第36話 ハデルは新しい職場を攻略する 2
転移しすぐに魔杖を構える。
一応の注意はしておいたが何もなかったようだ。
魔杖を降ろすとサラシャとパシィが俺の隣に出た。
「一気に風景が変わりましたね」
「草原エリア、だね」
パシィが感想をいい、サラシャが見渡す。
奥の方から「モォ~」というほのぼのした声が聞こえてくるが油断ならない。
「牛かな」
「いやミノタウロスの可能性もある」
「それならば少しは楽しめるのですが」
「いや踏破済みダンジョンは戦闘を楽しむところじゃないから」
そうツッコみながらも、敵影探索を発動させる。
ミノタウロスならミノタウロスで良い。気構えが変わるだけで倒すことに変わりない。
ゴブリンやスケルトンは無理だが、ミノタウロスやドラゴンなどのダンジョンモンスターは食べることができる。
人界でも食用モンスターとして人気だ。
そして探索が終わる。
「……単なる牛のようだな」
「だから言ったじゃん」
「いえもしかしたら牛の声真似をするダンジョンモンスターかもしれません」
「だから何故に戦闘につなげる?! 」
俺はツッコみ、前を見る。
特にこの階層に危険はなさそうなので先に進む。
途中商人お抱えの酪農家と思しき人物が乳しぼりをしている所を見た。
「ダンジョンなのに平和ですね」
「これが普通だから。と言うよりもパシィはダンジョンを何だと思ってるんだ」
「危険蔓延る魔境」
「知識が古すぎる! 」
そう言うやり取りがあったものの難無く俺達は二階層を過ぎ去っていった。
三階層に着くと土臭い臭いが鼻を突いた。
周りを見渡すと平野に山がいくつかある。
「鉱山エリアか」
ぽつりと呟いている中「カーン。カーン」という音が響いている。
警戒を怠らず先に進む。
「一つに特化するんじゃなくて満遍なくやってる感じだな」
「そうなの? 」
「あぁ。よくある手法だ。だが特化しない分一つ一つの生産量が落ちる」
「へぇ」
「よくある手法故に……、今ダンジョンを動かしている奴の性格がよくわかるな」
「基本に忠実、と言ったところでしょうか」
「更に言うのならば古いマニュアルに沿った、少し頭の固い人物だろうな」
そうなんだ、とサラシャが応じ先に行く。
幾つか小山を通り過ぎる。
商会の職員らしき人物がつるはしを振り、大きなソリで運んでいた。
「中々に重労働だね」
「そりゃな」
彼らを見ながら歩く。
微妙なところでアナログなんだよな。
そりゃぁ一般人の魔力はたかが知れている。穴掘りを使えば楽なんだろうけど、普通の職員が使えばすぐに魔力が尽きるだろう。
ソリで鉱石を運ぶのもそうである。
が、逆に考えるのならばアベルの町を拠点にしている商会はそれほど大きな店ではないということがわかる。
大きな商会、例えばベルモット商会とかならば専用の魔法使いを育成し雇って作業の効率化をするだろう。
身体能力に長けた魔界の住人。
もしかしたら身体能力が優れている分、物理で解消するのが『普通』となっているのかもしれない。
「次の階層だよ」
俺が考えながら歩いているとサラシャが教えてくれた。
顔を上げ、前を見る。
蒼白い魔法陣がそこにあり、俺達は次の階層へ足を踏み入れた。
★
目の前に木が見える。
すぐさま警戒し探索をかける。
「今度は多いな。敵か味方か……、敵影探索」
と唱えて魔法を広げる。
「どう? 」
「こりゃまた何というか。殆どがモンスターだな」
「……もうすぐダンジョンボスが近いということでしょうか? 」
そう言うパシィに軽く頷く。
これもマニュアル通りだ。
基本的に踏破済みダンジョンは資源の宝庫として使われる。その為出入りを緩く設定し取りやすいようにしている。
だが逆に言うと再度踏破されやすい性質を持つ。
国営ダンジョンに手を出す馬鹿は殆どいないが、裏家業の者なら率先してやるだろう。
彼らに法律などないに等しいのだから。
「さて。種族はっと」
ぽつりと呟くと「ウォォォォォン」というウルフ種の遠吠えが聞こえてきた。
魔法を使うまでもないようだ。
二人に目配せをし、武器を構えて先に進む。
するとすぐにフォレストウルフの群れが襲い掛かって来た。
「魔弾」
魔弾を放ち迫るウルフを打ち落とす。
勢い余ったウルフが俺の隣を過ぎて後ろで倒れる。
生命力が尽きているのを感知しながら波のように迫るウルフを打ち落としていく。
「この程度で」
そう言いながらパシィが刻む。
十数体のウルフの隙間を縫いながら短剣を振るうメイド。
……これからはメイドと言う存在を侍女から戦闘民族に認識を変えた方が良さそうだ。
「次はベア、いやアイアンベアか」
「鉄の強度を持つと言われていますが」
俺達が危機感なく話しているとアイアンベアが「Gaaaaaa!!! 」と雄たけびを上げながら迫って来た。
二撃三撃と俺に向かって爪撃を繰り出してくるが難無く回避。
そして少し距離を取って魔法を放つ。
「素材を手に入れに来たわけでもないし、関係ないな。螺旋風槍」
緑輝く魔法陣が俺の前に現れる。
するとそこに風が集まる。
見える程に濃密な槍となった風は高速回転しながら、鉄の強度を誇るアイアンベアを貫いた。
「あ、やべ。やり過ぎた」
メキメキメキ……ドン!!!
俺が放った槍はモンスターを貫き、木を貫き、遠くへ飛んで行ってしまった。
その直線状の木々が風穴を開けて倒れていく。
程よく歩きやすかった道は幾つもの木が倒れて、少し歩きにくくなっている。
後ろから非難めいた目線が俺に突き刺さる。
少し冷や汗を出しているとサラシャの声が聞こえてきた。
「程々にね」
「この先に誰かいないとも限りませんし」
「冒険者同士の同士討ちなんて洒落にならないから」
「……ごめんなさい」
サラシャに言われ、パシィに肩を叩かれる。
少し気まずく俯きながら俺は先に進んだ。
それに気付いたのは歩き始めて少し時間のたった時。
ふと正面に探索に引っかかる者がいた。
「誰かいるぞ」
「敵? 」
「……生物だが敵かはわからない」
生命探知を使いダンジョンモンスターでないことを確認したのち、敵影探索で相手に敵意があるか確認した。
だが微妙なのだ。
敵ともそれ以外ともいえない微妙なライン。
敵影探索は生物の敵対意思に反応し、その結果を術者に教える魔法だ。
モンスターのように敵性が強い場合はすぐにわかるが、敵性があやふやな時はあまり反応しない。
「こうしていても仕方ないな。進もう」
そう言い先に進む。
そして一人の女性が現れた。
「か、か、か」
「「「か? 」」」
「帰ってくださいぃ! 」
ここまで如何だったでしょうか?
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