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第30話 ハデルはカウンターを施す

「お、引っ掛かった」

「本当に?! 」

「あぁ」

「有り得ないんだけど!!! 」


 町長ギュンターが仕掛けた魔法を発動したことに心底ドン引きするサラシャ。

 彼女は体をぎゅっと()めて「本当に気持ち悪い」といった表情をして部屋の(すみ)でブルブル震えた。


 ……。なんというかそんな彼女も可愛いと思ってしまう俺はもしかしてSなのだろうか?


 いや違うな。そこは俺「も」だな。

 とちらりとサラシャの隣を見ると、彼女を見て少し震えているパシィがいた。

 サラシャの前だから自重(じちょう)しているのか平常心を(よそお)っているが、肌はほんのりと赤く(わず)かに震えている。


 変態だな。


「にしても王女がいる建物に一介(いっかい)の町長が探知魔法をかけるか? 」

(あや)しさ満々(まんまん)ですね」

「ふ、不敬(ふけい)罪で即処刑しよう! 」

 

 部屋の隅から物騒なことが聞こえてくる。


「それは流石にやり過ぎだ」

「い、一応ボク王女なんだけど」

「言い逃れなんて幾らでもできるから、一方的な処刑は無理だろう。まぁ本当に不敬罪だが」


 それを聞くとサラシャは「むむむ」と(うな)りながらこちらに近付いて来た。

 そろり、そろり、と四つん()いで向かってくる彼女に笑みを浮かべて一言言う。


「今頃ギュンターは大変な目にあってるだろうな……」


 それを聞き、そのままの状態でコテリと小首を傾げるサラシャ。


魔法反射(カウンターマジック)()ね返したし」

探索(サーチ)を跳ね返しても何も起こらないんじゃ? 」

「いやいや俺がそんな甘い事をすると? 」

「思えないね」

「おいちょっとまて。俺の認識はどうなってるんだ? 」

「歩く災害」

「同志」

「……後で俺の認識について話し合う必要性がありそうだな」


 軽く嘆息し二人に向く。


「実は魔法反射に幾つかの魔法を付与していたんだよ」

「なるほど。付与した魔法で役場ごと爆破した、と」

「……気持ち悪い奴だったよ。ギュンター。だけど君の事は忘れない。気持ち悪い奴として」

「本当に俺の認識を(あらた)めようか」


 流石に探知魔法を使われたくらいで相手を爆破しない。

 しかしあれだな。サラシャは(あわ)れんでいる様子だが、言っている内容は何気(なにげ)(ひど)い。

 すでにギュンターが死んでいるかのような雰囲気を出す二人に、俺は溜息をつきながら言う。


麻痺(パラライズ)をかけただけだ」

「「え??? 」」

「何その意外そうな顔?! 」


 俺が言うと二人は顔を見合わせた。


「てっきり爆破か爆破か爆破をしたのかと……」

呪い(カース)くらいはかけるかと」

偏見(へんけん)(はなは)だしい……」


 俺は呟き肩を落とす。

 するとサラシャが「つまらない」とか言い出してベットまで行き足を放り投げた。

 黒いニーハイに包まれたサラシャのおみ足に目をやるが、すぐに我に帰り嘆息気味に言う。


「まぁ麻痺(パラライズ)だけでも数日は動けないだろうし、良いじゃないか」

「「え? 」」

「数日体が(しび)れて動けないくらいの罰で良いじゃないか。殺さなくても」


 それを聞いたサラシャはおずおずと言った感じで聞いて来た。


「ちょっと確認なんだけどさ……。麻痺(パラライズ)ってそんなに長く効いたっけ? 」

「こんなもんだろ? 」

「いえ、精々もっても一分程度かと」


 そんなに弱い魔法だっけ? 麻痺(パラライズ)って。

 そう思っていると首を振りながらサラシャはパシィに言った。


「……ハデルはボク達のことは言えないね」

「もし本当に数日麻痺状態が続くのならば、ハデル様も十分に鬼畜(きちく)と言えるでしょう」


 二人が口々に俺を酷評(こくひょう)していくが……、解せぬ。


 ★


 いつの間にかパシィが淹れた紅茶を飲み俺達は一息ついていた。

 カウンターを食らわせた後、この部屋に掛けられている魔法を全部解除したことで安心したのかサラシャは落ち着いた様子で椅子に座っている。

 その後ろで不気味なくらいに落ち着いたパシィが立つ中、彼女が静寂(せいじゃく)(やぶ)った。


「怪しいとは思っておりましたが……怪しくなりましたね」

「何かこの町の雰囲気が悪いの、ダンジョンとか冒険者だけが原因じゃないような気がする」


 そう言う二人に「そうだな」とだけ答えて紅茶に口をつける俺。

 俺の返事が不満だったのかサラシャが「む」っとした表情で言ってくる。


「……何かこの町で犯罪が起きているかもしれないのに、関心薄すぎ」

「俺の仕事はあくまでダンジョンの管理人だしな。実際町の事となると手を出しにくい」

「でもさぁ」


 少し不貞(ふて)(くさ)れるサラシャに苦笑いで返す。


 幾ら俺達が国家公務員とはいえ町の行政に直接口を出すことはできない。出来るとすれば行政側の不正を知った時魔王リリスにチクるぐらいだ。

 流石に証拠もなしに「即処罰」とはいかない。

 まぁこれがダンジョンにかかわりのない事ならばだが。


 と考えていると、ふと頭を(よぎ)った。


「そう言えばサラシャはどうして俺について来たんだ? 」

「何、急に?! 」


 実際彼女のダンジョンに関する知識は一般人レベルの様に思える。

 もし彼女が他のダンジョンで訓練を()んで俺の補佐(ほさ)をするというのならば自然なのだが、素人が補佐をするというのは(いささ)か不自然に思える。

 彼女ならばあとは王城で優雅(ゆうが)な日々を送れたはずだ。


 加えて今回の仕事は単純な運営・経営ではない。

 立て直しである。

 よって素人に補佐をさせるという魔王リリスの判断が読めない。


「そ、それは……」


 と顔を赤らめ頭から蒸気をだしてもじもじしだす。

 少し様子がおかしいが俺が好きだから……というのは安直(あんちょく)すぎだろうな。

 パシィの方をみる。

 なにやら「残念なもの」を見るような目で俺を見てくる。何故そんな目線で見てくるのかわからないがどうやら不興(ふきょう)を買ったようだ。


 しかし今回の件はサラシャの意思のみとも限らない。

 ならば——。


「リリス女王の指示か? 」

 

 そう言うと複雑そうな顔をしてパシィが言う。


「サラシャ様が進言したのです」


 それを聞き更に眉間に(しわ)()せる。

 

「しかし一国の王女が働くような場所でもないだろう? 危険だって多いし」

「確かにそうですが、これでもサラシャ様の戦闘力は非常に高いので「危険」ということはないでしょう」


 確かに戦闘力は高い。


「サラシャが進言し、リリスが承諾(しょうだく)した、と」

「その通りでございます」

「……魔王リリスの考えが読めないな。潰れる可能性が高いダンジョンで何をさせたいんだ? 」

「実務訓練をさせ、実績を積ませたかったのでは? 」


 パシィがそう言う。

 実績……、なるほど。次期魔王としての実績か。そう言われると納得だ。

 そう一人で納得しながらも、俺はこの部屋で休みを取った。

ここまで如何だったでしょうか?


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