第32話 セシリアとシャルロッテ 3
シルク王国第一王女『セシリア・シルク』の命を受け、助けてくれたハイエルフことハデルを探している『シャルロッテ・シルヴァ』。
彼女は王女の近衛騎士団長としての任務の傍ら調査している。そのためか現状進展がない。
その日も彼女は王城内で調べていた。
考え事をしながら歩いていると誰かとぶつかる。
「っとすまな……申し訳ありません! ヴェルディ閣下! 」
「おお。殿下の近衛殿か。構わぬよ」
ぶつかった相手——魔法省大臣『ハリー・ヴェルディ』は手を振り「大丈夫」という。
考えながら歩いていたせいか目の前の人族の老人に気付かなかった。注意散漫な自分を諌めながらもシャルロッテは敬礼する。
その几帳面な様子をみてハリーは少し笑みを浮かべながら彼女に聞いた。
「久しいな。にしても君が注意散漫とは……何か考え事かな? 」
見抜かれていると思い苦笑いで返すシャルロッテ。
それを見てハリーは「当たった」と少し好奇を燻られた。
優しい瞳をシャルロッテに向けながら長く白いひげをさすりながら、聞いた。
「君を注意散漫にする悩み事とは悩ましいことなのだろう。どれ、少し話を聞かせてくれないかな? 」
その言葉にシャルロッテは警戒する。
しかし同時に「この人ならば」と考える。
王位継承権問題が起こっている中ハリー・ヴェルディは数少ない「ノータッチ」な高官だ。
強いて言うのならば自分の研究を支援してくれる方に助言をする程度。
だからシャルロッテは彼に聞いた。
「実は、とあるハイエルフの方を探しておりまして」
「ハイエルフ?! 」
シャルロッテの言葉を聞いて驚くハリー。
それもそのはず。ハイエルフと言えば超がつくほどの希少種で、しかも一部地域で神聖視されている存在。
驚かない方がおかしいだろう。
意図が読めないハリーはシャルロッテに「何故探しているのかな」と聞く。
特に隠す必要もないのでこれまでの経緯をハリーに伝えた。
するとハリーは顎髭をさすり、少し考え、答える。
「この国周辺で……、『ハイエルフ』で『精霊術師』と言えば『ハデル』師しか思いつきませんな」
それを聞き驚き喜ぶシャルロッテ。
いつもはあまり感情を表に出さない彼女が驚くのをみて、少し頬を緩ませるハリー。
「ワシも偶然認識阻害のローブを脱いでいる所を見てその姿に驚いたわい」
「やはりあのローブには認識阻害の力が」
「左様。外からはエルフにしか見えないようになっているようだ。何でも騒がれたくないと」
「ならば秘密裏に接触する必要がありますね」
それに頷くハリー。
しかし喜ぶシャルロッテに少し申し訳なさそうな表情をして伝える。
「殿下が助けられたお礼の為に探している所悪いのだが、今どこにいるのかさっぱりで……」
「? それはどういう意味で? 」
「ハデル師はつい最近までダンジョン管理局で働いていたのだが、担当していたダンジョンを解雇されたようでな。ワシもダンジョン管理局の者と話した帰りでの」
シャルロッテはそれを聞き動揺する。
「……ハデル師がいなくなった後、ダンジョンから排出される素材の質や量が急激に落ちたらしい。その相談じゃ。全くクビにした奴は馬鹿じゃの。大馬鹿じゃ」
「自分に話しても良かったので? 」
「このくらい調べたらすぐに出る。別にかまわんよ」
「そうですか。しかし足取りがわからないとなると……少し困りましたね。名前が分かったのは良かったのですが」
シャルロッテが少し声のトーンを落としてそう呟いた。
その様子を見たハリーは一つ名案を思い付きシャルロッテに声かけた。
「今度ハデル師がいた町——スタの町にダンジョン調査と言うことで向かうことになっていての。もしかしたらハデル師が何か残しているかもしれぬということでの」
「……」
「ワシはそれに向かうのじゃが……、共に訪れてみたらどうじゃ? 何か足取りがわかるかもしれぬぞ? 」
ハリーの思わぬ提案にシャルロッテはすぐに食いつきそうになる。
しかし自分だけが行くわけにも行かない事に気付き、思いとどまった。
「……一度殿下に聞いてみます」
そう言いシャルロッテは王家が住む区画へ足を向けた。
★
「お名前はハデル様ですか! 」
「はい。巧妙に情報を隠蔽していたようで。あの魔法省のヴェルディ閣下も隠蔽のローブを取るまでは単なるエルフと思い込んでいたようです。しかしながら現在行方不明で」
主に対して申し訳なく思うもシャルロッテは告げた。
居場所がわからない、という彼女の言葉にセシリアは興奮を落ち着けさせて、一旦座る。
赤らめた顔で「コホン」と軽く咳払いをしてシャルロッテに言う。
「候補はあるのでしょうか? 」
「我々が確認したガルドア王国方面か、魔界かくらいしか。しかしヴェルディ閣下より提案がございました」
「それは? 」
「この国を立つ前にいたスタの町へ同行してみては、という提案でございます。件のハデル殿はその町でダンジョンの管理人をしていたとのこと。ならばその地へ行くことで何かしら情報が得られるかもしれません」
「行きます」
セシリアが即座に答えた。
予想していたが即断した主に少し苦笑いしながらも、どこか「ほっと」したシャルロッテ。
椅子に座っているセシリアは紅茶を口につけ、少し考える。
「……時間に関してハリーは何か言っていましたか? 」
「いえ。特に」
「ハリーも執務があるはず。かく言う私も次の炊き出しがありますので行く時期を調整しましょう」
「畏まりました」
「国内ならばお兄様の妨害を受けることは少ないはず。お兄様も国民に恨まれたくないでしょうから」
自信ありげにセシリアが言う。
「現地の情報を集めつつ向かう準備を行います」
「では護衛の準備を行いましょう」
シャルロッテの言葉にセシリアが頷く。
「あとハデル様と親交の深かった人物がわかればいいのですが……」
「追って調べましょうか? 」
セシリアは少し考え首を横に振った。
「現地で私が聞きましょう。もしかしたらハデル様の事のみならず、スタの町の方がこまっていることがわかるかもしれませんし」
「…….少々危険では? 」
「それを言うと今行っている炊き出しも危険ですよ? 」
「あれは引き際が無くなっただけで……。それに殿下が強情に「止めない」と言い張ったのも原因だったと記憶しているのですが——」
「さて準備を始めましょう」
そう言いセシリアは机に向かった。
その——いつもの様子を見てシャルロッテが頬を緩ませる。
扉を出てシャルロッテは少し気分が上向いている自分に気が付く。
ハデルと「また会えること」に期待している自分がおりシャルロッテを悩ませる。
これが何かわからないまま、シャルロッテは護衛の準備を始めるのであった。
ここまで如何だったでしょうか?
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