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第4話 ハデルは思い返す

 ニックの部屋から出て一階へ向かう。

 興奮した顔の三リスが俺の肩に頭に引っ付いて口々に話している。


「一階で何か買っていこうぜ、マスター! 」

「私はやっぱり高級ナッツよ。そして紅茶の茶葉(ちゃば)も」

「僕はヒマワリの種が良いな」

「買うのは良いが自分で()れろよ? 」

「……器具(きぐ)がないわ」

「なら諦めろ。最初に言っておくが俺がやるのは無しだ」

「なんでよぉ」

「ケッ! 情けない声出しやがって。自分のことは自分でするのが当然だろ? 」

「……こうなったら力を使って眷属を呼び出すしか」

「それは()めろ。こんなところでマザーであるベルデが力を使うと何が起こるかわからない」


 ピンと指で緑の体を(はじ)いて(いさ)めた。

 ピギャ、という声を出してベルデが吹き飛び廊下に転がった。


 彼女達はマザーダンジョン。

 この世界には『マザーダンジョン』と、所謂(いわゆる)ボッチダンジョンと呼ばれる『独立したダンジョン』がある。

 その違いは簡単で『チルドレン』と呼ばれる眷属のようなダンジョンを作れる能力があるかどうかだ。

 マザーダンジョンとチルドレンは魔力的に(つな)がっておりマザーを攻略するとその配下であるチルドレンも調節できるようになる。またチルドレンを攻略してもマザーを攻略しないとその内支配権を奪われかねない。俺はこれを何回かやらかした。

 よってマザーダンジョンを攻略するのがいかに重要なのかがわかる。


 そんな力を持つベルデだ。少なくともこんなところで力を使わせてはいけない。


 予想以上に吹き飛んだ彼女の元へ近寄り(ひざ)を折る。


「わかってるわよぉ。もう」


 顔を優雅(ゆうが)()いて、体をパンパンと叩いてリスとは思えない跳躍(ちょうやく)力で俺の肩に乗った。

 彼女達を乗せて俺は一階へ向かうのであった。


 ★


 お世話になった人達に挨拶を済ませた俺はベルモット商会が経営している宿屋へ向かう。

 石造りの道を()みしめながら思い出す。


「転生した時から変わらないな」


 俺は元日本人で転生者……、なのだが所謂使命を()びてこの地に降りたようで。

 神様から与えられた使命はマザーダンジョンの完全攻略。

 理由は簡単。一向に攻略される気配がないからとのこと。


 本来マザーダンジョンは、他のマザーダンジョンと魔力パスをつなげて星を活性化させるための装置とのこと。この循環(じゅんかん)が出来ないとボッチダンジョンや魔力だまりが出来てしまうようで。そしてその魔力だまりとかで災害が起こりやすくなる。


 俺がこうして三リスことマザーダンジョンズを共にしているのも新しくマザーダンジョンを攻略した時に速やかにパスを繋ぐため。勝手について来たが俺にとっては好都合ということだ。


 (ちな)みに転生時に能力はもらわなかった。というよりもシステム的に付与できるものが無いと事。

 よってノーチート。


 いや違うな。()いて言うのならば——存在がチートだった。


 恐らくシステムが許容(きょよう)できる範囲でこうしたのだろう。

 神とやらは何をしたのか。


 そう。

 三界の管理者で王達の王である界王(かいおう)——俺の場合は『精霊界王』の子として生まれた。

 初めての子供でしかも転生者。かなり喜んだらしく……溺愛(できあい)された。

 小さな頃からある種の危機感(母の愛)に襲われた俺は精霊族のハイスペック能力を生かして勉強に勉強を重ね自立の準備をし、精霊術師になった。

 いやぁいい思い出である。二度と味わいたくないが。


 二百年も精霊界にゆうへ……ゴホン、精霊界でダンジョンを攻略してやっと人界に行けたのである。出る時も大変で……。


「だ、大丈夫ですか? な、泣いているのですか?! 」


 肩に重みを感じると隣に青色のリスが乗っていた。

 ブルが可愛らしくこちらを見つめてくる。俺は立ち止まり涙を拭いて彼女に答えた。


「大丈夫だ。昔の事を思い出しただけだ」

「そ、それにしては悲壮感に(あふ)れていたように見えたのですが……」

「大丈夫、大丈夫」


 そう言い首を動かし彼女の方を見る。ほんのりと高級ナッツのいい(かお)りが(ただよ)う中、心配してくれたブルを撫でる。

 

 彼女を安心させると俺は前を向く。見慣れた光景を行きながらぽつりと呟いた。


「しかし妙にハイテクだよな。この世界」

「……ぼ、僕達は初めて変形したので、全てが新しく見えるのですが……」

「そうだろうが……なんというか、ちぐはぐ感が半端ない」


 そう言い大通りを歩く。


 この世界に生まれて色々な意味で驚いた。

 まず文明レベルがかなり高い。俺は精霊界と人界しか見ていないが道路は綺麗(きれい)舗装(ほそう)されている。

 建物も清潔で色とりどり。現代欧州にあるような雰囲気だが、中世にしては完全にオーバーテクノロジーだ。

 極めつけは通信器具。魔導通信タブレットというらしいのだが完全にスマホである。映像・音声保存機能がないスマホである。


 精霊界の町に降りて初めて思ったことは——「これ思っていた異世界転生じゃない! 」だ。


 だが五年もすれば完全に慣れ俺も現地民の仲間入りした。


「これだけなら単に高度文明に転生しただけなんだがな」

「何か気になることでもあるのですか? 」

「いや……、なんで通信器具が発達してるのに交通手段が馬車なのかと」

「他に何か移動手段があるのですか? 」

「……転生前だと車とか電車とか」


 分からない、と言う風にブルが首を傾げた。

 それを見て「そりゃそうだよな」と思いながらも歩く。


 この地に来て車や電車を見たことがない。が同時に「戦車がないこと」に気が付いた。

 戦車がないから車がないのか、と一人納得。

 そりゃそうだ。魔法使い自体が歩く戦車のようなものだもの。必要がないのならばその技術の発展は見込めないわけで。

 加えると高位魔法使いは普通に転移魔法で移動するし、一般市民に紛れる中位魔法使いならば空を飛べる。魔法が使えなくてもスキルで「天駆(てんく)」を習得している者ならば普通に空を飛べる。


 馬車の基本的な利用は急ぎではない用事か、小規模商会の物資輸送か、ゆっくりと()られながらの旅。あとは高貴(こうき)な人の見栄(みば)えの為の移動といったところだろうか。

 商業に関しても中規模くらいの商会になるとアイテムバックを持てるだろうし、大規模商会になると従業員がそれぞれアイテムバックを持って高位魔法使いを雇い転移魔法で産地まで移動する。


 身も(ふた)もない事を言うと獣人族が走った方が馬車より早い 。


 転生した俺から見れば「何故こんなに強いのにマザーダンジョンを攻略しようとしないんだ? 」と疑問を覚えたが、逆に「安定しているから挑戦する必要性を感じないんだ」とこれも勝手に納得。


「ど、どうやらついたようです」

「ん? あぁ、ありがとな」


 俺が思い出している間に目的地に着いたようだ。

 このスタの町には珍しい五階建て宿屋を見上げながらお礼を言う。

 真っ白い建物に重厚(じゅうこう)で茶色い扉の方へ足を向けて、中に入った。

ここまで如何だったでしょうか?


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