブマスター『ゼク』とギルドマスター『レド』、そして冒険者達は頭を傾げていた。
「……ここがアベルのダンジョンか? 」
「いやまて。こんなにデカくなかったぞ? 」
「それにこの……騎士みたいなのは何だ? 警備用の鉄人形か? 」
「まて。いつも来ていたがこんなの無かったぞ」
ハデルの三倍ほどの大きさだった入口は更にその二倍ほどに拡張され、空洞の隣には成人女性の二倍ほどある、鉄でできたと思しき騎士が二体、冒険者達を見降ろしていた。
威圧感溢れるその姿に冒険者達がたじろぐが、レドが「ビビんな! 」と一喝し、冷静さを戻させる。
高価な、新品の武具に身を纏った冒険者達は、レドに急かされ中へ行く。
「なんだか不気味だな」
「ああ」
薄暗い中不安に駆られながらも彼らは歩く。
周りに注意を払いながらも、レドに聞こえないように小さな声で彼らは話していた。
いきなり命じられたダンジョン攻略。不満に思うも口に出せない。なのでこうして、せめて何か話してでも気を紛らわせていた。
ダンジョン一階層。入り口を過ぎて少し経つ。ほぼ全員がダンジョンの中に入った時にそれは起こった。
「! 何だこれは?! 」
「魔法陣?! 」
「しまった! 転移トラップ?! 」
「まさかバレていたのか! 」
突如全員の足元に蒼白い円が光り出す。
それに気付いた時には、レドやゼクも含めて、全員同じ場所に転移させられていた。
★
ダンジョン三十階層草原地帯。
「ふむ。まずは準備だな」
そう言いながら俺は精霊魔杖『ロッソ』を地面に向けて振り下ろす。
「精霊召喚: 精霊騎士、精霊魔導士」
地面に数え切れないほどの魔法陣が浮かび上がる。
そこから姿が見えてくる。どんどんと召喚されて行き、そして完全に姿を現した。
白銀の鎧に身を包み立っているのは精霊騎士。
緑・赤・青・黄色などのマントに身を包み俺の方を見るのは精霊魔導士。
この二種はその名の通り接近戦と遠距離戦を得意としている。
精霊召喚で召喚できる精霊は、所謂普通の『精霊』である。
しかしながらいつも周りにいる——普通の人には視えない球体で一対の羽根を持つ存在とは全く異なる。
彼らは精霊達が集まった群体で、形どることにより、濃密になった精霊群体が人に視える形となって、こうして召喚される。
精霊召喚はエルフでも特に高位の精霊術師でなければ召喚できない。
俺がこうして召喚できるのは恐らく精霊族ハイエルフという特殊個体に生まれたことが大きく影響しているだろう。
「さて……。転移トラップにかかったか? 」
俺は入り口に転移トラップをかけた。掛けた転移トラップの種類は『重量識別型式転移トラップ』と呼ばれるもの。これはその名の通りその魔法陣の上を一定重量のものが通過したら発動する転移トラップだ。
隠蔽の魔法を使うまでもないとおもって「さらっ」と土で隠したが……バレてないよな?
俺が相手を見くびり過ぎて解除される可能性があるな。
ダンジョン攻略に罠解除は必要な技術だ。幾ら犯罪者集団とはいえ、冒険者を名乗るのならばギルドに一人くらい罠解除ができる人物がいてもおかしくない。
そう思っていると少しひやりとしてきた。
『ハデル。そっちに冒険者がいったよ』
『了解。迎え撃つ』
『武運を祈って……いや必要ないか』
『……せめて祈るくらいしてくれてもいいんじゃないか? 』
『冗談、冗談。じゃ、頑張って』
そう言いサラシャがダンジョン内通信を切った。
予定通り引かかったか。
にしても俺の扱いがどんどんと酷くなっているのは気のせいか?
「総員配置につけ」
俺は手を上げ百五十ほどの精霊群体に隊列を組むように指示を出す。そして相手の殺気を感じたら迎撃するように伝える。
感知を全開にし、一歩前に出てロッソを前に向ける。
すると奥から人の影が見えてきた。
「てめぇら。進め、進め! 」
レドとかいうギルドマスターの声が響く。赤い肌が俺の視界に入った。
奥から冒険者達をたきつけているようだ。しかし一番前を歩かないとは見た目に反して臆病なのかもしれない。
慎重で冷静な性格ならばそもそもダンジョンに侵攻なんて馬鹿げたことを考えないだろうし、煽った俺が言うのもなんだがやはり感情的な性格なのだろう。
感情的だが臆病で人任せ。
うん。上司にしたくないランキングにレドが入りそうだ。
「ここから先は通行止めだ。引き返すのならば今の内だぞ? 」
そう言った瞬間後ろから炎の槍が俺の横を通り過ぎた。
「「「ギャァァァ!!! 」」」
……。
確かに殺気を向けられたけど……。
うん。ちょっとだけ……ごめん。
ここまで如何だったでしょうか?
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